もう今日は
「でりゃ!」
こうすけが気合い一閃、鳥の魔物に向かって斬りかかる。
「ああ、くっそー……当たんねぇ!」
鳥系の魔物は素早いからね。
大振りになりやすい大剣だと、うまく当たらないことが多いんだ。
俺もレイヴァティンで戦っていたときにそうだった。
「だから、無理して鳥系を狙わずに、地面を這ってる魔物倒せばいーのに。」
「お前が狩れるのに俺が狩れないワケにいかねーだ、ろっ!!」
俺が突剣で鳥の魔物を倒したときに、オリヴィちゃんが俺を褒めたのが癪だったらしい。
パーティーを組んでいる状態だから、誰が倒そうと経験値は均等に三等分されるし、どの魔物でもそんなに経験値が変わらないから、倒しやすいのを倒せばいいのに……という俺の意見は、こうすけに却下され続けている。
ま、鳥を倒せるようになれば地面にいる魔物はより倒しやすいから、悪い傾向じゃないけどさ。
「ぅわっ!?」
「こうすけ様、大丈夫ですか!?」
狙った魔物に反撃をされて、こうすけが仰け反った。
すかさず、オリヴィちゃんが傷を塞ぐ呪文を唱える。
なるほど。ダメージを防ぐ壁が作れるだけじゃなく、回復も出来るのか。
優秀なパートナーだ。
ただ、攻撃力はほとんどと言っていい程に無いみたいだけど。
さっき、もぐらみたいな魔物を持っている杖で殴っていたときには、駄々っ子パンチを連想した。
倒すのに、やたら時間もかかっていたし。
レベル上げを始めてから数時間。こうすけとオリヴィちゃんのレベルは着実に上がっていた。
まぁ、まだ二人とも7になったばかりだけど。
俺はまだ全然上がっていない。流石にそろそろ、1レベルは上がりそうだけどね。
こうしてみると、バルタザールとしていたレベル上げが、いかに効率が良かったのかを思い知らされるなぁ。
「あーもー、ダメだ。休憩~!」
こうすけが音をあげた。
最初の方は鎧のお陰かダメージをくらわなかったみたいだけど、少し奥に来たからダメージが入るようになってるからね。
回復はしてくれると言っても、精神的疲労は溜まるだろう。
「休憩だって、オリヴィちゃん。」
「はい。」
こうすけは既に地面に仰向けに倒れ込んでいる。
「オリヴィちゃん、ここ、座れば?」
「あ、ありがとうございます!」
倒れているこうすけに近い場所にある、手頃な岩に腰掛けるよう薦めた。
オリヴィちゃんはいそいそとその岩に腰掛ける。
こうすけの傍に居たいって感じだね。
「……あの。」
「ん? どうしたの?」
オリヴィちゃんが俺を見上げている。
「座らないんですか?」
「ああ、座るよ。ありがとう。……おーい、こうすけ?」
オリヴィちゃんの近くの岩に座りながら、こうすけに声をかける。
「……おー。なんだー?」
「休むんなら、岩の上をお薦めするよ。土の中には、モグラの魔物が居るかもしれないからね。」
俺の言葉に、こうすけががばっと起き上がった。
「お前、それ早く言えよ! 地中に引きずり込まれたらどーすんだ!?」
さっきそれで、こうすけが痛い目にあったのは内緒ね。
「いやー、言う前に倒れ込んじゃったからさー。」
「まったく……。」
ぶつくさ言いながら、オリヴィちゃんの隣の岩に腰掛けるこうすけ。
「今日はどこまで行かれる予定ですか?」
「もう少し----……。」
「もう今日は終わりでいーんじゃねー?」
俺の言葉に、こうすけが被せて言う。
「始める前と比べてみろよ。もう7倍のレベルだぜ?」
「最初が1だからね。」
「結構な時間此処に居るし、もう疲れた~!!」
こうすけが、我が儘を言っている。
「な! オリヴィももう疲れただろ!?」
「あ……は、はい……。」
有無を言わせないこうすけの口調に、オリヴィがおずおずと頷いた。
「よっし! じゃあおしま~い!!」
破顔して言うこうすけ。岩の上で器用に寝転がる。
しょうがないなぁ、もう。
「じゃ、少し休んだら帰ろうか。」
今までこうすけが、どうしてレベルが低いのか疑問だったけど、これが理由か。
まあ、ここで無理して関係を悪くしてもうまくないし、今日はここまでってことで。




