魔王と白い粒々
俺がイニャスに教えたのは、人間の村での振る舞いだ。
二足歩行すること、人間を殺したり食べたりは厳禁、大声を出したりせずに話を聞くことに努めること……等々。
そして、困ったことや分からないことがあったら、ひとまず一度城に戻ってきて、俺に指示を仰ぐことと、一週間に一度は必ず情報の報告の為に城に来ること。
「わかったぜー!」
「じゃあ、早速頼むよ。これ、とりあえず一週間分の銅貨ね。」
アルドに聞いた、人間の村で一週間暮らすのに必要な金額を渡す。
「ありがとー! じゃ、行ってくるなー! 勇者の情報、頑張って集めてくるー!!」
「頑張らなくていいから! 自然に情報集めしてくれればいいから!!」
長い期間潜伏してもらうのが目的である以上、頑張って目立たれると困る。
イニャスを村に潜伏させる役目に任じたのは、人とあまり変わらない見た目だということ以上に、あの愛嬌の良さが理由だ。
年令が低く見えて愛嬌が良いっていうのは、情報収集においては大きな武器だ。
そういう奴を前にすると、口が軽くなる人は多いからね。
「魔王さまー! 散歩いこー!!」
イニャスを見送った直後、バルタザールがやって来た。
「バルは昨日、魔王さまと遊びたいのをがまんしたから、今日はがまんしないの!」
自己主張が激しい……。
昨日はオーディションがあって、レベル上げに行けなかったからね。
「わかったわかった。今日はいっぱい遊ぼうなー。」
「んー? 魔王さま、この城にあくまがとりついてるよー。」
「え?」
悪魔って……ああ、ラミーヌのことか。
「えーっと、それは取り憑いてるというより住み着いてるってのが正しいかな。……バル、よくわかったね?」
「うん。あくまはねー、あくまっぽい感じがするのー。」
特徴的な雰囲気があるってことか。
「いやな感じー。」
「嫌なんだ……。」
「早くいこー!」
バルタザールに急かされて、城から出る。
「ねえ、バル。悪魔って、普通の魔物とはちょっと違うんだよね?」
俺が、ラミーヌに城のジャメル達の強化を頼んだのは、アルドに悪魔の特殊な性質を聞いたからだ。
候補者達の特徴やら種族的に得意なことを、こと細かに聞いたら、うんざりしたっぽい顔をしつつ、教えてくれた。
「そうだよー。あくまはねー、あんまり他のまものとは群れないのー。だから、一緒にいるとしたら、そのまものにとりついてるときなのー。」
「そうなんだ……。でもラミーヌ、普通にオーディションに応募してきてたけど……。」
あわよくば、魔王取り憑こうとしたとか?
……そんな性格じゃなさそうだけどなー。
「バル、あくまには直接あったことないから、違うあくまも居るかもなのー。」
「……まあ、個体差はあるよね。」
「あくまのことばっかり考えてないで、バルと遊ぼうー! 魔王さまー!!」
なんか、彼氏が他の女の話したときの彼女みたいな反応だな……。
「はいはい。今日はちょっと遠出してみようか!」
「どの辺に行くー?」
「この前行った、ドラゴンの巣の近くに行ってみたいなぁ。」
「わかったー! しっかりつかまっててね!!」
結局、日が暮れかかるまでバルタザールとレベル上げをして、城に戻った。
「あー、たのしかった!」
「……まさかドラゴンといきなりエンカウントするとは……。」
「ねー! びっくりだったねー!!」
「バルの逃げ足の速さにもびっくりしたよ。」
「ドラゴンには、ふたりじゃ勝てないよー。」
そんな話をしながら城内を歩いていると。
「まおう、さま。ごはん……たべる、ますか?」
「ああクレマン、ありがとう。もらうよ。」
「…………。」
クレマンがこっちをじっと見てる。
……バルタザールを見てる?
「……一緒に食べてく? バル。」
一応、意思を汲んでみる。
「あいつ居るから、いやー!」
さいですか。
「じゃあ、また明日かな。」
「ばいばーい!」
バルタザールは元気に去っていった。
「さて、じゃあ食堂に行こうか。」
ちなみに食卓に載っていた、クレマンが見つけたという白い粒々は……なんていうのかな、小麦粉を丸めた感じ?
これじゃない……っ!
って思ったけど、言いにくかったから、「また別のがあったら教えてねー」と言っておいた。