あとでな
翌日。
「んじゃ、あとでなー。」
「うん。またね。」
俺達は村で、それぞれ準備をすることにした。
こうすけとオリヴィちゃんは、財布が一緒なので一緒に買い物をするらしく、二人で市場へと入っていった。
さて、と。
俺はまず、遠巻きに様子を見ようと教会に向かう。
今日は正教会は行われていないらしい。
よし、また姿を消す呪文で潜入しよう。
今回は家と家の間にある、狭い路地の突き当たりで呪文を唱えた。
うん、焦らなければ成功率は良いんだよね。
部屋の場所を聞いているとはいえ、扉や足音なんかに気を付けないといけないから、あまり時間に余裕があるわけではない。
慎重かつ大胆にいかないとね。
教会内に入るには、正教会が行われる聖堂を通るしかない。
裏口もあるけど、中から鍵がかかっているので、鍵開けの技術が必要になるね。
聖堂の扉を少しだけ開けて中を見てみると、幸い誰もいないようだった。
熱心な信者が、個人でお祈りでもしてるかと思ったけど……。
ま、ラッキーだと思っておこう。
さっさと聖堂を抜けて、目当ての部屋へと向かう。
その部屋は教会内にある一際高い塔の、三階にあるらしい。
そこにある箱が、俺の目指すものだ。
まあ、鍵が合っているかどうか分からないし、合っていたとしても中身がアルドの核とは限らないけどね。
石畳の階段を、音をたてないようにそろそろと上る。
やがて、目的の部屋が見えた。
扉のノブをゆっくりと回すと、カチャリと音をたてて扉が開く。
中は少し埃っぽいが、整然としていた。
背もたれの一部が欠けている椅子や、一部を既に解体したと思われるテーブルなんかが並べられているが、ぱっと見では箱らしきものは見当たらない。
えっと……入り口から見て右奥の壁際、だったよね。
オリヴィちゃんに聞いた箱の場所を目指して、机や椅子をどけていく。
……音をたてないように物をどけるって、結構大変だね。
結構な数の物があったから、箱にたどり着くのに20分以上はかかった気がする。
ようやくそれっぽいものを見つけたので、鍵を取り出して鍵穴に差し込んでみた。
……カチャリ。
軽い音をたてて、鍵が開く。
中にあったのは、紅く光る拳大の石のような塊だった。
アルドに核がどんな形をしているか聞いたときには、詳しい形状は分からないが、拳大の大きさだと言っていたから、これで当たりかもしれない。
さてと、それじゃあ。
ヨルゴに気づかれにくくするために、箱に鍵をかけ、蓋を閉めなおす。
そして、さっきとは逆に机や椅子を並べ直す。
ヨルゴが順番まで覚えているかどうか分からないけど、用心しておくにこしたことはないからね。
……にしてもこれ、どけるより戻す方が大変だなあ。
音をたてないようにっていうのが一番厄介な条件だ。
姿が消えている時間も、残り少ない。
ちょっと急いで帰らないと。
最後の椅子を戻して、さて部屋から出ようというときに、コツンコツンと足音が聞こえてきた。
……ヤバい。ヨルゴか?
階段は螺旋状になっているので、上ってきている人物は部屋に来る直前まで見えない。
呪文の効果時間が部屋の中で切れるのが一番不味いので、慎重に部屋から出て螺旋階段を更に上がり、姿を隠しておく。
この上にあるのは鐘を鳴らす台くらいで、普段使われてはいないようだから、この廃材置き部屋が目的地だと思うんだけど……。
少しして、ヨルゴの姿が見えた。
目的地はやはり、廃材置き部屋だったようで、扉を開けて部屋に入っていく。
中で作業をしているのか、なかなか出てこない。
その上、扉を開けたままで作業をしているので、俺も降りるに降りられない。
そうしている内に、うっすらと姿が現れ始めた。
く……、時間切れだ。
ここで呪文を唱え直すことは出来ない。
石畳に石壁のこの場所では声が響きすぎる。
冷や汗を垂らしながら、ヨルゴが早く去ってくれることを祈った。
やがて、作業を終えたらしく、部屋の中での音が止んだ。
頼むから……このまま降りて行って……!
俺の願いもむなしく、階段を上がってくるような音がした。
俺は慌てて、足音をたてないように更に上に上がる。
どうしよう? もう少し行ったら鐘の台に着いてしまう。
そうなったらもう隠れようがない……!
と、そこで救世主の声が聞こえてきた。
「クァンタン様ー? こちらにいらっしゃるのですかー?」
オリヴィちゃんだ!
買い物を終えて、ヨルゴに報告に来たのだろう。
「クァンタン様ー?」
オリヴィちゃんがコツコツと足音を立てて階段を上がってくる。
「ああオリヴィ、此所ですよ。」
ヨルゴは柔和そうな声を出す。
「やはりこちらでしたか。廃材運び、お手伝い致しましょうか?」
「……そうですね。久しぶりに鐘の点検をしようかと思いましたが、折角オリヴィが来てくれたことですし、いつもより多目に運んでしまいましょうかね。」
……ナイスアシスト、オリヴィちゃん!
いや、オリヴィちゃん自身はそんなつもりないけどね。
二人が降りていくのに、だいぶ後ろからついていって、二人が塔を出ていったのを確認してから呪文を唱え直して、俺は無事、教会を後にしたのだった。




