異世界の方特有の考え方
正直、凄いと思う。
魔王と勇者が対立している世界で、魔王が身近に居る可能性を考えられるのは。
「何を笑っているんですか。魔王じゃないかと言われてるんですよ?」
「いや、すごいなーと思ってさ。」
「発想が馬鹿馬鹿しい……ですか? クァンタン……様にも、たまに言われます。」
「ううん、馬鹿馬鹿しいだなんてとんでもない。大当たりだもん。」
「……え?」
オリヴィちゃんが呆気にとられたように俺を見る。
「正解だよ、オリヴィちゃん。俺が魔王だ。まーさまってのも、そこから来てる。」
「----っ!」
「黙っててごめんね。でも、オリヴィちゃんがヨルゴのことを信じきってる状態の時に出会ったからさ。」
「……。」
「まあ、いつ明かしても変わらなかったかもしれないけどね。」
思わず苦笑する。
「……なんでそんな、普通なんですか。」
両手で膝を抱え、腹と膝の間に顔を埋めて、オリヴィちゃんは言う。
「ん?」
「魔王なのに、なんでそんな普通に人間と話してるんですかっ!?」
おぉ……八つ当たり気味に聞かれた。
「うーん……前に言った話が、俺の実体験だからかな。」
「え……?」
「魔王も勇者と同じで、異世界から召喚されたってやつ。」
「ああ……。」
「こっちには魔王として召喚されたけど、元の世界では普通の人間だったからね。正直言うと、魔王って言われても実感がないってところかな。」
「でも、魔王は魔物を使役して……。」
「それなんだけどさ、単なる噂話だと思うんだよねー。」
「噂?」
「うん。まあ、魔王だからって敬意を払ってくれる魔物が居るのも確かだけど、忠実な下僕って感じではないよ。それに上級悪魔なんかは、魔王ごときに従うわけないだろって考えみたいだし。」
「その考えを、改めさせようとは思わないんですか?」
「別に。俺は仲良くしたくないと思ってる奴と無理に仲良くする気はないし、考えを統一しなきゃいけないとは思わないよ。」
「……。」
俺はオリヴィちゃんに、アルドとヨルゴの関係について話した。
ヨルゴからアルドを引き離すことが出来れば、人間と魔王は戦わなくても良くなることも。
「……こうすけ様も、似たようなことを仰っていましたね。」
「あれは、俺の話からこうすけが自分で考えたことだけどね。」
「異世界の方特有の考え方なのでしょうか?」
うーん……ロワイエ教の話をするかどうか迷ってたけど、これはした方がいい流れかな。
「それは多分、ロワイエ教が関係してるんだと思う。」
アルドから聞いた、ヨルゴによるロワイエ教の設立話とその目的をオリヴィちゃんにする。
「では……今の状態は……。」
「うん。ヨルゴの計画が順調に進んだ結果なんだろうね。この後は、聖戦とかって名目で、悪魔達に戦いを挑むのかな。」
「それを……止めようというのですか?」
「結果的にはね。俺の目的はあくまでも、ヨルゴを今の地位から追い落とすことだから。」
ざっくりと分かりやすい結果だけを言っておく。
「ロワイエ教を……無くす気ですか?」
「別にロワイエ教を無くす必要はないと思うよ。」
俺の答えに、オリヴィちゃんは意外そうな顔をした。
「そう……なんですか?」
「うん。例えば、ヨルゴを追い出した後、別の誰かが教主になって、教義を少し変えてロワイエ教を続けることは、可能でしょ。」
「ですが、クァンタン様に代わる教主様となると……。」
「今、ヨルゴの傍で信者達の信用を得ている人が適任だと思うよ。側仕えの人くらい居るでしょ?」
「そ、それは……。」
「え? 居ないの?」
「いえ、居ます。」
「じゃあその人を上に立てて、前教主はいつの間にか変わってしまったとかって言って、古い書物を解読したことにして……とかすれば、少しくらい教義を変えるのは可能だと思う。」
「けどそれって、皆さんを騙していることになりませんか?」
「それは今のロワイエ教も同じでしょ? それこそ、正義同士の衝突だよね。」
「……なるほど。どちらの正義を通すかという話なのですね。」
「ってとこまで話したけど、オリヴィちゃんは俺に協力してくれる気はある?」
「……ない、と言ったらどうするつもりですか?」
「この事を、俺がヨルゴを追い落とすまで皆に黙っていてくれるなら、それで充分な協力になる。それすらも無理なら……。」
「……殺しますか?」
「うーん……それは俺が嫌だから、事が終わるまで俺の城に居てもらうかな。」
「嫌なのですか?」
「嫌だよー。」
俺の即答に、オリヴィちゃんがくすりと笑う。
「……少なくとも、他言はしないでおきます。」
「ありがとう。」
これで、オリヴィちゃんも何とか切り崩せたかな?




