明日から……
「そうだったんですか~。」
こうすけ君が酒場で俺と意気投合したことを話すと、オリヴィちゃんはそれをニコニコしながら聞いていた。
「是非、こうすけ君と仲良くしたいと思ってるんですよ。」
「てことだから、これからこいつも一緒に行動することがちょいちょいあると思う。」
嘘は、言ってないよ。
「わかりました!では、これからよろしくお願いいたしますね。」
俺に笑顔を向けるオリヴィちゃん。
「よろしくね。」
さて、これからこの子を攻略(?)しなきゃいけないわけだけど……普通に俺が魔王だと明かしたら、裏切り者! って思われて終わりだよなー。
前々回のように四人パーティーが揃って関係が出来るまで話すのは辞めた方がいいかな。
残り二人のパーティーメンバーもこっちに引き込めれば、オリヴィちゃんを懐柔出来る可能性も上がるだろうし。
「それで、こうすけ様。今日はこれからどうなさいますか?」
「あー……んー、そうだな。とりあえず今日はゆっくり休んで、明日からレベル上げにでも行こっか。」
「え?」
「明日から……ですか?」
こうすけ君の言葉に、俺とオリヴィちゃんが同時に聞き返す。
「ほら、村もまだ祭りな雰囲気じゃん? それに水差すのもなー、みたいな……。」
「こうすけ様が、そう仰るなら……分かりました。」
「じゃあまあ……そういうことで。」
何だか微妙な雰囲気になって、結局今日は解散、ということになった。
こうすけ君……やる気無さすぎないか?
あんなくらいが普通なの?
オリヴィちゃんも、あっさり従っちゃうし。
いいか。俺だけでもレベルを上げに行こう。
それと、安めの剣が欲しいな。まさかオリヴィちゃんの前で魔剣を使うわけにもいかないし。
こうすけ君は確か両刃の大振りの剣を使ってたから、軽くて細い突剣みたいなのを村の武器屋で探しておこう。
「すいませーん、剣、見ていってもいいですかー?」
「おー、いいぜー。出来れば見るだけじゃなく買ってってくれよー。」
店の親父さんの軽口に笑顔で返事をしながら、細身の剣が多く置いてある場所を見ていく。
へー……結構長さも色々あるんだな。
「あんちゃん、冒険者かい?」
「ええ、まあ……。」
「あんちゃんくらいの体格だと、その辺の剣が良いだろうな。軽くて取り回しがしやすい。」
「なるほど……。」
「勇者様くらい背がでかけりゃ、大剣のほうが攻撃力があっていいんだけどな!」
……俺が小さいんじゃないよ。こうすけ君がでかいんだよ。
顔だけ見ると優男って感じなのに、背は少なくとも180cm以上はあるとかズルくない?
「俺だと、大剣使うのは難しいですか?」
「そーだなあ。あんちゃんが腕力に自信があるんなら話は別だが……。」
「特にそういうわけではないですね。」
「んじゃ、難しいだろうな。」
「そうですか。」
ラミーヌから貰った手袋、相当良い品だったんだなあ。
あれ着けてると、レイヴァティンも軽く感じたし。
「俺くらいの体格でも大剣を振り回せるようになるアイテムとかって、ないんですか?」
「少なくとも俺は聞いたことねーな。ま、広いこの世界、ないとは言い切れねーがな!」
……ん? そう言えばラミーヌが自分で作った手袋だって言ってたか。
じゃあ人間の村にはないのも頷ける……って、待てよ? 確かラミーヌは、人間にも同じこと出来る奴が居るとか言ってたような……?
まあ、片田舎の武器屋の親父さんが、その技術を知らないってだけなのかもしれないよね。
結局、細身の長剣を一振り買って店を出た。
……なんだか、普通に買い物したのって久しぶりかも。
そうだよ。魔王でもこうやって、村に溶け込めるじゃん!
こうすけ君も悪い子じゃないし、きっとクァンタンからアルドの核を奪って正体を暴けば、魔王側と人間側は和解出来るよ!
些細なことで今後の展望に期待を持てた俺は、買ったばかりの細身の剣に慣れるために、バルタザールと共に狩りをするのだった。




