優しくはない
オリヴィちゃんと二人、森の奥にいる魔物を狩る。
うーん……そろそろ別の場所に行ってもいいんだけど、そこまで距離があるんだよな~。
ちなみに、こうすけを乗せたバルタザールは、俺のレベルを上げてくれた所まで行っているんだろう。
1日で帰ってくるかなぁ?
「……あの。」
オリヴィちゃんが、意を決したように話しかけてきた。
「うん?」
「貴方は、クァンタン様を……その、殺すつもりなんですか?」
単刀直入に聞いてくるなあ。
「それは、最後の手段かな。一番穏便にいけるなら、ヨルゴはこのままで、ロワイエ教の教義だけを変えてもらう。一番過激にいかなきゃならないなら、ヨルゴを殺さないといけない……って感じ。」
「……やはり、考えが柔軟なんですね。」
「ん? やはりって?」
「実は----。」
オリヴィちゃんによると、この半月ほど、こうすけと色々な話をしたのだという。
以下はオリヴィちゃんに聞いた二人の会話の再現だ。
「こうすけ様は、あの方が魔王であることはご存じなのですか?」
「おう。本人からそう聞いたよ。」
「何故、魔王と聞いてなお、あの方と付き合いを続けておられるのですか!?」
「最初はオレもビビったけど、あいつに言われたんだ。魔王であるあいつは、勇者であるオレと仲良くしに来たって。」
「ですが、騙されている可能性も……!」
「騙し討ちするなら、最初に会った時点でしてるって。だってオレが最初にあいつに会ったの、レベル1の頃だぜ? あいつはその時点でもうレベルをある程度上げてたっぽいし。」
こうすけは、一緒にレベル上げをしていた数日間で、自分とのレベル差を強く感じていたらしい。
だから、俺と別れたあとは、俺に追いつこうと、オリヴィちゃんを引っ張るくらいの勢いでレベル上げに行っていたのだとか。
意外だ。
それと、こんな話もしたらしい。
「クァンタン様のこと、どうお考えですか?」
「あー、オレも話してみたんだけどさ、なんでああ、考えが固いかな?」
「固い……ですか?」
「時代の流れによって教義が少しずつ変わっていくこともあり得るんじゃねーの? っつったら、『私がいる限り、そんなことはさせませんよ』って言われたぜ。」
「それって……。」
「つまり、あいつが現役の間は勿論、引退したとしても、裏で糸引くぜってことなんだろ?」
「そうとは限らないかと……。」
「あいつが魔族ってことを考えると、引退はしねーぜって意味にも取れるか。」
「そういう意味ではなかった……んですが、確かにそれはそうかもしれませんね……。」
「ま、それはともかく。殉教っての? 自分が正しいと信じてるからなんだろーけどさ。人を導く立場の奴より、魔王の方が考えが柔軟ってのも、おかしな話だよな。」
そう言って笑ったこうすけを見て、そこで初めて、オリヴィちゃんにとっては突飛でしかない俺の考えが、柔軟という評価にもなるのだと気づいたらしい。
「こうすけ様は、柔軟な考えの奴のほうが面白い、と仰っていました。」
「こうすけらしいね。……でも、オリヴィちゃんは違う?」
「私は……クァンタン様に、恩があります。」
「そっか。捨てられたところを拾ってもらったとか?」
「そうです。」
「それじゃあ、裏切るのは----。」
「でも、そう考えると、私は魔物と共に生きることを選択したことになるんですよね。……別の魔物を敵として。」
まあ、魔族も魔物の一種だし、そうかもしれない。
「貴方に賛同すると、敵とするものなく、魔物と共に生きることになる。」
なるほど。どちらに転んでも魔物を受け入れたことになるから、気持ちの整理をつけづらいのか。
「真面目なんだね。」
俺の言葉に、オリヴィちゃんが困ったように笑う。
「こうすけ様にも言われました。……クァンタン様にも、言われたことがあります。」
「そういう性格なんだね。」
「……強制、しないんですね。」
「ん?」
「『どちらでも同じなら、俺の方につけ』とでも言ってくれれば、身の振り方を決めやすいのに……。」
「その言葉、言ったらオリヴィちゃんが敵に回るやつだよね? 言わないよ。」
「……。」
「それに、今のオリヴィちゃんの選択肢だと、どっちを選んでも後悔はするだろうからね。そういうときには、自分できちんと決めないと。」
オリヴィちゃんは一つ嘆息すると、嘆くように言った。
「あーあ。こうすけ様は『オレについてくりゃ間違いないって!』とか軽々しく仰るし、魔王は悪い人じゃないし、これでクァンタン様についたら、私がワガママみたいじゃないですか。」
……んん?
「それって、つまり……。」
「クァンタン様を殺さなくて済むのなら、協力しますってことです!」
皆まで言わすなとばかりに、顔を赤くして言うオリヴィちゃん。
「……そっか、ありがとう。」
素直に礼を言ったら、顔を逸らしてこう言われた。
「悪い人じゃないですけど……優しくはないですよね、貴方は。」
前半はともかく、後半は尤もだと思ったので、俺は笑顔でこう返すのだった。
「まあ、俺は魔王だからね。」




