自分の
村の食堂で夕飯を食べた後、雑貨屋に寄って寝袋を二つ手に入れた。
「勇者様……野宿ですか? 危険では……?」
心配そうに言う雑貨屋の店員に、こうすけは笑って答える。
「だいじょぶ、だいじょぷ。オレ強いからー。」
「流石は勇者様ですね~。」
村から出て、少し離れたところで寝る準備をしていると、近くの茂みがゴソゴソと動いた。
「ま、魔物でしょうか……?」
オリヴィちゃんが警戒を強める。
おかしいな……この辺りの魔物は、襲ってこない筈なのに。
と思っていたら、バルタザールがぴょこんと顔を出した。
「お、バルじゃん!」
こうすけが笑顔でバルタザールに話し掛ける。
「まーさま! ……と、勇者ー! ……と、だれー?」
バルタザールも笑顔で答えた。そして、オリヴィちゃんを見て、不思議そうに首を傾げる。
「あ! もしかして、こうすけ様が仰っていた、お友達さんですか? 私、こうすけ様のお供をさせて頂いております、オリヴィと申します。」
ぺこりと頭を下げるオリヴィちゃん。
「……おともー?」
その呼び方で固定するのはどうなんだろう? と思ったが、オリヴィちゃんはバルタザールの態度から、自分より年齢が低い子だと判断したのか、そうですよと笑顔で応じている。
「そうそう。こいつ強いんだぜー?」
こうすけが自慢げに言い、
「えへへー。バル強いんだよー。」
バルタザールもこうすけに同意する。
「すごいですね!」
オリヴィちゃんも笑顔で答えた。なんだか和やかな雰囲気だ。
「まーさま達はここで何してるのー?」
「今晩は此処で寝ようと思ってるんだよ。」
「バルも一緒にねていいー?」
「えっ!? バルちゃんも、村の外で寝てるんですか!?」
目を剥いて驚くオリヴィちゃん。対してバルは至って平然としている。
「うん、そうだよー。」
「あ、危ないですよ!」
「別にあぶなくないよー?」
「でも、魔物が襲いかかって……!」
「この辺の奴等は弱いから、バルに攻撃してきたりしないよー。逆に狩られちゃうからねー。」
「バ、バルちゃんは強いんですね……。」
「強くないとやられちゃうからねー。」
「やられちゃう……?」
「そうだよー。弱いとねー、狩られるほうになっちゃうのー。それが嫌なら、強くなって狩るほうになりなさいって、オーレリーが言ってたよー。」
「狩られる……ほう。」
「だからバルは強くなったのー。」
「そーだったのか。偉いなー、バルは!」
「えへへー、そう?」
こうすけに褒められて嬉しそうに笑うバルタザール。
「狩るほうに……。」
オリヴィちゃんが深刻そうな顔をしている。
「オリヴィちゃん? 大丈夫?」
「……え? あ、だ、大丈夫です!」
ハッとしたようにオリヴィちゃんが言う。
「あの……じゃあバルちゃんも、一緒に寝ませんか?」
「えっ!?」
オリヴィちゃんの提案に、ちょっと……いや、だいぶビックリした。
「いいのー?」
「いいですよー。一人じゃ寂しいでしょう?」
なんかバルタザールにはオリヴィちゃんが優しいけど……。
「じゃあ一緒に寝るー!」
バルタザールが茂みから飛び出して来る。
オリヴィちゃんが、バルタザールの全身を見て、驚いたように固まった。
「……オ、オリヴィ? おーい?」
こうすけがオリヴィちゃんの目の前で手を振る。
あ。オリヴィちゃんの意識が戻ってきた。
「きゃあああああああああっ!!」
と思ったら、大声で叫んだ。
「オリヴィ、どうしたんだよ!?」
「オリヴィちゃん、魔物が来ちゃうよ?」
「な、なんでお二人はそんなに、落ち着いてるんですかっ!? ま、魔物ですよ!?」
オリヴィちゃんが控え目にバルタザールを指差しながら言う。
なるほど。バルの顔しか見えなかったから、人だと思ってたのか。
魔物に対してなのに優しいと思ったら……。
「んー?」
首を傾げてオリヴィちゃんを見るバルタザール。
「ひぃっ!」
オリヴィちゃんは身をすくめた。
「……オリヴィ、さっきまで普通に話してたじゃんか。」
「それは! に、人間だと思ったからで……。」
「魔物だと話せないのか? なんで?」
「だって、魔物というのは人間を襲って----。」
「人間を襲う? こいつが?」
こうすけがバルタザールを指差して聞く。
「襲うかもしれないじゃないですか!」
「バルは人間、狩らないよー? 美味しくないし、レベルも上がらないからー。」
「だってよ?」
「そ、それが本当だとは----」
「なぁ、オリヴィ。魔物を一括りにして考えるのは、良くないと思うぞ。」
こうすけがオリヴィちゃんに対して冷静に言う。
「そりゃ、人間を襲うのも居るけどさ。魔物が全部同じ理屈で動いてるとは限らないだろ?」
「……。」
「人間だって、全員が同じ考え方じゃねーじゃねえか。」
「それは……そうですが。」
「大体、バルがオレらを食う気だったら、昼のうちにオレらは食われてるぜ? だって、バルとレベル上げに行く前は、オレ12レベルだったんだから。」
「……。」
「食おうと思ってる奴をわざわざ強くしたり、するか?」
「バルはねー、まーさまとか勇者と一緒に遊ぶのが楽しいんだよー。」
にこにこと言うバルタザールを、オリヴィちゃんはじっと見つめる。
「オリヴィちゃん。俺はバルと、ここまで旅をしてきたんだ。だから、バルは信頼できると思ってる。でも、オリヴィちゃんはバルと今初めて会ったから、そう簡単に信頼できるわけはないと思うよ。」
俺はオリヴィちゃんに、正直な気持ちを話した。
「だから……クァンタンのこともそうだけど、自分の目で見たもの、自分の感じたことを信じたら良いと思う。」




