オーディション結果と魔王の配下
食事会という名の本選が終わって、自室で俺は考える。
さて、誰を配下にするか……。
魔王領とされるところにある砦は、二ヶ所。
そのうち一ヶ所は、大昔に作られた罠がまだ利用可能で、通称双子砦と呼ばれている。
簡単に言うと、砦Aにあるボタンを押さないと砦Bにある扉が開かない、みたいな感じの仕掛けだ。
パーティー分断用の罠だね。
地味に時間稼ぎが出来そう。
もう一ヶ所は、最も人間の領土に近い場所にあり、堅牢と名高い砦だ。
誰をどう配置するか---と考えていると、扉がノックされた。
「ん? 誰?」
「まおうさま、かたづけおわ……り、ました。」
「ああ、クレマンか。お疲れさま。」
言いながら扉を開ける。そこには、少し嬉しそうな顔のクレマンが居た。
「たくさん、りょうりつくる……たのし、かった。」
「そっかそっか。今日はありがとうね。助かったよ。」
「また、やるとき、いう……いって、くださ、い。」
「うん、わかった。じゃあ、今日はもう休んで、明日からまたよろしくね?」
「はい……。あ、しろい……つぶつぶ、みつけた。こんど、だす……ます。」
「え、ホント!? 見つけてくれたんだ? 楽しみにしてるよー!」
俺の言葉にひとつ頷いて、クレマンは去って行った。
さて、と。
もう少し配置を考えたら俺も寝よう。
翌日。
候補者達には昨夜一晩、城に泊まってもらった。
今日改めて配下にする者を発表すると伝えてあるので、今、俺の目の前に居る候補者達は、それぞれに緊張顔だ。
あ、悪魔の女の子……目の下に隈が出来てる……。そんなに緊張してたのか。
俺は全員の顔を見渡して、口を開く。
「おはよう、皆。さて、早速だが砦の防衛にあたる者を発表しよう。」
ピリッと場の空気が緊張した。
「まずは双子砦の防衛。これはエルワンとゴーチェに任せる。」
俺の言葉に、ドラゴン連れの人型と二足歩行のライオンが反応する。
「は……ありがたき幸せ……。」
「砦の防衛は構わねぇが、背中を預ける奴が気にくわねぇな。」
「それはこちらの台詞ですよ。魔王様、このような野蛮な者と組むのは不安なのですが。」
互いに睨み合う二人。
「まあまあ、これには理由があってね。二人はいいライバルになると思うんだよ。」
「はぁ……。」
「あぁ? ライバルだぁ?」
「そう。君らが守る双子砦は、互いの砦に仕掛けがあって、それがもう一方の砦の進路を塞いでる。」
「ええ……。」
「ということは、勇者サイドは戦力を分散するしかない。」
「ほう。で?」
「もし、戦力を分散して突入する砦が、二人が競って罠を張ったり戦力を整えたものだったとしたら、上手くいけばそこで、勇者を仕留められると思わない?」
俺の言葉に、二人の目がギラリと光る。
「そりゃあ、面白そうな話だな。」
「……悪くない話かもしれませんね。」
「ってことで、よろしくね? 現存する双子砦の罠を潰しさえしなければ、他にどんな改造をしても構わないから。」
「戦力を整えるのもお任せいただけるので?」
「うん。俺は俺で、やることがいっぱいあるから、砦の運営は全て任せるよ。」
「悪くねぇ話だな。こいつより凄え砦を作ってやるぜ。」
「それはどうでしょう? 砦の強さは、単純な戦力では決まりませんからね。……頑張りましょうね、ファブリス。」
おお、二人ともやる気が出たようだ。良かった良かった。
「では次に、現在人間領に一番近い砦についてだが……これはオラスに一任する。」
昨夜、エルワンとゴーチェのいがみ合いを収めた巨体の牛鬼に目を向けて言う。
「お、オレですかい。かしこまりやしたぜ。」
「砦の運営については、同じく一任するよ。」
「はいよ。」
軽く右手を挙げて了解の意を示すオラス。
あ、アルドが睨んでる。オラスの気安い態度が原因かな。
「ねえ、おいらはー?」
「オメーは使われねーんじゃねぇか?」
物欲しそうにしている人狼の少年---イニャスに、ゴーチェがからかうように声をかける。
「えぇ~、そんなぁ~……。」
耳を下げて、目に見えてしょんぼりするイニャス。
仕草が犬っぽい。きっと、尻尾も下がってるんだろうなぁ……。
「なあ、魔王様ぁ~! おいらは何かやることないのかっ?」
イニャスの様子に和んでいたら、泣きそうな声を出された。
「ああ、イニャスには潜入任務をお願いしようと思っているんだ。」
「潜入任務ぅ? こいつに出来んのかぁ?」
懐疑的な目を向けるゴーチェ。
「ときどき人間の町に行って、勇者の噂とかを聞いてきて欲しいんだよ。」
「なるほど。この子供は、見た目あまり人間と変わらないですからね。偵察には向いているかもしれません。」
エルワンが顎に手を当てながら呟く。
「子供じゃねーよ! イニャスだっ!!」
牙を見せて威嚇するイニャス。
……ますます犬っぽい。なごむなぁ。
「あのぅ……私は……?」
悪魔の女の子が、小さく手を挙げる。
俺が見ると、女の子は飛び上がるように肩を震わせた。
「あっ、す……すみません! 私に出来ることなんて---」
「ラミーヌには、城のジャメル達の強化をお願いしたいんだ。」
「……え、っ?」
俺の言葉に、意外そうな顔を見せるラミーヌ。
「なるほど。悪魔による強化ですか。それなら弱小の魔物でも、ある程度は戦えるようになりますね。」
「おぉ! そういや、悪魔は他の魔物に干渉して、パラメーターをいじれるんだったな!」
エルワンとオラスは、俺の意図をすぐに理解したらしい。
「あぅ……えっ? 私が、強化ですかぁ!?」
ラミーヌがおろおろしている。
「え? もしかして、出来ない……?」
「いえ、出来ますが……私の強化で、いいんですか?」
「なぁに言ってんだ。悪魔以外は他種族の強化なんて出来ねえんだから、お嬢ちゃんしか選択肢はないだろうよ!」
オラスの言葉に、納得したようながっかりしたような顔で、ラミーヌは頷く。
「そ、そうですよね……ここには私しか居ないんですもんね……。」
「じゃあまあ、そんな訳で、砦組はそれぞれ、自分の持ち場に行ってもらえるかな? イニャスは、俺が指示を出すから、ちょっとここで待ってて。ラミーヌはジャメル達が待ってるから、衛兵の待機室にお願い。」
「おうよ。」
「それでは、失礼します。」
「俺の砦までは遠いからな。準備運動がてら走るか!」
その場から動かずにいるラミーヌに、アルドが声をかける。
「衛兵室はこちらです。」
「あっ、はいぃ!」
ラミーヌがアルドに連れられて出ていき、部屋には俺とイニャスだけが残った。
イニャスは俺からどんな指示が出るのかと、わくわくしているようだ。
「さ……始めようか。」