そろそろ村に
バルタザールと本格的なレベル上げを始めてから二週間。
効率の良い場所を転々としながら、レベルを上げている。
一ヶ所でやらないのは、あまり同じところで同じ魔物を狩るのは良くないとバルタザールが言うからだ。
なんでかとバルタザールに聞いたら、首を傾げながらダメって言われたと言っていた。
……なんでかなあ? 生態系の問題か、同じ魔物ばかり狩るとレベルが上がりにくくなるのか。
まあ、バルタザールが良い場所をいくつも知っているから問題ないけどね。
おかげで俺のレベルは46まで跳ね上がった。
まさか二週間でここまで上がるとは思ってなかったのでビックリだ。
ヨルゴの推定値を越えたので、そろそろ仕掛け時かもしれない。
あまりのんびりして、オリヴィちゃんの方が変な動きをしても困るし。
ちなみに、この二週間はこうすけとオリヴィちゃんに会っていない。
あの二人は村の近くでレベル上げをしているのだろうけれど、俺もレベルを上げなきゃいけなかったから、そっちに行っている余裕なんか無かったし。
ちょっと村の様子を見てから仕掛けないとね。
村の人とヨルゴに手を組まれていると厄介だし。
姿を消す呪文も、きちんと唱えられる割合が上がってきたし、着実に効果時間が延びている。
今は屋外で、一時間半ほど消えていられる。
ただ、呪文を甘噛みすると、時間が縮んだりする。うっすら見えているときもあるらしい。
効果時間中は同じ呪文をかけ直せないから、甘噛みに気を付けないと、大幅に時間をロスすることになる。
「さて……。そろそろ村に戻ろうか、バル。」
「はーい! 勇者はげんきかなー?」
「どうだろうね? 会えるといいね。」
「うんー!」
バルタザールは、余程こうすけがお気に入りらしい。
この二週間のうちにも、何度かこうすけのことが話題に上ったからね。
そこから二日程バルタザールに走ってもらい、パトリスの村近くまで戻った。
そういえば、そろそろアルドによるヨルゴへの定期報告時期じゃないかな。
「バル、アルドの匂いはする?」
「んー?」
首を傾げるバルタザール。
まだ来てないのかな。
「そっか、わかった。」
そう答えて俺は姿を消す呪文を唱えた。
よし、今回はちゃんと唱えられたかな。
「ちゃんと消えてる?」
消えた場所から少し移動して、バルタザールに確認する。
「んー……うん、消えてるよー。」
バルタザールは鼻が良いので、匂いで俺の居場所が分かるらしく、俺の方を見てからそう答える。
「……じゃあバル。悪いんだけど、またここで待っててもらえる?」
「はーい。」
今回はとりあえず、村の様子に変化がないかを見に行こう。
ヨルゴの私室とかも見に行きたいけど、教会内に私室があるかどうかも分からないしね。
偵察に行くには時間が短いので、急ぎ足で村に入る。
流石にこうすけの召喚フィーバーは収まって、普段通りの生活が戻っているみたいだね。
ピリピリした雰囲気なんかは感じない。
「今回の勇者様も、努力家でいらっしゃるわよね~。」
「オリヴィさんと一緒に、毎日のように魔物を退治に行ってるんでしょ?」
「頼りになるわー!」
おばちゃん方が井戸端会議をしている。
どうやらこうすけは、ちゃんとレベル上げに行っているみたい。
オリヴィちゃんに引っ張られて嫌々行っているんだろうなぁ。
でも、一般人には魔物退治って認識なんだね……。
退治されるようなことする魔物って、ほとんど居ないのにな。
まあ、レベルを上げる為に狩ってる俺が言うのもなんだけどさ。
……よし、じゃあ次は、教会に行こう。
内部の構造を見ておかないといけないからね。
村の中を、人に当たらないように歩いて教会の方へと向かう。
今日は何か催しがあるわけではないらしく、教会の周りにはぽつりぽつりと人が居るくらいだ。
良かった。人が多いと避けるのが大変だからね。
教会の礼拝室の扉が開いていたので、そこから中に入る。
そのまま、ヨルゴが入ってくる方の扉に向かい、音を立てないように気を付けて扉を少しだけ開けた。
扉の向こうは廊下になっていて、人気はない。
俺は扉の隙間に身を滑り込ませる。
……なんだか某潜入系ゲームをやっている気分になってきた。
段ボールとかないかな。
この世界は段ボールって存在しないみたいだし、余計に目立つか。
人気のない廊下を、奥に向かって歩いていく。
突き当たりまで行くと、廊下が左右に別れた。
えっと……礼拝室の左の扉から廊下に出たんだから、右に行くと礼拝室の右の扉に繋がっているんじゃないかな。
そう当たりをつけて、左に進む。
考えは当たっていたらしく、左の廊下をしばらく行くと、壁紙の様子が変わってきた。
礼拝室の辺りは白を基調とした質素な感じだったけど、この辺りは派手な柄が描かれている。
城とかだったら、この先に王様との謁見室があるような感じだ。
荘厳って、こういうのを言うのかな。何とも言えない威圧感がある。
演出効果としては威厳が出せて良いのかな……?
なんか、ヨルゴの欲望みたいなのが如実に現れている気が……。
と、そこまで考えたところで、目の前にある豪奢な扉がガチャリと音を立てて開いた----。




