決着
しばらく待っていると、階上からの振動が続く中、この部屋に続く階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「……ったく、魔王は城の最上階に居るって相場が決まってんだから、先に地下を見るなんて無駄だっつーの。なぁ、オリヴィ?」
「きっと、クァンタン様にはクァンタン様のお考えがあるのですよ、こうすけ様。」
そんな会話をしながら、勇者が扉を開ける。
「お? 誰か居る。」
扉の向こうから首を覗かせた勇者が、意外そうに眉を上げた。
「どうも。」
俺が普通に挨拶をすると、勇者は戸惑ったようにしばらく動きを止めた。
「……えと、ちょっと待っててな。」
そう言い残すと、勇者の首が引っ込む。扉の向こうで何かを話しているようだ。
やがて、再び扉が開いた。
扉の向こうから、二人の人間が入ってくる。
あれ? 勇者一行って四人だったような……?
「えーと……俺、勇者の孝介ってんだけど……おたくは?」
勇者が話しかけてきた。
「俺は魔王だよ。」
簡潔に答える俺。
「……マジで? なんでこんなとこにいんの!?」
「作戦だから、かな。それよりさ、こうすけ君。俺が何をしたから、君はここに来たの?」
「へ?」
「まさか何もしてない奴を、ただ魔王だからって理由で倒しに来たわけじゃないでしょ?」
「あ……当たり前、だろ!」
俺の質問にどもりながら答える、こうすけ君。
目が泳いでる泳いでる。
「魔王は、歴史ある遺跡を壊したり、魔物に人間の村を襲わせたりしました!」
こうすけ君の隣にいる聖職者風の女の子が、代わりとばかりに答える。
「それは過去の魔王でしょ? その魔王はもう、過去の勇者に倒されたじゃない。現在の魔王である俺は、何をしたの?」
「な……! あ、あなたも魔王である以上、同じことをするに決まっています!」
「それってさ、例えばある人間が殺人をしたとして、同じ人間である以上他の奴も殺人をするに決まってるってこと?」
「に、人間と魔王を一緒にしないでください!!」
「じゃあ人間と魔王の違いって何?」
「だから魔物を使って……!」
「それ、俺はしてないって言ったよね?」
「あのさー、オリヴィいじめんの、やめてくんないか?」
無視される形になったのが気にくわないのか、こうすけ君が割り込んでくる。
「ああ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけどね。」
「じゃあ、どんなつもりだったってんだ?」
「純粋な疑問だよ。何もしてないのに、悪いことする筈だって決めつけられると、気分悪いでしょ?」
「……お前が悪いことしてないって証拠は?」
「ないことの証明は不可能だよ。証明義務があるのは、そっちだ。」
俺の言葉に、勇者が更に苛立つのがわかった。
「まあ、こんな問答してても時間の無駄だ。お前が魔王だってんなら、倒しちまえばオールオッケーってことだろ?」
勇者の言葉に、思わず嘆息する。
「……なんでこう、人間側には話し合う余地のない奴が多いんだろうね。」
「人間と魔王ってのは、相容れないもんだからだろ!」
「こっちには、そちらを受け入れる準備があるんだけどね。」
「そんなの、嘘に決まってます!!」
……大事なところになると、オリヴィちゃんが割り込んでくるなぁ。
そうか、これもヨルゴの作戦なのかな。
妄信的な人物で勇者の周囲を固めて、勇者が魔王に対して疑問を抱かないようにするっていう……。
「なるほど。キーは君か……。」
次回はこの子の対策も考えなきゃね。
「な……なんですか! 私は魔王なんかには屈しませんよ!!」
「オリヴィに変なことしようってんじゃないだろうな!?」
何か勘違いをして激昂する二人。
仕方ない。どうにかループしないで終わらせられればと思ったけど、無理そうだね。
「まあ、じゃあ……戦おうか。」
「最初っからそう言やいーんだよ。いくぜ!」
俺の言葉に、こうすけ君が応える。
俺達の問答をぽかんとしながら見ていたバルタザールとラミーヌに目配せをすると、気を引きしめ直したという風にこくりと頷いた。
「うおぉぉりゃああああ!!」
威勢の良い掛け声と共に剣を振りかぶる、こうすけ君。
おお、そっか。前回は攻撃に入る前に倒しちゃったからなぁ。
そんなこうすけ君に向かって、とりあえずブレスを浴びせる。
ラミーヌが、俺の後ろで呪文の詠唱準備をしているのを感じた。
「こうすけ様っ!」
オリヴィちゃんが、手を前に向かって伸ばす。
すると、こうすけ君の前に壁のような何かが現れた。
俺のブレスがまずその壁に当たり、壁が甲高い音と共に割れる。
「く……!」
壁で防ぎきれなかったブレスを浴びながら、こうすけ君は前進してくる。
なるほど、防護壁か。
久しぶりにファンタジーっぽさを感じた気がする。
俺の息が切れたのを見計らって、ラミーヌが火の呪文を唱えた。
オリヴィちゃんが立て続けに防護壁を張るが、レベルの高いラミーヌの呪文は、到底防ぎきれないらしい。
こうすけ君の前進が止まった。
「うぉ……!?」
よし、これなら押しきれる……!
俺は大きく息をついで、風の呪文を唱えた。
そして------。




