マジで魔王
レベル上げ中の、ある日のこと。
「ねえ、バル。呪文ってさ、避けずに受けることも出来るんだよね?」
「そーだよー。でも、うけようとしてるのは分かるから、そうしたらバルは、ゆだんしてるやつにむけてうつよー。」
「あ……そっか。じゃあ、姿消して受ける準備してるのも、分かっちゃう?」
「それはわかんないー。どこにいるかは分かるけど、どんなたいせいかは、わかんないよー。」
「そうなんだ。」
「バルだったら、すがた見えなくしてるやつには、呪文じゃなくて武器でこうげきするー。」
「なんで?」
「すがた見えなくするってことは、かたいの着てないからでしょ? だから。」
「……ああ、鎧を着てないから防御力が低いってことか。」
「姿が消えるって、ちょくちょく呪文唱えてるアレだよな? オレは何処に居るかもわかんねーけど?」
「私も、姿が消えてしまうと全然分かりません。」
「バルは鼻が良いからね。匂いで分かるんじゃないかな。」
「魔族は、鼻いーのか?」
「どうだろう? 以前、結構近くに寄ったけど気付かなかったから、バルほど鼻良くはないんじゃない?」
「へ? いつの間にそんなあいつに接近してたんだ?」
「あっはっは。話すと長くなるから、ナイショ。」
そんな話をしたことから、俺はヨルゴの核を奪う際に、予め姿を消しておくことにした。
姿を消したままで呪文を受けると、呪文の効果範囲が予想と変わるみたいだから、それでヨルゴの虚を突ければラッキーだしね。
村に続く街道の脇でアルドを待つ間に、バルタザールに協力してもらって、姿を消したまま呪文を受ける練習をする。
こうすけとオリヴィちゃんには、あまり遠くに行かなければ、レベル上げに行ってもらっていいと伝えたんだけど、俺の練習に思うところがあるのか、近くでオリヴィちゃんをバルタザールの役割にして、同じようなことをしている。
尤も、こうすけは姿を消す呪文は唱えられないから、単純に呪文を受ける練習だけど。
「ぉうわっ!?」
「だ、大丈夫ですか!? こうすけ様っ!!」
「勇者ー、よそみしたらダメだよー。」
バルタザールが俺に向かって呪文を唱えた後で、こうすけに注意する。
二組の組み手を同時にこなすなんて、相変わらずスペックが高いなぁ、バルタザールは。
ちなみに、俺が受けに使うのは、細身の突剣じゃなくてレイヴァティンだ。
呪文を受けると話したら、バルタザールが自主的に返してくれた。
細身の突剣では、呪文を受けるのはまず無理だとか。
曰く、「魔剣かー、こくいんじゅもん入りの剣じゃないとムリだよー。」
突剣は、バルタザールがレイヴァティンを持っていた所に持ってくれている。
「まーさまー、ちょっとまっててー。」
バルタザールの戦闘本能に火がついたのか、こうすけに注意をしに行くらしい。
こうすけが面倒くさそうにバルタザールの言葉を聞いてるけど……真面目に聞いておいたほうが良いよ? バルタザールの指摘は、基本の基本だけど凄く適格だから。
手持ち無沙汰になった俺は、姿が消えている状態のまま、音を立てずに素早く動く練習をすることにした。
数日後。
「あ。あいつのにおいがするー。」
バルタザールが言ったので、こうすけとオリヴィちゃんに街道脇に隠れてもらう。
俺はアルドが来るだろう方向を向いて、街道に立った。
バルタザールは早々に離れて行ってしまっている。
しばらく待つと、アルドの姿が見えてきた。
「御無沙汰しております、魔王様。」
馬から降りて、アルドは深々と頭を下げる。
「うん、久しぶり。俺のレベルが59まで上がったから、ヨルゴに仕掛けようと思ってるけど、核は持ってきた?」
「ええ、こちらに。」
アルドはマントを広げて、胸元に下げている小さな袋を示す。
「よし、オッケー。じゃあ……。」
俺は決行予定日をアルドに伝えた。
「なるほど……。となると、決行日まで、私は村周辺で野宿になりますね。」
「そうなの?」
「私は普段、情報提供が終わったらすぐに引き返しますので。普段と違う行動をとると、怪しまれます。」
「そっか。じゃあ、次の正教会の日を調べて、知らせるよ。」
「よろしくお願い致します。」
短い会話を終えて、アルドは村へと向かっていく。
「……お前、マジで魔王なんだな。」
街道脇から出てきたこうすけが言う。
「え? 今更?」
「いやだってさ、お前のこと魔王って呼ぶのバルだけだったし、お前の雰囲気で魔王とか無理ありすぎー。」
「そんなこと言われても……。」
「あれが、協力者の魔族……ですか。」
オリヴィちゃんが、アルドの去った方を見ながら言った。
「うん。……二人とも、とうとう始まるから、よろしくね。」
「おうよ。」
「……はい。」
俺の言葉に、二人は表情を引き締めて頷いた。




