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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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真実なんだよ

食堂を出ていったオリヴィちゃんを探して、村の中を歩き回る。

昼間に一緒に動いていた限りでは、そんなに体力のある子じゃないから、村の中には居ると思うんだけど……。

「何処行っちゃったんだろう……?」

少し、考えてみよう。

絶対的な味方だと思っていた勇者様に(少なくともオリヴィちゃんから見れば)裏切られた。

そんなときに、聖職者である彼女が行きたくなる場所----。

「……教会、か?」

自分の芯である信仰にすがる可能性は高いだろう。

違ったらまた考えれば良いよね。

……とはいえ。

「……誰も居ない教会って、入り辛すぎるよね。」

俺は信者じゃないから余計にね。信者じゃないというか、魔王だし。


固く閉ざされた扉に手をかけると、施錠されていなかった。

少し押すと、ギィッという音を立てて扉が開く。

中は暗く、人の気配は感じられない。

けど、誰も居なかったら施錠されてるでしょ。

オリヴィちゃんがこの中の何処かに隠れているのかもしれない。

「……オリヴィちゃーん? 居なかったら居ないって返事してー?」

言ってみたかっただけだよ。返事があるとは思ってな……。

「居なかったら返事出来ませんよ……。」

「あ、居たんだ。オリヴィちゃん。」

礼拝室の一番前の長椅子に座って、背もたれの向こうから上目遣いでこっちを見ているオリヴィちゃんが居た。

俺はオリヴィちゃんが座っている隣に腰掛ける。

「……。」

「大丈夫? って聞き方は卑怯になるかな?」

「……。」

「……こうすけもね、悪気がある訳じゃないんだよ。」

「……。」

「自分で謝ればいいのに、気まずいんだって。」

「……。」

「オリヴィちゃんのこと、傷つけるつもりじゃなかったらしいよ。」

「……わかってます。」

オリヴィちゃんが呟く。

「わかってるんです。こうすけ様が、お優しい方だということは。」

「……。」

「でも、魔王と仲良くなんて……!」

「出来ないって、本当にそう思う?」

「だって、魔王ですよ!?」

「会ってみたら意外とウマが合うかもしれない……とは、宗教上は考えられないか。」

「魔王と気が合うなんて、魔王の手先です。」

「……ねぇ、オリヴィちゃん。」

「はい。」

「魔王がどうやってこの世界に現れるのか、って……知ってる?」

「いえ……。でも、魔王は最初からこの世界に居るのではないですか?」

「なるほど。オリヴィちゃんは今まで、そう聞いてたんだね。」

「え……? はい……。」

俺の口調に、何か感じるところがあったらしい。オリヴィちゃんの顔色が変わった。

「魔王はね、オリヴィちゃん。勇者と同じように、この世界に召喚されて来るんだよ。」

「な……にを。」

「魔王が勇者と同じ世界から来るのかどうかは分からないけど、魔王はこの世界に元々居るわけではない。これは確かだ。」

「はぁ……。」

「あ、信じてない?」

「……ちょっと、話が突飛すぎて。」

「ま、そりゃそうか。でも、真実なんだよ。……明日か明後日あたりに、クァンタンを訪ねて来る人物が居る。」

「あぁ、そういえばそのようなことを仰っていました。」

「そいつが、歴代魔王を召喚した魔族なんだ。」

「魔……族っ! それが本当なら、クァンタン様にお知らせしないと……。」

焦るオリヴィちゃんに、俺は冷静に告げる。

「クァンタンは知ってるよ。」

「えっ!?」

「知ってるというか、クァンタンとその魔族はグルなんだ。」

「そんな……まさか。」

小さく頭を振るオリヴィちゃん。

「信じられないと思うなら、注意深く見てみるといいよ。聖職者は魔族を見抜くことが出来るんでしょ?」

アルドの書斎で、文字に慣れるために読み漁った本に書いてあった。

この世界の聖職者は、魔を見抜く力を身につけられるらしい。

「たぶん正教会の合間に、こっそり会うと思うから。」

「……。」

オリヴィちゃんは考え込むように俯いた。

「ま、その魔族とクァンタンが繋がっているって確信が出来たら、また話そう。それまでは気まずければ、こうすけに会うのを止めても良いと思うし。」

「いえ……ですがそれは……。」

「クァンタンに、こうすけの面倒を見ろって言われてる?」

「はい。」

「じゃ、その役目は俺が代わるよ。」

「え……?」

「任せといて。こうすけがレベル上げサボらないように、ビシバシしごくから!」

俺の言葉に、オリヴィちゃんは少しだけ笑う。

「貴方は……不思議な方ですね。」

「ん?」

「伝説の勇者様であるこうすけ様と気安い仲のようですし、魔物との戦い方も慣れていますし、クァンタン様のこと呼び捨てにされますし。」

「あ……ごめん、つい。」

本当に無意識に呼び捨てにしてたわ。本名はヨルゴだしなぁ。

俺の言葉に、オリヴィちゃんがふふっと笑う。

「いえ。……それに何故だか、嘘みたいな話をしているのに、嘘じゃないかもって思ってしまいます。」

「そう? 信じてもらえないかと思ってたけど。」

「何故でしょうね? 普通なら、とても信じられないと思うのに……。」

「まあ、少しでも信じてもらえるなら、クァンタンのこと見ててみて。」

「はい……わかりました。」

頷くオリヴィちゃんを残して、俺は教会を後にした。

こうすけのやつ……突然何の話をするのかと驚いたけど、まあ、結果オーライかな。

幸いオリヴィちゃんが俺に悪感情を抱いてないことも判ったし。

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