信じたくはありませんでした
翌朝。
前日と同じくらいの時間にこうすけのところに向かったら、こうすけは既に起きていた。
「よう! 早く飯食ってレベル上げに行こうぜー!」
わくわくした表情で言うこうすけ。
バルタザールに乗って行くのが楽しみで早起きって……小学生か!
まあ、やる気があるのはいいことか……。
「じゃ、行こっか。」
こうすけと連れ立って食堂に行き、その後村を出る。
「おはよー、勇者!」
「おう! おはよー、バル!」
片手を挙げて互いに挨拶をする二人に、何故か取り残されたような気分になる。
「まーさまー? 行くよー?」
早速、背中にこうすけを乗せているバルタザールが、俺に声をかけてきた。
「あ、うん。行こうか。」
バルタザールの背中に二人乗りって初めてだ。
「えっとね、バルに乗るのが上手いから、まーさまが後ろがいいと思うー。」
「……こうすけの腰に掴まるってことか。」
「何とか掴まんないでいけねー?」
「ふざけんな。」
乗馬はやったことないから、そんな器用な真似は無理。
バルタザールに乗るのが上手いのは、単純に回数の問題だよ。
「じゃー、しょーがねーなー。掴まらせてやるよ。」
恩着せがましく言うこうすけを無視してバルタザールの背中に乗る。
座る位置が変わると、なんていうか、安定が悪いなぁ。
「いくよー? 落ちないでねー?」
一声かけると、バルタザールは走り出す。
「ぅおっ、と!」
こうすけがバランスを崩しそうになって、声を上げる。
「だいじょぶー?」
「おう……。でもこれ、結構むずいな。」
「慣れれば平気だよ。バル、徐々に速度上げてってくれる?」
「わかったー!」
俺達を落とさないように、緩めの速度で走るバルタザールに乗って、森の最深部へと向かう。
一番奥には社みたいなのがあるだけの所なんだけど、その少し手前は、今の俺達ならそこそこ良い狩り場らしい。
バルタザールが一人で行って見てきたらしいので、間違いないだろう。
もう少しレベルが上がったら、オラスの砦の方向にあるモーリスの棲み家が良いんだけどね。
まぁ、ちょっと遠いし。
そんな感じで狩りをして、俺のレベルが24に、こうすけのレベルが20になったところで、日が暮れてきたのでレベル上げを終えることにした。
「じゃあバル、明日またなー!」
「後でまた行くから。」
「ばいばーい! あ、魔王さまー!」
咄嗟のことだからなのか、バルタザールの呼び方が戻ってる。
「どうしたの?」
「ゆうべ、あいつの臭いがね、したのー。」
嫌そうな顔で言うバルタザール。
そうか。アルドは今日、村に着いたんだな。
ヨルゴとの密会は、村に着いてから何日目にしたんだろう?
上手くいけば、今日オリヴィちゃんが目撃してくれてるのか……。
「そっか、わかった。ありがとう。」
「うん。また後でねー!」
手を振って見送るバルタザールを置いていつもの食堂に行くと、青い顔をしたオリヴィちゃんが待っていた。
「お、オリヴィじゃんか。」
「あ……こうすけ様。その……一昨日は、申し訳ありませんでした。」
ぺこりと頭を下げるオリヴィちゃん。
「ああ……いや、オレも悪かったから。泣かす気はなかったんだ、ごめんな。」
ばつが悪そうに頭をかきながら、こうすけも謝る。
「それでその……。」
オリヴィちゃんは、そこでちらりと俺を見た。
「……見た?」
簡潔に尋ねると、オリヴィちゃんがこくりと頷く。
「信じたくはありませんでしたが、本当のことでした……。」
オリヴィちゃん曰く、ヨルゴと密会した人物はローブを被っていたが、柱の影から呪文を唱えてみたところ、確かに魔族の反応があったそうだ。
「それって、かけた奴にバレたりしてねーの?」
「大丈夫です。この呪文は、術者の目に効果を及ぼすものなので。」
なるほど。あくまで呪文はオリヴィちゃんにかかってるってことね。
「……ちょっと、場所を変えようか。」
この先は、あまり村の真ん中でするような話でもないだろう。
「じゃ、村の外に出よーぜ。……おっさん、また後で来るからー。」
「あ、はいー。お待ちしておりますぜー、勇者様ー。」
愛想のいい食堂の主人に見送られ、こうすけの提案通り、三人で村を出た。




