すまん!
少し休んでから村に戻り、今日の戦利品である獣の皮などを売り捌いていたら、もう夕方になっていた。
朝も世話になった食堂で三人、食事をとる。
昼は簡易な携帯食だったから、温かい料理は美味しいね。
こうすけが、昼のレベル上げの様子を、ちょっと脚色しながら周りで料理を食べている連中に話している。
「すげーじゃないですか、勇者様!」
「へっへー、だろー?」
「オリヴィ、良かったな! 頼りになる勇者様で!」
「これなら魔王も簡単に倒せるな!」
客の一人の言葉に、店内が盛り上がる。
そこに突然、こうすけが爆弾を落とした。
「……あのさー。魔王って、なんで倒さなきゃいけねーの?」
「え……?」
店内が静まり返る。
俺も正直焦った。急に何言ってるんだ!?
「オレの居た世界には、魔王って居なかったから、わかんねーんだよ。魔王ってどんなヤツ?」
「どんなって……。」
村の人も戸惑っている。
「こうすけ様。魔王は、魔物に村を襲わせたり、由緒ある遺跡を破壊したり、悪逆の限りを尽くしているのですよ。」
オリヴィちゃんが、厳しい顔になって、諫めるような口調で言う。
「でも、ここは平和そうじゃん? 遺跡壊されたんなら、修理行かないとじゃねー?」
「まぁ、遺跡が破壊されたのは、俺が生まれる前のことだしなあ。」
呟くように言った村人に、こうすけが尋ねる。
「じゃー、村を襲わせたってのは?」
「……俺のばーさんが、昔話で言ってたかな。」
「ふーん。じゃあ、今回の魔王はまだ何もしてないんだ?」
「まだ何もしていないからと言って、これからもしないとは限らないです!」
ムキになって、オリヴィちゃんが言った。
「ま、そりゃそーだ。でもさ? もしも今回の魔王が悪いことしない奴だったら、ラッキーじゃね?」
「……どういうことですか?」
怪訝そうな表情のオリヴィちゃん。
「だって、悪い魔王が出て来て、その度にオレみたいな勇者を召喚してってのをずーっと繰り返してきたんだろ?」
「ええ……。」
「その魔王がこっちの味方になったら、この世界は平和になるんじゃね?」
「え?」
「だーかーらー。良い魔王がこっちの世界に根を下ろして暮らしてれば、新しい魔王が出てくることもねーんじゃねーの?」
「そうかなあ?」
「魔王が二人同時に出てきたことって、あんの?」
「聞いたことはねぇが……。」
「なら、試してみる価値あるんじゃね?」
「……それは、考えたこともなかったな。」
「うん。」
村人達の様子に、オリヴィちゃんが焦ったように言う。
「魔王に話が通じるとお思いですか!?」
「それは、会ってみなきゃわかんねーけどさ。」
と、ここで、こうすけの軽い調子に、村人達が冗談っぽく同意し始めた。
「確かに、勇者様の言う通りなら、万々歳だな!」
「勇者様と魔王が手を組んで、世界に平和が訪れるってか?」
「そうなったら、魔王が村に遊びに来たりってこともあんのか?」
「あっはっは! そりゃ面白ぇ!」
実際に被害に遭った世代が居ないからこその、このノリなんだろうなぁ。
「皆さん! 本気でおっしゃっているんですか!?」
オリヴィちゃんの剣幕に、村人達がひるむ。
が、こうすけは変わらない。
「オリヴィ、何ムキになってんだよ? 冗談だってことくらい判るだろ?」
「……ですが、」
「なんか、魔王が悪い奴じゃないと具合が悪いことでもあんの?」
「----!」
「まーまー、勇者様。オリヴィはクァンタン様に最も近い場所に居る子だから、勇者様みたいな考え方したこともなかったんだよ。」
「それでちょっと、混乱しちまったんだよ。な!」
村人達のフォローを尻目に、オリヴィちゃんは食堂を出ていった。
「ありゃ、しまった。……うーん。」
こうすけは困ったように頭をかいている。
「……なあ。お前、オリヴィ追っかけてくんね?」
よりにもよって、事後のフォローをこっちに振ってきた!
「な……!」
「いや、オリヴィがこんな話で泣くとは思わなかった……。気まずいから、ちょっとお前が話してきてくれよ。」
「ちょっとは本心隠す努力をしろ!」
「すまん!」
深く頭を下げるこうすけ。
……本当に悪気がなかったのか、こいつ。余計に性質が悪いよ!
「……わかったよ。」
呆気にとられた表情の村人達と、頭を下げたままのこうすけを店内に残して、俺はオリヴィちゃんの後を追った。




