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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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誰も死なずに

その後、俺達はレベルを上げに行くことにした。

話し合った結果、俺のレベルに合わせた場所に行き、こうすけとオリヴィちゃんは危ないと思ったら後ろに下がることに決めて、目的の場所に向かう。

「こんな方向に来たのは、初めてです……。」

オリヴィちゃんが、少なからず緊張した様子で言った。

「こないだバルと、ここも通ったな。」

「そうだねー。」

「この辺りは、隠れるのが上手い魔物が多いから、気を付けないといけないんだよね。」

まあ、バルタザールが居れば、大抵の魔物を気配で見つけてくれるんだけど。

「モーリスもいるから、レベル上がりやすいよー。」

「モーリス?」

バルタザールの言葉に、こうすけとオリヴィちゃんが首を傾げる。

「尻尾の長いウサギみたいな魔物なんだよ。結構経験値がもらえるけど、動きが素早くて、倒すのはちょっと大変かな。」

「うさぎ……?」

オリヴィちゃんには伝わらなかったみたい。

そういえば、この世界でウサギって見たことないなぁ。

「ほー。……あいつみたいな?」

こうすけが納得したように頷きながら、前方を指差した。

見ると、そこにはモーリスが居る!

モーリスはこっちに気付くと、まさに脱兎の如くといった体で草むらに飛び込んでいった。

「あー、にげたー!」

バルタザールが声を上げて、モーリスを追いかける。

「あっ! ……行っちゃったか。俺達も追おう。」

「えー? マジでー?」

こうすけが不満を漏らす。

「ここでバルが居なくなると、俺だけでこうすけとオリヴィちゃんを守るのは難しいよ。」

「よし、追おう。今すぐ追おうぜ。」

一瞬で意見を翻したこうすけと、苦笑いのオリヴィちゃんを連れて、俺はバルタザールを追いかけた。


そんな感じでレベルを上げること三週間。

こうすけとオリヴィちゃんはレベル48に、俺はレベル59になり、バルタザールは73レベルになった。

俺のレベルが上がったのはもちろんだけど、こうすけ達のレベルがここまで上がったのは、正直助かる。

本当は俺のレベルを60まで上げておきたかったけど、間に合わなさそうだから仕方ないよね。

で、ここまでレベルが上がって分かったことがあるんだけど、こうすけには、勇者補正はどうやら掛かっていないみたい。

ステータスを聞いてみると、どれも俺のものより順当に低い。

つまり、最初のときに低レベルだったこうすけがオラスやエルワン、ゴーチェを打倒し得たのは、ヨルゴが手伝っていたからの可能性が高いってことだね。

そういえば、姿を隠した魔導師がいたなぁ。

そいつがヨルゴだったとかかな?

呪文の威力は手加減が出来ないけど、唱える呪文自体を低レベルのものだけにすれば、レベルが低い振りは出来るもんね。

「いやぁ、オレら強くなったよなあ!」

「そうですね。だいぶレベルが上がりました。」

「ま、結局こいつには追い付けなかったけどな!」

「でも、レベル差は縮まってきたじゃない。」

「でもよー。」

「まあ、ここから更にレベルは上がりにくくなるからさ。」

なんで俺がこうすけのご機嫌とりをしなきゃならんのか。

「ところで、私達は今、何処に向かっているのですか?」

オリヴィちゃんが俺達の会話の間を縫って聞いてきた。

「村とは少し、方角が違う気がするのですが……。」

村が近づいてきているから気付いたのだろう。オリヴィちゃんは見慣れた景色と違うと、キョロキョロしている。

「ああ、うん。村に続く街道の途中で、魔王側の協力者と待ち合わせることになっててね。」

俺は軽く事情を説明した。

「なるほどな。」

「で、決行日を正教会の日にしようと思うんだけど、オリヴィちゃん、次の正教会の予定日って、知ってる?」

「いえ……すみません。ただ、正教会は2~3日おきに行われていますので……。」

「そっか。じゃあ『アルドが到着した翌日以降の正教会の日』に決行日を決めれば良さそうだね。」

「その日じゃいけねーの?」

「その日だと、夕方から夜になるから、ヨルゴが魔族であることを目撃してくれる村人が少なくなっちゃう可能性が高いなと思ってさ。」

「……やはり、村の皆さんの前で行うのですか?」

オリヴィちゃんが渋い顔で言う。

「うん。リスクは勿論高いんだけど、皆の意識を一変させるインパクトが必要だから。ごめんね。」

「なーに、このもうすぐレベル50になるオレに任せろって! 村の奴等をしっかり守ってやるからよ!」

「……分かりました。」

レベル上げの途中で何度か同じような問答をしていたからか、渋々ではあるが、オリヴィちゃんは頷いた。

「誰も死なずに和解を成立させる為に、考えたことですもんね。」

「うん。他にもっとスマートな方法があるかもしれないけど、俺にはこれしか思いつけなかったんだ。だから、よろしくお願いします。」

俺は二人に対して深々と頭を下げた。

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