用心深いお方
視界が開ける頃には、周りの景色が歪み始めていた。
バルタザールとラミーヌは動きを止めている。
実に覚えのある光景だ。やがて視界がブラックアウトして----。
実は今回戦っていた場所は、最初に俺が召喚された部屋だったので、場所の移動はほぼ無かった。
今、目の前に居るのはやはり、アルドだ。
「魔王様。召喚の儀に応じて頂き、ありがとうございます。」
さてと。まずはアルドを味方につけてヨルゴから核を取り戻そう。
それから、オリヴィちゃんの懐柔案も考えないとね。
「ねぇ、アルド。」
「……何故、私の名前をご存知なのでしょうか?」
アルドの問いに敢えて答えずに、一番興味を引きそうな言葉をまず伝える。
「ヨルゴから、核を取り戻したいと思わない?」
俺の言葉に、アルドは訝しげに目を細めた。
「……時が戻るなどと、なかなかに信じ難いですが、疑問点には全てお答え頂きましたからね。」
ひとしきりの説明を終え、いくつかの疑問に答えたところで、アルドは少し困ったような表情でそう言った。
「じゃあ、信じてくれる?」
「ええ。でなければ、あ奴のことまで話した私の行動を無に帰すことになるでしょうから。」
「ありがとう。」
「では当面、魔王様は姿を隠す呪文の習得にお時間を割かれるので?」
「それもだけど、平行してレベル上げもしないとだよね。アルド、ヨルゴのレベルが幾つかって、知ってる?」
「あ奴の申告では45前後とのことでしたが、詳しくは分かりません。」
「呪文で見てみたことないの?」
「見ようとすれば、目の前で呪文を唱えなければなりませんからね。核を奪われている相手に面と向かっては、し難いですよ。」
「ああ、そっか。ちなみにアルドは?」
「私ですか? 40でございます。」
「前回の俺よりちょっと低いくらいか……。」
「ま、魔王様が40レベル以上にまで、上げられたのですか?」
「うん。その前の回はもっと時間があったから、60手前くらいまで上がってたよ。」
「歴代の魔王様で、そこまでレベルを上げられた方はいらっしゃいませんでした……。と、いうか、歴代の魔王様には油断をして頂くべく、既にお強くていらっしゃると伝えておりましたが……。」
「ああ、そういえば最初に俺もそう言われた。」
「私の言葉をお信じにならなかったので?」
「いやー……俺、心配性なんだよねー。だから上げられるだけレベルを上げてから勇者に挑もうと思ってたんだ。」
まあ、そのせいでループが始まったとも言えるわけだけど。
「勇者の力も確認しに行ったりしたよ。」
「……用心深いお方なのですね。」
「そう言うと聞こえはいいけどね。あ、そうそう。ヨルゴを油断させておきたいから、とりあえず普段通りに魔王を召喚したことと、魔王はいい気になって遊んでるって伝えておいてね。」
「かしこましりました。」
「……アルドがレベルを上げたりしたら、勘繰られるかな?」
「可能性は大いにありますね。あ奴は気紛れに私のステータスを確認するので。」
「じゃあ、アルドのレベルは上げない方がいいか。それと、倉庫にある魔剣、借りるね。」
「そんなことまでご存知とは……。あ奴から核を奪い返すのも不可能ではない気がして参りました。」
「あ、やっぱりあるの知ってて黙ってたのね。」
「すみません。……あわよくば最終決戦を前に、勇者側の戦力にテコ入れをする為のものですので。」
「いやいや、いいよ。最初のアルドは、俺が魔剣持ってるの見て焦ってたのかなぁって思っただけだから。」
「そうですね……まさか雑多に置いてある倉庫から、魔剣を選ばれるとは思っていなかったでしょうからね。」
「だよねー。」
アルドとこんな打ち解けた感じになるなんて、なんだか不思議だ。
「じゃあちょっと、レベル上げしてくるね。一応、城の警備に着くジャメル達を増やしておいてもらえると嬉しいな。」
「お任せください。……クレマンのことも、ご存知なのですよね?」
「勿論。あ、でもクレマンは俺のこと知らないもんね。挨拶して行こう。」
調理場で仕事をしているクレマンによろしくと挨拶をして、夕飯時までには帰ることを伝え、城を出る。
さて、と。
最初のときは、レベル上げとか考えずに、闇雲に城の外に出たところ、野性の魔物に襲われて、危ないところをバルタザールに助けられたんだよね。
今、見える範囲にバルタザールは居なさそうだ。
この辺の魔物、地味に強いから大変だけど、ちょっと一人で戦ってみるか。
レイヴァティンがあるからか、苦戦はするものの負けはせずに戦っていると、草むらからガサガサと音を立ててバルタザールが出てきた。
「んー? だれー?」
首を傾げるバルタザールに、俺は魔王だと名乗り、一緒に遊ぼうと誘って、レベル上げを開始した。




