魔王のオーディション
三日後。
魔王プレゼンツ 第一回 対勇者用魔物選抜オーディションの本選が、開催された。
ちなみに、予選はどんなことをしたのかというと、アルドが中級呪文を放って耐えられた奴等を合格としたらしい。
で、予選を突破した魔物は5匹。
5匹……。
……アルドとんでもねぇ。
確か、30匹居たんだよね? 希望者。
もうちょい手加減しても良かったんじゃ……? とも思うが、まあ、俺が直接会ってみるって話はしてたし、アルドなりに気を遣って、魔物を選ぶのに時間を割きすぎなくていいようにしてくれたんだろう。
で、俺が直接会って見てみたいことってのは、こいつらの性格。
一度会っただけで何が分かるのかと思う向きもあるだろうが、ファーストインプレッションって案外、馬鹿に出来ない。
見ただけじゃ分からなくても、話してみると性格は割と分かる。
ってことで、立食パーティーの形式をとって、自由に話してもらうことにした。
魔王の俺が参加してると、あんまり自由に話とか出来ないかと思ったけど、別に絶対服従の関係じゃなければ、あんまり気を遣ったりってのはないらしい。
「先日は突然試すようなことをして、申し訳なかったね。今日の料理には何も仕掛けはないから、遠慮せずに食べていってくれ。」
一応、俺が魔王として挨拶をして、本選はスタートした。
この中から何人が選ばれるかとかは、あえて言わない。
きちんと決めてる訳じゃないしね。
「おー! すっげー!! これ全部食っていいのかっ!?」
尻尾を振りながら、テーブルにこれでもかと並ぶ料理を、キラキラした目で見ている、人狼っぽい少年。
うん、あれは多分、素だな。裏とか全然無さそう。
あ、ちなみに今日の料理は、クレマンが作り、ジャメル達が運んでいる。
結構な量を出す予定だったから、手伝いに他の魔物を雇うか聞いてみたけど、出来た料理を運ぶ魔物が居れば良いとのことだったので、ジャメル達にそれをお願いした。
クレマンすげー。料理を仕事に出来るんじゃなかろうか。
「確かに、すげぇ量の食い物だな。これで女でも居りゃあ完璧なんだがなあ。」
にやにやしながら言う、二足歩行のライオン。
こいつは、女好きか。
上昇思考が強そうだけど、それ以上に自分に自信があるって風だ。
「やれやれ。獣共は全く、品がありませんねぇ。ねえ? ファブリス。」
嘆息しながら、隣に居るドラゴンに話し掛ける線の細い人型の魔物。
顔色がすごく白く見えるが、別に貧血とかじゃなくて、そういう種類の魔物らしい。
隣に居るドラゴンは、主に服従しているようで、実に大人しい。
料理にも興味無さそうに、長い首を地面に下ろして座っている。
「あ? 何か文句でもあんのか、テメェ。」
ライオンがドラゴン連れの人型に凄む。
「いえ、文句だなんてとんでもない。獣臭い息を吹き掛けないでいただけます?」
「テメェ……。魔王の城内だから殺されないとか思ってんなら、今すぐそんな考え、捨てることだな!」
「魔王様のお城の中だから……だなんて思っていませんよ。例え貴方の巣の中に居ようとも、貴方には私は殺せませんから。」
「おいおい、折角の料理が不味くなるから、喧嘩は止めにしねーかい?」
一触即発の二人の間に入ったのは、巨体の牛鬼だ。
ライオンと比べても二倍近くある体のでかさを生かして、二人の距離をこじ開ける。
「喧嘩なら、後でいくらでも出来るだろ? 今は魔王様のお気遣いを楽しもうじゃねぇか。な?」
「ちっ……。」
「…………そうですね。」
豪快な笑顔を見せる牛鬼に毒気を抜かれたのか、二人はお互いに背を向けて離れた。
息をのんで二人を見ていたジャメル達や人狼少年も、再び動き出す。
おお、お見事。
ああいう場面を巧く収めるのって、すごい才能だよなー。
魔物にとっての仕事みたいなものである「強さ」もあるし、部下に慕われる上司、みたいな感じ?
というところで、部屋の隅にいる子に気づいた。
「…………。」
全然動かない。身を屈めて、さっき衝突した二人をキョロキョロと見比べている。
「……どうしたの?」
声をかけると、その子はびくりと肩を震わせた。
小さな体躯に細長い尻尾が生えており、その尻尾の先は三角形のようになっている。
いわゆる、悪魔みたいな感じのものだ。
「……ん? 悪魔?」
「は、はいぃ! すみません! 私みたいなのが悪魔で、本当にすみません!!」
俺の呟きに過剰反応する悪魔の子。
……なんだか、やけに声がかん高い?
「おいおい、お嬢ちゃん。いきなり大声なんか出して、いったいどうしたってんだい?」
さっきの牛鬼が悪魔の子に声をかける。
だよね! そうだよね!?
「女の子だったんだね……。」
俺の周りに、初めての女の子が……っ!
俺が、なんだか感動を覚えながら見つめていると、悪魔の子は何か勘違いしたらしい。
「そそそ、そうですっ! 女ですみません!」
なんだか凄い謝る子だなぁ。
挙動不審だし。
「女の子でも構わないよ。アルドの呪文を耐えたんでしょ?」
「は、はいぃ……。これでも一応、悪魔なもので……すみません。」
しゅんとしながら言う、悪魔の子。
「別に謝ることじゃないよ。それより、料理は口に合わなかった?」
「いえ、滅相もない! こ、こんな素敵なお料理、食べたことないので、びっくりしてしまって……。」
素敵って……いつもクレマンが作ってる感じの料理だけどなぁ。
「……そっか。まあ、好きに食べていってよ。」
「は、はいっ! ありがとうございますっ!」
俺の言葉に頷くと、悪魔の子は凄い勢いで料理を食べ始めた。
「お? お嬢ちゃん。いい食べっぷりだなあ。オレも負けてらんねーぜ!」
「おいらも、おいらもー!!」
そんな感じで、騒がしく本選は終わったのだった。