どうしたいか
ついさっきバルタザールと別れた辺りまで来て、こうすけは立ち止まった。
「さて、この辺なら大丈夫だろ。」
「大丈夫……とは?」
「万が一、聞かれたりするとまずいことも、話すことになるだろうからね。用心ってことだよ。」
こうすけの言葉を引き継いで、俺が答える。
「……そう、ですよね。」
オリヴィちゃんは呟いた。
「説明とかはお前に任せる。」
こうすけが俺の肩にポンと手を置いて言った。
一昨日のことを反省して、下手に口を出さない方針らしい。
「じゃあ……んと、オリヴィちゃん。」
「……はい。」
「まずは確認ね。クァンタンが魔族と繋がっているってことは、解ってくれたかな?」
俺の言葉に頷くオリヴィちゃん。
「それで、あの……実はその時、私、クァンタン様を見たんです。そしたら……。」
「ああ、それなら話は早いね。クァンタンも魔族だったでしょ?」
「! ご存じだったんですか。」
「うん。」
「私……私、どうすればいいのか……。」
オリヴィちゃんは、俯いて小さく震えている。
今まで信じていたものが根底から覆された気分なんだろうし、仕方ないよね。
「こうすればっていう正解は、無いと思うんだ。」
「……。」
そんな縋るように見られると困るけど……。
「正解があるとしたら、どうするべきかじゃなくて、どうしたいかだと思うよ。」
「どう、したいか……?」
「そう。オリヴィちゃんは、この事実を知った今、何をしたい?」
「……分かりません。」
「なら、ゆっくり考えてみようか。どうしたいかはオリヴィちゃんにしか決められないけど、俺達がどうするつもりなのかは、教えられるからさ。」
「おー……何となく上手く纏めた感じ?」
「茶化すんならもう帰れ、こうすけ。」
「怒っちゃいやん、まーさまぁ。」
「まーさま……?」
こうすけの地雷感が半端ないんだが、誰かなんとかして……。
「あ……えーと、まーさまってのは、こいつの友達が呼んでる名前でさ。オレも昨日そいつと友達になったんだけど、なかなか楽しい奴なんだ。」
「お友達さんが……。ふふっ、まーさまって、なんだかカワイイですね。」
オリヴィちゃんが小さく笑う。
どうにか誤魔化せたかな?
「そのお友達さんに、いつか私もお会いしてみたいです。」
「まぁ……いつかね。」
会える日が来ると良いけど……。
「……なぁ、オリヴィ。今日はここで野宿しねえ?」
こうすけがポンと手を鳴らして言った。
「な……!」
「え!?」
絶句する俺とオリヴィちゃんを尻目に、こうすけは名案だとばかりに頷いている。
「無謀です、こうすけ様! 夜行性の魔物に襲われてしまいますよ!?」
「大丈夫だって、オリヴィ。こいつとオレのレベルなら、もう夜行性の魔物も襲ってこないらしいから!」
「らしいって、誰からお聞きになったんですか!?」
「こいつ。」
俺を指差すこうすけ。やめて! 巻き込まないで! 俺はオリヴィちゃんに、野宿しようなんて言う気ないから!
「……本当、なんですか?」
オリヴィちゃんに疑いの眼差しを向けられながら、こうすけに視線で抗議する。
が、目が合ったこうすけは、口笛を吹きながら露骨に視線を逸らした。
こいつ……!
オリヴィちゃんがじっと俺を見つめている。
……気まずい。まあ、答えるしかないか。
「うん、本当だよ。もうこうすけも20レベルだからね。ここら辺のレベルの低い魔物は、勝てないから向かってこないよ。」
「ここまで旅してきたこいつが言うんだから、間違いねーって!」
「そうでしたね……ここまで長い旅をして来られたんでしたね----って、え?」
そこまで言って、オリヴィちゃんが目を見張る。
「こうすけ様……今、何レベルなのですか?」
「20だけど?」
何でもない風に答えるこうすけ。
「え……ええええぇっ!?」
「ど、どーした? オリヴィ。」
「どうしたじゃありませんよ! 二日前まで7レベルだった方が、どうやったら20レベルになれるんですかっ!?」
凄く驚いているオリヴィちゃんに、こうすけが胸を張って答える。
「へっへー、すごいだろ!」
「凄すぎですよ……。」
呆然としながら、オリヴィちゃんは言った。
「こいつの友達もレベル上げ手伝ってくれたからさ。それに、オリヴィに強くなっとくって約束したしな!」
「まぁ、それはともかく。此処で泊まりたいなら別に構わないけど、ゆっくり寝るなら村の中の方が良いと思うよ?」
「……今日は、村でもゆっくり寝られる気がしませんが。」
困ったように笑いながら言うオリヴィちゃん。
「んじゃ、キャンプってことで、此処で寝よーぜ!」
「あのねぇ……。俺、テント持ってないから完全に野営だよ? いいの?」
「あー……んじゃ、寝袋ぐらい村で調達してくるか! 飯食うついでに!」
「ね、寝袋……ですか。わかりました。」
何かを決意した表情でオリヴィちゃんが頷く。
そこまでのことなら、村で寝た方が良いと思うけど……まあ、本人がいいって言うなら、いいか。
ということで、夕飯と寝袋の調達の為に、俺達は村へと戻った。




