なるべく早く
しばらくすると、バルタザールとこうすけが目を覚ました。
「んー! 起きたー!」
伸びをしながら言うバルタザール。こうすけはまだ眠そうだ。
「ふあぁ……。よう。」
「おはよ。」
「おはようございます。」
挨拶を終えて、皆に尋ねる。
「今日はこれから、どうする?」
「ん? 朝飯食うんだろ。」
「それは勿論だけど、その後の話。」
「オリヴィのレベル上げに行くんじゃねーの?」
「……私、今日はこうすけ様と一緒が良いです。」
「おう。だから皆で----。」
「いえ、あの……こうすけ様と二人が良いです。」
オリヴィちゃんが強硬に訴える。
「じゃ、俺はバルとレベル上げに行ってくるよ。ついでにちょっと遠出してくるね~。」
変な雰囲気になりそうだったので、俺の方から離れることにした。
こうすけと二人で行動することで、オリヴィちゃんも気持ちの整理が出来るかもしれないしね。
「え? あ、おう……。」
こうすけは展開について来られていないようで、きょとんとしながら返事をした。
さて、どうしようかな。
とりあえず、アルドに会っておきたい気もするけど……バルタザールが嫌がるだろうなぁ。
「ねえ、バル。アルドの匂いって、する?」
「うん、するー。」
あーあ、嫌そうな顔して……。
でも、匂いがするってことは、まだ村に居るってことだよね。
この後、城に帰る筈だから、この辺りを通るだろう。
「俺、アルドに会わなきゃいけないんだけど……その間バルはどうする?」
「んー……。じゃあ遠くで見てるー。」
「わかった。」
ということで、村と城を結ぶ道の近くでアルドを待つことにした。
「ん! そろそろ来るのー!」
バルタザールがそう言って姿を消した。
俺は道の真ん中に立って、アルドを待つ。
少し経って、馬に乗ったアルドがやって来た。
「ああ、魔王様。」
アルドが俺に気づいて馬を降りる。
「久しぶり。ヨルゴの様子はどうだった?」
「相変わらずでしたよ。魔王様のことは、褒めたらいい気になって城でワガママ放題だと報告しておきました。」
「れ、歴代の魔王って、そんな感じだったの?」
「ええ。大体は。」
「そうなんだ……。」
歴代の皆さんは、なんでいい気になれたんだろう?
特に元の世界に居たときと変わった感じはなかったけど……。
「ところで魔王様。姿を消す呪文は、習得なさいましたか?」
「いや、それが、このところ勇者と一緒に行動してたから、ほとんど進んでないんだよ。」
「……この後、どうなさるおつもりで?」
「そう怒らないでよ。今日ちょうど別行動になったから、これから急いでレベル上げと呪文の練習をするつもりだよ。」
「今日だけですか?」
「ううん、しばらくは別行動とる予定。45くらいまではレベルを上げとかないといけないでしょ。」
せめて推測値のヨルゴくらいには、なっておかないと。
「呪文を見破る呪文への対策ですか? 姿を消す呪文は、対抗呪文を唱えられた時点で終わりだと思うべきですよ。」
「うん、だよね。だからレベルを上げるのは、姿を隠す時間を増やすためと、バレたときに逃げ切る為だよ。相手とのレベル差がありすぎたら、一つの作戦が失敗しただけで取り返しがつかなくなるから。」
「成程。……私の方で何かすることはございますか?」
「えーと、まずはアルドには、今まで通りに会って嘘報告をして欲しいかな。あとの展開は、ヨルゴから核を取り戻せるか否かで変わってくると思うから。」
「かしこまりました。」
「ああ、一応、城の警備にジャメル達を集めとくくらいはしといてもいいかも。」
「では、そのように。」
一礼をすると、アルドは馬に乗って城の方へと去っていった。
アルドの姿が見えなくなったところで、お約束のようにバルタザールが戻ってくる。
「まーさまー、もう遊びに行けるのー?」
「うん。……ねえ、バル。」
「なーにー?」
「今、俺は24レベルなんだけど、なるべく早く45レベルかそれ以上までは行きたいんだ。どこか良い場所、ないかな?」
「色々あるよー! ドラゴンは二人じゃむりだけど、なるべく強い奴狩ろうかー!」
俺の質問に、バルタザールはやる気を出してくれたようだ。
「じゃー、まーさまー! しっかりつかまっててね! このへんは弱いのばっかだから、とおくまで一気にはしるよー!」
そう言うと、バルタザールは走り出した。
今までのは散歩だったのかと思えるくらいの速度だ。
移動中に呪文の練習をしようと思ってたけど、この速さだと呪文どころか舌を噛みそうだから、止めておこう。
「ねー、まーさまー?」
走りながら、バルタザールが聞いてくる。
「なーに?」
舌を噛まないように気を付けながら返事をすると、バルタザールが、いつか俺がしたような質問をしてきた。
「まーさまーと勇者はなかよくなったでしょー? だからねー、バルが人間のむらに入っても、もう狩られないー?」
「うーん……それはまだ、もう少し先、かな。」
「そっかー。」
なんだか残念そうなバルタザール。
「人間の村に入りたいの?」
「おいしい食べ物があるって、きいたことがあるのー。」
「ああ、人間の食べ物を食べてみたいのか。」
「うんー。」
何が欲しいかが分かれば、買ってくることも出来るけど、「何か」が欲しい状態だとなー……。
「俺が強くなったら、一日も早く、そう出来るように頑張るよ。」
「ほんとー? じゃあバルもがんばって、まーさまーのレベル上げるのてつだうー!!」
俺の言葉にバルタザールはより一層やる気を出したらしく、更に速度を上げてレベル上げの場所に向かうのだった。




