魔王である可能性
「もし、これからやっぱり村に戻るっていうなら、俺とこうすけで送るよ?」
「…………いえ。今夜はここで寝ます。自分の目を信じるためにも。」
「そっか、わかった。」
そんな会話があって、俺達は寝ることにした。
でも、オリヴィちゃんが一緒になったことで、襲ってくる魔物が出てくるかもしれないので、俺とこうすけとバルタザールで順に番をすることにした。
「じゃーオレ、最初にやるわー。何かが向かってきたら、倒しちまっていいんだろ?」
「うん。じゃ、頼むね。」
「次はバルの番ねー。おやすみー。」
「……おやすみなさい。」
どうやらこうすけの時もバルタザールの時も何事もなかったらしく、俺はバルタザールに小声で起こされた。
「ふあぁ……じゃあまお……まーさま、おやすみー。」
「うん。おやすみ。」
挨拶を終えると早速バルタザールは船をこぎ始める。
……いつも思うけど、下半身は動物だから、寝方が不思議なことになってるよなぁ。
焚き火が消えないように気を付けながら、目覚ましがてら筋トレをする。
細身の剣しか使ってないと、筋力が落ちそうな気がして……。
「……それぞれ、過ごし方が違うんですね。」
しばらく腕立て伏せをしていたら、オリヴィちゃんが話し掛けてきた。
「オリヴィちゃん……起きてたんだ?」
「はい。……夜の見張りのときの過ごし方って、決まっているのかと思っていました。」
「軍隊とか騎士団とかなら、決まってるかもよ?」
「そうですね。」
「ちなみに、二人はどんなことしてたの?」
「こうすけ様は、暇そうに火の周りをぶらぶら歩いておられました。バル……ちゃんは、比較的私の近くに居て、剣の手入れをしながら、定期的に周囲を見回していました。」
「バルは目がいいからね。それで充分警戒出来るんだよ。」
「魔物だから……ですね。」
そこでオリヴィちゃんが黙り、周囲を沈黙が包む。
寝ちゃったかな? と思った頃、独り言のようにオリヴィちゃんが言った。
「良い魔物が居るだなんて……考えたこともなかったです。」
「……良い悪いってさ、絶対的なものじゃないんだと思うよ。」
俺も、独り言のように返す。
「要は、どっちと仲が良いか……なんだろうね。ぶつかり合う二つの勢力のうちの、さ。」
「仲……ですか。」
「俺の居た所ではね、『正義の敵は、悪ではなく別の正義』って言葉を言った人が居るんだけど、これって正しいんだなぁって、最近思うようになったよ。」
オリヴィちゃんはこちらに背を向けているので、聞いているかどうかは分からない。
でもまあ、いいか。独り言だし。
「自分の信じる正義が、他人の正義とぶつかってしまうから、争いやいさかいが起きる。お互いに自分が正しいと思っているから、尚のこと譲れないよね。」
「……。」
「もしも、お互いに排除するんじゃなくて、ちょっとずつ譲って受け入れ合うことが出来たら……戦う必要なんかなくなると思うんだけどな。」
さて、一人語りが長くなっちゃったから、一度見回りに行こうかな。
俺は伸びをして、焚き火で照らせるギリギリのところを見て回った。
うん、魔物は居なさそうだ。
ま、一人レベルが低い奴が居るからって、下手したら40超えてるレベルの奴が居るところに、わざわざ襲いかかったりしないよね。いくらなんでも。
見回りから戻ると、オリヴィちゃんが起き上がっていた。
「寝てなくていいの? 明日……もう今日だけど、動くの辛くなっちゃうよ?」
「……貴方は、どちらなんですか?」
オリヴィちゃんが真っ直ぐ俺を見て聞いてくる。
「こうすけ様とも魔物とも仲が良くて……でも、こうすけ様を魔物側に引き込むのが目的のようにも見えなくて。仲が良い筈のクァンタン様……魔族のことを、人間の私に教えたりもして。一体、何が目的なんですか?」
「……オリヴィちゃん。1つ、勘違いしてるよ。」
「え?」
「俺は別に、クァンタンと仲良くはない。仲良くないから、オリヴィちゃんに情報をリークしたんだ。」
「……。」
「こうすけとは、思った以上に仲良くなれて、俺もびっくりしてるよ。これは、こうすけの人徳ってやつかもね。」
「……こうすけ様は、すごい方ですから。」
「そうだね。そして、俺の目的は大きく言うとただ1つ。種族を問わず、なるべく皆と仲良くしたい。」
「種族を問わず、仲良く……ですか。」
「そう。で、俺の目的とクァンタン……発音しにくいから、魔族名で呼ぶね。ヨルゴの目的は相対するものだから、対立をせずに取り込もうとしてるんだよ。」
「……貴方が譲る選択肢はないのですか?」
「うーん……ヨルゴに受け入れてくれる気があればいいんだけど、その気がないからねー。」
オリヴィちゃんが俺の顔を見ながら、何かを思い出すかのように、視線を宙に彷徨わせた。
「……ずっと、考えていたんです。貴方が魔物に好かれ、こうすけ様と通じるところがあり、魔王と分かり合えるかもしれないなどと考えている理由を。」
「……そう。」
そのまま、顎に軽く指を当てて、下を向いて考えるオリヴィちゃん。
「……あり得ない、とは言い切れないのですよね。今までのことを考えると。」
「何が、かな?」
「貴方が----魔王である可能性です。」




