攻撃力こそ全て
「さてと。んじゃ、行きますかー。」
こうすけが朝食を食べ終えてから言う。
「はい!」
「何処に行く?」
「村の近くでいーんじゃねー?」
「そうですね。無理して遠くに行かない方が良いと思います。」
「んじゃ、しゅっぱーつ。」
「……って、ちょっと待った! こうすけ、装備は?」
「え? 装備?」
きょとんとした顔でこっちを見るこうすけ。
「あー……そういや、ゲームでも最初の狩り場行く前に装備整えてたな。」
「でしょ? で、金とかもらってるの?」
「あ、私が預かっています。武具屋さんと防具屋さんにご案内しますね!」
オリヴィちゃんを先頭に、まずは武器屋に向かった。
「お、オリヴィ。と、勇者様!」
「こんにちは。こうすけ様の武器を見に来ました。」
「おー、ゆっくり見てってくれよ。……って、昨日のあんちゃん?」
俺に気づいた武器屋の親父が、目を見開く。
「ども。」
俺が挨拶をすると、親父は嘆息して言った。
「なんだよ、勇者様の仲間だったのかー。言ってくれりゃあ良かったのに……。」
「言ったら割り引きしてくれたんですか?」
「いんや。勇者様なら仕度金が出てるだろうからな。より良い装備を薦めたところだ。」
「商魂たくましい……。」
「何、お前昨日もここ来たの?」
「うん、レベル上げの為の武器を買いにね。」
「お金は足りましたか?」
「うん、足りるくらいの値段の武器にしたからね。」
「大丈夫ですか? 少しでしたら融通出来そうですが……。」
言いながら、仕度金が入っているらしい袋を覗くオリヴィちゃん。
「大丈夫、大丈夫。狩った魔物の毛皮とかを売ればまたお金になるし。」
「そうですか……? では、勇者様の武器を見繕って頂きたいのですが。」
「仕度金は貴重なので、少しおまけしてくれません?」
「なんであんちゃんが値切ってんだよ!」
俺に向かってツッコミを入れながら、親父が両刃の大剣を持ってきた。
「勇者様はガタイがいいから、こういうのが良いと思いますぜ。」
「でかい剣だな。」
「まあ、それなりに重くはありますが、その分攻撃力があります。」
「じゃあそれで。」
「早っ!? 試しに持ってみなくていいの!?」
「ま、レベル上げながらやろうぜ。まだ防具屋にも行くんだろ?」
こうすけは、めんどうくさがっている。
って表示が、こうすけの頭の上に出ている気がした。
「では、防具屋さんに行きましょう!」
防具屋は、すぐ隣にあった。
まあ、考えてみればそうだよね。
「お前も防具買えば?」
「そういえば、防具は買ってないね。」
今まで、基本的に攻撃には当たらないように避けてたし、当たりそうな攻撃はバルタザールが受けてくれてたから、必要を感じてなかったなぁ。
「オリヴィも買わなきゃだろ?」
「いえ、この村だと修道服が私が着られる一番良い防具ですので。」
「じゃ、二人分か。」
「二人分買うと、グレードが下がるかも。俺、まだ金あるし、自分でどうにかするよ。」
「……それでいーのか?」
「うん。こうすけが防御力の強い鎧で、頑張って敵の攻撃を引き受けてくれればいいよ。」
「なん、だと……?」
愕然とした表情になるこうすけ。
なんでだよ。重装備の大剣使いなんだから、思いっきり前衛じゃないか。
俺は武器的には軽戦士だから、攻撃に当たっちゃダメなの。
こうすけに、各々の戦闘時の役割を説明すると、納得したような声を出す。
「はー……。軽戦士ってゲームでもやったことねーや。」
「攻撃力こそ全て、って感じ?」
「そうそう。」
「ま、それも正しいけどね。」
言いながら、手頃な防具を見る。
鉄製だと動きが遅くなりそうだし、皮製の鎧がいいかな。
「お、これカッコいいじゃん! 頭から足の先までガッチリの鎧!」
こうすけが、フルプレートを見て声を上げる。
「こうすけ様、それだとお値段が……。」
「あ、そう。じゃー、金足りるやつでいーよ。」
……良かった。金が足りなくて。
下手に金があって買ったら大変だった。
初心者(レベル1)がフルプレート着たら、動けないと思う。
城にあったフルプレートを試しに着てみたことあるけど、洒落にならないくらい重かったからね。
結局、こうすけは鉄製の鎧を、俺は皮製の鎧を買って、狩りに出掛けた。
「うっわ、歩き辛っ!」
こうすけが、ガシャガシャ音を立てながら一番前を歩く。
「それで剣を振るうんだから、慣れなきゃだよ。」
「めんどーだなー。」
「がんばれ、ゆうしゃ。」
「くそ……。絶対バカにしてんな?」
「してないしてない。」
「お前より俺のが、武器も鎧も強いんだかんなー!」
「頼りにしてるよ。」
「こうすけ様、頑張りましょう!」
「お……おう。」
両手を拳の形にして力強く言うオリヴィちゃんに、こうすけが気圧されたように頷いた。
「もう少し行くと森がありますので、そこの魔物を倒しましょう。」
オリヴィちゃんの誘導で、俺達は狩りをする場所に向かうのだった。




