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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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こくいんじゅもん

レバーを上げて扉を閉め、ヨルゴの私室を出る。

幸い、ヨルゴはまだ戻ってこなさそうだ。

今のうちに、さっさとここを出よう。


正教会の合間の、人が少ない時間だったようで、特に見咎められることなく教会を脱出出来た。

そのまま村を抜け出して、バルタザールの所まで戻る。

「おかえりー、まーさまー。」

姿が消えているのに、バルタザールは俺の方を見て、俺が声を出す前に声をかけてくる。

「ただいま。……俺、ちゃんと姿消えてるよね?」

「うんー。まーさま、上手になったよねー。」

良かった。……バルタザールがあまりに普通に見えてるっぽいと、不安になるよね。

まあ、ここまで来ちゃえば、いつ姿が見えても大丈夫だけど。

「ねぇ、バル。これ、どんな感じがする?」

アルドの核が入っているとしたら、嫌がるかなと思って聞いてみる。

「んー? こくいんじゅもんの箱だねー。」

バルは普通に答えた。

「こくいんじゅもん?」

「うんー。物にねー、きざみこむことで、長くじゅもんのこうかが出るのー。」

そんなものがあるんだ……。刻印呪文、ってことか。

「嫌な感じとか、する?」

「べつにー?」

……もしかしてこれ、ハズレ?

「でも、大事なものみたいー。」

「え? そうなの?」

「ふつうはねー、わざわざ、こくいんじゅもんなんか使わないよー。」

「そうなの?」

「うんー。かいじょするのがねー、めんどくさいのー。」

バルタザールによると、刻印呪文の解除には、決まった手順があるらしい。

「バルはこれ、解除できる?」

「まぞくの文字がつかわれてるから、できないー。」

魔族の文字……。てことは、アルドなら解除出来るのかな。

「それよりまーさまー! 遊びにいこーよー!」

それより……ね。バルタザールにとってはそこまで重要度の高いものじゃないってことか。

「アルドにこれを渡さなきゃいけないから、ちょっと待っててくれる?」

「んー……。」

実に嫌そうな表情のバルタザール。

「早くあそびにいきたいなー。」

「ごめんねー。先に行っててくれてもいいよ?」

「んー……じゃあバル、ちょっと行ってくるー。」

言うが早いか、バルタザールは駆け出した。

早くアルドに会えるといいんだけどな……。


姿が消えなくなってからも、しばらく待っていると、アルドが馬でやって来た。

心なしか、行きより馬の速度がゆっくりな気がする。

「アルド。」

「ああ、魔王さま。やはりいらっしゃいましたか。」

どうやら俺が此処に居るのを予測していたらしい。

「首尾は如何でしたか?」

俺はヨルゴの私室にあった隠し部屋に、更に隠されていた箱があったことを話した。

「……で、これがそれなんだけど。」

俺は箱を目の前に出す。

「魔族の文字を使って、刻印呪文がされてるっぽいんだよね。アルド、これ解ける?」

箱を渡すと、アルドは箱をしばらく眺めてから、馬を降りた。

「あ奴が隠し持っていたのですよね? ならば早急に解いたほうが良いでしょうね。」

「あんまり反応しないね……。この中に核が入ってたりしないの?」

「無いですね。まぁ、空ということはなさそうですが。」

冷めた反応ながら、刻印呪文を解きにかかるアルド。

しばらく集中したいとのことだったので、俺はアルドの馬を見ていることにした。

「よしよーし。」

たてがみを撫でると、馬は気持ち良さそうにしている。

バルタザールと、どっちが乗り心地良いんだろう?

そんなことを考えながら待っていると、小一時間ほど経った頃にアルドが1つ息をついた。

「お、出来た?」

「ええ。出来ました。」

そう言って、アルドは箱の蓋を開ける。

中に入っていたのは、鍵だった。

「……何の鍵だろう?」

「建物のものにしては、短い気が致しますね。」

「特別な装飾がしてある感じでもないし……この鍵穴を村で探さなきゃいけないのか。」

「そこに……あればいいのですがね。」

「そうだね。まぁ、探してみるよ。」

「よろしくお願い致しますね。」

「あ、そういえば通達出してから、魔物達の反応はどう?」

「思ったよりは静かですね。」

「そっか。」

「2匹ほど城に乗り込んで来たのが居ましたが、なんのことはありませんでした。」

「さすがはアルドだね。」

「意外なことに、人間に襲われなくなるのであれば、賛同するという意見の魔物もちらほら来ております。」

「へー……。」

「どうやら、人間領近くを縄張りにしている魔物が、武器になる皮や骨を目当てにした人間に襲われる事案が発生していたらしく、涙ながらに礼を言われたりしまして、正直困惑しました。」

「そうだったんだ……。」

思わぬ反応だなぁ。

「じゃあ、人間と和解しても、そこまで大きな暴動みたいにはならなそうだね。」

「ええ。大変意外ですが。……ときに魔王様。」

「ん? 何?」

「私の核を取り戻した後の話にはなるのですが、どうやってあ奴を追い落とすおつもりですか?」

「その為の仕掛けが上手くいってるかどうかも見ないといけないね……。」

「……?」

「まぁ、仕掛けは打ってあるから、ちょっと待っててよ。」

「大丈夫なのですか?」

「うん。」

俺の返事に、アルドは半眼でこちらを見る。

「あ、ほらアルド! 早く城に帰らないと、また攻められちゃうかもしれないよ!」

「……露骨に話をそらしましたね。まあ、今はまだ信じておきましょう。」

溜め息をついたアルドは、馬を駆って去っていった。

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