勇者と仲良く
「魔王さまー、なんで強くなりたいのー?」
しばらくレベル上げをしていると、バルタザールが聞いてきた。
「やらなきゃいけない事があるんだ。」
「強くないとできないのー?」
襲い掛かってくる魔物を両腕で抑えながら問うてくるバルタザール。
「そうだね……。弱いと出来ないかな。」
「何がしたいのー?」
「うーんとね……大まかに言うと、勇者と仲良くしたいんだ。」
「勇者と? なんでー?」
「実は俺----。」
バルタザールに事の経緯を説明する。
勇者にやられても元の世界に帰れる保証がないこと、例えば元の世界に戻れたとしても無事じゃない可能性が高いこと、ならばこの世界で生きることを選択しようと思ったことを話した。
「ふーん。」
あ、話半分どころじゃなく分かってないな?
ま、いいけどさ。
「勇者は、魔王さまが弱いとなかよくしてくれないのー?」
「いや、まあ、仲良くするにも手順があってね。」
「てじゅん?」
どう説明したものか……難しいなあ。
「俺と勇者を仲良くさせたくない奴が居るんだよ。で、そいつの攻撃から身を守るためにも、強くならなきゃいけないの。」
「そーなんだー。」
こんな話をバルタザールとするのは初めてだな。
ちなみに、話ながらもレベル上げの手は止めていない。
バルタザールに守ってもらいながら、城の周辺でレベル上げをしている形だ。
その日のレベル上げは順調に終わり、俺のレベルは一気に15になった。
「よし、じゃあそろそろ帰ろうか。」
「はーい! 楽しかったねー、魔王さまー!」
「そっか、良かった良かった。」
にこにこ顔で言うバルタザールだが、城の近くまで来たところでピタリと足を止めた。
「んー……バルはここでバイバイするねー。」
「そっか……。やっぱりアルドが苦手?」
「あのちっちゃい奴のこと?」
「そうそう。」
「うん、あいつがいやー。」
バルタザールのこの勘のお陰で色々と早く気付けたんだけど、せめてアルドと一緒に居ても大丈夫なくらいには仲良くなってくれればなぁ……。
ま、無理強いは出来ないか。
「アルドは俺のやりたいことに協力してくれることになってるから、あんまり嫌わないであげてね?」
「んー…。」
渋い顔のバルタザールは、また明日と言葉を残して去っていった。
「ただいまー。」
「お帰りなさいませ。本日の成果は如何でございましたか?」
「うん、レベル15までいったよ。」
「ず、随分とお早い……。」
「協力してくれる魔物が居るからね。」
「左様でございましたか。お夕飯にされますか?」
「うん。あ! アルドとクレマンも一緒のテーブルで食べようよ。テーブル広いじゃない?」
「……わ、わかりました。」
やはり一緒に食事には抵抗があるらしく、アルドは微妙な顔だ。
「で、その後呪文の練習に付き合って欲しいんだけど、いいかな?」
「姿を消す呪文ですね。かしこまりました。」
食事の後、城の中庭で姿を消す呪文の練習をした。
わざわざ中庭でやるのは、部屋の中よりも外の方が成功率が悪くなるからだ。
アルド曰く、人工の明かりよりも自然の明かりのほうが、味方につける為にはきちんとした発音が必要らしい。
感覚的過ぎて難しい……。
それと、姿を消していられる時間は、レベルに依存するところが大きいとか。
大体レベルの倍……今の俺だと30分くらい消えていられる。
姿が見えないだけで、物をすり抜けられるわけじゃないから、使うタイミングとかに気を付けないといけないね。
「……ふぅ。まあまあ成功するようになったかな。」
「そうですね。たまに発音が怪しいですが。」
「うー……難しいんだよなぁ。」
文字単体では発音出来ても、流れの中だと甘噛みみたいになる。
「まあ、繰り返し練習をするより仕方ありませんね。」
「頑張るよ……。」
「あ、それと魔王様。」
「うん?」
「あ奴に魔王様の様子を伝えに、明日よりパトリスへと向かいます。」
「そう……。俺も行こうかな。」
「魔王様も行かれるのですか?」
「うん。ちょっと勇者に関して知りたいこともあるからさ。」
「それは構いませんが、あまりタイミングが同じだと、あ奴に怪しまれる可能性も……。」
「ああ、それは大丈夫だと思う。アルドは馬で行くんでしょ?」
「ええ。」
「俺、馬より早いので行くから、到着は数日単位でずれるんじゃないかな。」
「レベル上げに協力したという魔物のことでございますか?」
「そうそう。」
「では、各々パトリスに向かうと致しましょう。」




