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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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やってくれたな

俺とこうすけは、オリヴィちゃんと同じ宗教の信者じゃないから、呪文が発動したかどうかは、自分では分からない。

ただ、周囲の人達の反応を見る限りでは、きちんと唱えられたようだ。

「あれ? クァンタン様の周り、何か黒いものが見える……?」

「本当だ……。他の人は普通に見えて……あっ! あの突然入ってきた奴の周りにも、同じような黒いのが見えるぞ!?」

「皆さん、見えましたか? あそこにいる人とクァンタン……は、同じ魔族なのです。」

オリヴィちゃんの言葉に、村人が戸惑いの表情を見せる。

「そんな……。」

「クァンタン様が、魔族だなんて……。」

「皆様、落ち着いて----。」

ざわつく村人を納めようとヨルゴが声を上げるか上げないかのタイミングで、アルドが、呪文の詠唱を始めた。

その呪文を聞いたヨルゴの顔色が露骨に変わる。

自身が唱えたことのある、魔族から核を分離させる呪文なのだから当然だよね。

ただ、これも当然ながら、唱えたことがあるということはその弱点も知っていると言うことだ。

ヨルゴがアルドの呪文に対抗する呪文を唱え始めた。

俺はそんなヨルゴに向けて威力の高い、風の呪文を唱える。

風の呪文の詠唱時間は、アルドの唱えているものに比べれば十分の一以下だ。

対して、ヨルゴが唱えなければならない呪文は、アルドのものより少し長めのものになる。

対抗呪文とは、得てしてそういうものらしい。

呪文を唱えるヨルゴの周りで突如、突風が吹き荒れる。

風って、あまりに強く吹くと息が吸えなくなるんだよね。

息が吸えなければ、当然声が出せなくなる。

つまり、呪文の詠唱も止まるわけだ。

ヨルゴが舌打ちをして、アルドの詠唱を中断させようと走り出す。

風の呪文を使われたことで、魔導師がアルドの味方に居ると判断したのかもしれない。

でも、それは外れ。

俺としては、呪文合戦よりも物理攻撃を止める方がまだマシだ。

「みんな! ここから離れろ!!」

こうすけが、村人をこの部屋から退避させようと声を上げる。

村人達は前後の扉から、我先に逃げ始めた。

本当なら皆に全部見てもらえるのがいいんだけれど、アルドの呪文に巻き込まれて村人に死傷者が出るのは良くないからね。

さあ、ここからが正念場だ……。

あと……20秒弱、かな。

俺は、突進してくるヨルゴに対して左足を大きく後ろに下げ、体勢を低くしてヨルゴの腰の高さに両手を置く。

そして、ヨルゴを真正面から受け止めた。

「ッ!?」

何もないところで突然止まった形になったヨルゴが、姿を消している奴が居ると分かったらしく、素早く後ろに下がった。

ここで、俺の姿を炙り出すための呪文を唱えてくれればいいのだけれど、それは多分無いだろう。

そう思いながら、ヨルゴが唱える呪文を聞いた俺は戦慄する。

雷、だ。

火や水なら上手いこと受け流すことも出来るけれど、雷は……まずいな。

バルタザールに雷をレイヴァティンで受け流せないか聞いてみたけれど、まさかの「ぶつりてきに、むり。」で説明が終わった。

呪文で火や水出せる世界で、半人半馬に物理法則を説かれるとか、それどんな不条理?

……話がずれたけど、とにかく雷はまずいんだ。

でもまさか、逃げ出すわけにはいかない。

アルドが呪文を唱え終わるまで時間を稼ぐのが、俺の役割だからね。

姿が消えている相手にピンポイントで雷を落とすことは出来ないようで、俺のすぐ隣に雷が落ちる。

とはいえ、相手は雷。その衝撃は半端じゃない。

鼓膜が破れたんじゃないかと思う程の耳鳴りがしているし、咄嗟に目を瞑って腕でかばったのに、視界が白っぽくなっている。手や足も痺れている。

俺は痺れる腕で何とかレイヴァティンを構えて、降ってくる破片を防いだ。

その時、身体に衝撃が走り、体勢が崩れる。

何が----?

再び身体に衝撃が走ったところで、その正体が分かった。

醜悪な笑みを浮かべたヨルゴが、三度目の火の呪文を唱えている……!

そうか、破片を防いだことで場所が分かってしまったのか。

呪文をこんな短時間に連続で撃てるなんて……。バルタザールでも少し間を空けないといけなかったのに!

それが分かってしまえば場所を変えないわけにはいかない。

けれど、さっきの雷で、まだ足が動かない……。

ヨルゴの放った火の玉が俺に当たる直前で、俺の前に防護壁が張られた。

オリヴィちゃんだ!

「この、小娘が!」

どうやら俺の鼓膜は破れていなかったようで、憎々しげに言うヨルゴの声が聞こえた。

再び舌打ちをすると、アルドに範囲が及ぶことを重要視したと思われる水の呪文を、ヨルゴは唱えた。

俺は力を振り絞ってレイヴァティンを構え直す。

これを凌がないと、これまでの全てが無駄になっちゃう……!

レイヴァティンを構え直した直後に、凄まじい水流が襲いかかってきた。

オリヴィちゃんが張ってくれた防護壁が、数瞬の時を稼いでくれて助かった。

「ぐっ……!」

どのくらいの時間そうしていただろう?

長かったような気もするし、一瞬だったような気もする。

気付いたときには、俺の周りの水流は足首より下くらいになっていた。

アルドは……呪文は、唱え終わったのか?

身体に力が入らず、へたりこみながら考える。

視界に入ったのは、地面に膝をついているヨルゴと、その側に居るこうすけとオリヴィちゃん。

「くそ……やってくれたな。」

力無く、ヨルゴが呟いた。

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