いよいよ
要らない心配かもしれないけど、いつもと違う行動をとってヨルゴに変な警戒心を与えたくないので、こうすけ達と俺は別々に村に入った。
二人には予め、次の正教会の日の朝10時からの回に決行と伝えてある。
時間については、オリヴィちゃんに聞いた、来る人が一番多い回にした。
後は、時が来るまで目立たずに過ごすことだ。
教会に行き、正教会の予定表が書かれている板を見る。
最悪明々後日まで待つことになるかもと思っていたけれど、運良く明日が正教会の日だった。
今頃アルドは、嘘の魔王の現状をヨルゴに伝えているだろう。
夕方頃には俺も村を出て、アルドと打ち合わせしないといけないね。
「ねー、まーさまー。どーしてもバルは村に行っちゃいけないの?」
少し村の様子を散策してから戻った俺に、バルタザールが言う。
明日に決まった作戦の遂行時に、自分がその場に居られないことが不満らしい。
「ごめんね。次の時だけは、ちょっとどうしても……。」
魔族を追い落とす側が魔物と通じてるのは、印象としてはまずいからね。
「逃げるときの為に、バルには村の外に居て欲しいんだ。」
「んー……。」
「ほら、これあげるから機嫌直して。ね?」
散策の時に買った、クッキーっぽいお菓子をバルタザールに渡す。
「んー……こんなものにはー、だまされないんだからー。」
そう言いながらも、バルタザールは嬉しそうにしていた。
その日の夜になって、アルドが村から出てきた。
「……なんと。協力している魔物とは、ヴァレリーでしたか。」
俺の横に居るバルタザールを見て、アルドが驚いた声を上げる。
珍しく、アルドが来ると分かっても離れたところに行こうとはしなかったバルタザールと、アルドはこれが初対面だ。
「もうこの辺りには居ないと思っておりましたが……。」
俺から離れこそしなかったものの、アルドと直接口をきく気はないらしく、隣で伸びをしているバルタザールの代わりに、俺が答える。
「うん。この辺りにはもう、この子だけしか居ないみたい。」
「左様でございますか。……それで、決行日はいつに?」
「明日の朝10時。」
「明日……ですか。」
アルドがごくりと唾を飲み込んだ。
「俺が姿を消して守るけど、最初に仕掛けるのはアルドになるから、よろしく頼むよ。」
「……はい。」
その後、俺達は明日のおおよその作戦を確認して、眠りについた。
翌日。
朝、目を覚ました俺は、身体をほぐす為にストレッチをしながら、これからの動きを頭の中でシミュレーションする。
とはいっても、ヨルゴがどう動くかが不確定だから、あくまで俺達の予定を確認するだけになっちゃうんだけど。
肝はオリヴィちゃんの言葉を村人がどれくらい受け入れてくれるか、だね。
オリヴィちゃんは明言していなかったけど、村の様子を見ると、オリヴィちゃんは村の人からの信頼があつそうだし、全く信じてもらえないなんてことはないはず。
あとの問題は……俺がヨルゴの呪文に耐えられるかどうか。
ヨルゴのレベルを事前に調べられなかったから、ここは完全に賭けなんだけど、レイヴァティンの性能に期待しよう。
「おはようございます、魔王様。いよいよでございますね。」
「……うん。」
「まーさまー、気を付けてねー!」
手を振って見送ってくれるバルタザールを残して、俺達は村へと向かった。
村の様子は、いつもと変わらない。
正教会の日とあって、いつ行くかという話をしている村人も居る。
……出来れば10時の回に来て下さい。
心の中で思いながら、村の中を歩く。
アルドはフードを被っているけど、そういうファッションの人も居ないじゃないから、堂々としていれば、意外と不審がられたりはしないね。
市場にある時計を見ると、現在の時間は9時少し過ぎ。
もう9時から始まった回は終わっている頃だろう。
「……そろそろ、やってもいいかな。」
アルドがこくりと頷く。
俺は、市場の外れにある物置のような所に入って、姿を消す呪文を唱える。
アルドは、俺の姿を隠すように、市場側に立ってくれている。
呪文は問題なく唱え終わり、姿を消した俺はアルドの肩にポンと手を乗せた。
それを受けてアルドは教会に向けて歩き出す。
決戦のときは、すぐそこまで迫っていた----。




