似てる感じがする
「ねー、勇者ー。勇者はまーさまと、仲いいんだねー?」
森の奥へと進みながら、バルタザールがこうすけに言う。
「おー。まあなー。」
「人間は、まーさま嫌いじゃないのー?」
「ああ、この世界の人間はそうみたいだな。」
「せかいー?」
「この世界、っていうのが、ここって感じかな。」
「むらー?」
「村より広い、ぜーんぶの場所かな。」
手を広げて、世界という概念を説明をする。
米のときも思ったけど、自分にとって当たり前の物事を説明するのって、難しいよね。
「勇者のせかいは、このせかいじゃないのー?」
「おう。」
「まーさまも、このせかいじゃない所から来たのー?」
「うん。そうだよ。」
俺の言葉に、バルタザールは納得したという風に頷いた。
「だから、まーさまと勇者は似てる感じがするんだー!」
「……似てるかなぁ?」
「似てないだろ。」
俺達の否定に、バルタザールは首を横に振る。
「似てるよー!」
まあ、バルタザールは匂いとかで判断しているところがあるからね。
そういう面から見ると、似ているのかもしれない。
俺に似ているからなのかどうかは分からないけど、こうすけとバルタザールは無事仲良くなってくれたみたいで良かったよ。
その日は、前日には行けなかったくらいに奥まで進んで、レベルを上げた。
途中でバルタザールが、俺達二人を背中に乗せて行くか聞いてきたけど、こうすけが楽を覚えると碌なことにならなさそうなので、それは断った。
俺のレベルは19になり、こうすけは12レベルまで上がってきた。
やっぱり、バルタザールに乗ってレベルを上げるほうが効率はいいんだよね。
まあ、オリヴィちゃんともう一度合流した場合、レベル差がつきすぎていてもまずいから、今のところはこんなもんでいいかな。
「あ、そうだ。ねぇバル、この辺りでアルド見掛けた?」
「見てないー。あいつ、来るのー?」
嫌そうな顔をするバルタザールに、こうすけが意外そうな顔をした。
「魔物同士って、仲良いんじゃねーの?」
「魔物がみんな仲いいわけじゃないのー。人間はみんな仲いいのー?」
「……言われてみりゃあ、人間も一枚岩じゃねーもんな。魔物もそれは同じってことか。」
「人間もいっしょなんだねー。」
意外なところで魔物と人間の交流が出来ている。
そうだよね、話してみなきゃ分からないよね。人間同士でもそうなんだから、魔物と人間なら余計にね。
「俺の居た世界にあったゲームの中じゃ、魔物は皆、判を押したみてーに人間を敵視してたけどなー。」
「まぁ、ゲームと現実は違うってことかな。」
「ねー、まーさまー。」
バルタザールが俺の肩をちょんちょんとつつきながら聞いてくる。
「ん? どうしたの? バル。」
「明日もこうやっていいー?」
「一人じゃ寂しいもんねー。こうすけとも仲良くなったし、いいよ。」
「やったー!」
「お! じゃあ明日はバルの背中に乗って行こうぜ!」
こうすけが、今日俺に却下された行動を採用しようとする。
「それは、オリヴィちゃんと合流したらまた考えようね。」
「えー? オリヴィに強くなっとくって言ったんだろ? なら、強くならなきゃだろ!」
「レベルだけ上がっても、戦闘能力は上がらないよ?」
「でも、まーさま? レベル上がると力がつくから、戦いやすくなるよ?」
バルタザールから、こうすけに援護射撃が入った。
「ほら! バルもこう言ってんじゃん!!」
わくわくが止まらない二人に、溜め息が漏れる。
「……仕方ないなぁ。じゃあ明日はそうしようか。」
「やりぃ!」
「わーい!」
「じゃあ二人が行ってる間、俺は俺で狩ろうかな。それとも村でヨルゴの様子を見るか……。」
「え? まーさま、行かないのー?」
「だって、バルが二人乗せて走るんじゃ大変でしょ?」
仮にも、成人男性二人だよ? 重量オーバーじゃないかな。
「大丈夫だよー。一緒にいこうよー。」
「大丈夫だってよ? まーさま。」
こうすけが呼び方をバルタザールに合わせてきた。
バルタザールが呼ぶなら平気なのに、こうすけに呼ばれるとちょっとイラっとするのは何故だろう?
「んー……じゃ一緒に行こうか。バル、無理しないでね?」
「はーい! やったー! 久しぶりにまーさまと一緒にはしれるー!」
「良かったなー、バル! オレを振り落とすなよー?」
「おとさないよー!」
本当に仲が良いなぁ。こうすけの人徳ってやつだろうか?
笑顔で手を振るバルタザールと別れて、こうすけと二人、夕飯を食べに行く。
「そういや、バルって飯とか寝床どうしてんだ?」
「ご飯は、自分で狩って食べてるみたいだよ。夜は俺と一緒に村から離れた場所で寝てる。」
「え? お前、村で泊まってんじゃないの?」
「所持金に限りがあるからね。何日こっちに滞在するか分からないし、一度城まで戻ると、もう一度こっちに来るのに一週間以上かかるから、なるべく節約しとかないと。」
「夜行性の魔物とかいねーの?」
「居るけど、もう俺のレベルだと寝込みを襲ってくるみたいなことはしてこないよ。」
「へー。レベル差が激しいと襲いかかってこないってことか。」
「そうみたいだね。」
「バルをこっちに入れてやったり、しねーの?」
「村に魔物が一匹も居ないからねー。無用な騒ぎが起きても嫌だし、ヨルゴに目をつけられたくない。」
「……なるほどな。」
そんな話をしながら食事を終え、俺はこうすけと別れて村の外に戻った。




