まーさま
「よー、こうすけ。」
食堂に戻ると、こうすけが正座しながら村人達と話していた。
何してんだろう? 反省の気持を現してるとかかな?
入ってきた俺に気がついて、こうすけが正座から立ち上がる。
「お。オリヴィには会えたか?」
「うん。フォローが出来たかどうかは、分からないけど。」
「正直すまんかった。先走った感はある。」
「ホントだよね。」
俺が戻ったことでひとまずオリヴィちゃんの件は終わりとなったのか、こうすけの周りに集まっていた村人達も三々五々、解散していく。
「……で、オリヴィの魔王嫌いは、実際問題どんなもんだった?」
声を潜めて、こうすけが聞いてくる。
「んー……まあ、宗教上の敵だからねぇ。深く根付いてる気はするよ。」
「そっか……。価値観を変えるのって、難しいよなー……どうするか。」
「一応、色々と考えた結果の動きだったんだね。」
「おうよ。考えなしにやったと思ったのか?」
「うん。」
「……即答すんなよ。」
こうすけが、がっくりと頭を垂れる。
「まぁ、泣かしちまう気はなかったわけだから、考えなしと言われても仕方なくはある……。」
唇を尖らせながら言うこうすけに、俺はフォローを入れた。
「でも、クァンタンに対して、少し疑念を持たせられたかもしれないから、あながち無駄ってわけでもないよ。」
「そーか?」
「まぁね。で、ちょっとの間、オリヴィちゃんはパーティー抜けると思うから、今のうちにレベル上げしとこうよ。」
「え? オレ、お前と戦わないのにレベル上げ必要?」
「ヨルゴ……じゃなかった、クァンタンと戦うかもしれないでしょ?」
「えー? マジでー? オレらが仕掛けなきゃ、戦わなくて済むんじゃね?」
「いやいや、それはいくらなんでも、楽観的過ぎるでしょ。」
「そーかなー? 気付かれないように動けば、戦わずして勝てるっしょ。」
「名言を楽するために使わないの。」
「でもさー。」
「でもじゃない。明日は朝ご飯食べたらすぐにレベル上げ行くからね?」
「オレ、朝弱いんだよー。」
「知ってるよ。だから起こしに行くから。」
「……お前が女子なら良かったのに。」
「俺だって、起こしに行くなら女の子がいいよ。」
「……はぁ。ああ言えばこう言う。」
キミに言われたくないわけだが。
このまま話していても不毛な会話が交わされるだけだと思ったので、俺は早々に引き上げることにした。
こうすけに、どうするかと尋ねたらもう少し食堂に居ると言うので、一人で店を出てバルタザールのところへ戻った。
「魔王さまー! 見て見てー!! バル、強いブレス出るようになったのー!」
俺の姿が見えると、バルタザールが駆け寄ってきて嬉しそうに言う。
「そっかー。バルは努力家だねー。」
「魔王さまもだよー?」
「……まぁ、俺も努力は嫌いじゃないけど。」
「嫌いなやつもいるねー。」
「お。よくわかってるじゃん、バルー。」
さっさと寝るつもりだったのに、バルタザールとの話が弾んで、結局少し夜更かしをしてしまった。
翌朝。
一日前よりは少し遅い時間に、俺は目を覚ました。
「じゃあバル、今日もちょっと行ってくるね。」
「うんー……。」
ここ数日、バルタザールと会うのは夜だけだからな。
寂しいのは分かる。
アルドとヨルゴの密会が終わったタイミングで、一度バルタザールと何処かに遠出をしよう。
そんなことを考えながら、こうすけを起こしに行った。
こうすけはやっぱり寝ていたけど、今日は叩き起こして一緒に朝御飯を食べに食堂へ行った。
ぶつくさ言うこうすけと共に食事をして、早速レベル上げに向かうことに。
今日は回復呪文が使えるオリヴィちゃんが居ないので、無理をせずに二人でレベル上げをする。
そのとき----。
「あ、いたー!」
聞き覚えのある声が、俺の耳に入った。
声の方を見ると、そこに居たのはバルタザール。
にこにこしながら、こっちに向かってきている。
どうやら、寂しくて俺を探していたようだ。
「うわ、なんだアレ!? 半獣?」
こうすけが驚いた声を上げた。
「えーっと……ヴァレリーっていう種類の生き物で、バルタザールって名前の子。バルって呼んであげて。」
「……知り合いなのか?」
「うん。この世界で、一番最初のときからずっと一緒に居る子だよ。」
「あいつも、ループしてるのか?」
「いや。でも、毎回必ず、俺を気に入ってくれるんだ。」
バルタザールがだいぶ近付いてきた。そこで何かに気づいたように小首を傾げて、聞いてくる。
「魔王さまー! ……それ、勇者?」
「うん、そうだよ。あと、この辺りで魔王って単語を出しちゃうと、騒ぎになるかもしれないから、別の呼び方にしてくれるとありがたいかな。」
「じゃーねー……まーさま!」
「……じゃ、それで。」
「待て待て! いいのか? それで。」
「いいんじゃない? 魔王が「まーさま」って呼ばれてるとは思わないでしょ。」
「あっさりしたもんだなー。あ、俺は勇者の孝介。よろしくな、バル。」
「うん、よろしくねー勇者!」
どうやらバルタザールは、名前を覚える気はないようだ。




