侵攻
「ええ、まだ勇者どもは来ないと思いますので、日帰りでしたら大丈夫かと。」
「わかった、ありがとう。」
俺はアルドに、洞窟で拾ってきたネックレスを、ラミーヌが帰ってきたら渡しておいてくれと言付けて城を出る。
そして、城から少し離れた場所まで行き、レイヴァティンを構えてブレスが出せるかを確かめた。
驚いたことに、このレベルでもブレスは出せるようだ。
前回はもっと上のレベルになるまで出せなかったのに……!
なんでだろう? コツを掴んだからってこと?
まぁ、出せるならそれに越したことはないけど、心なしか前回よりブレスの勢いが弱い気がする。
これじゃあ、前回みたいにブレス一発で倒すのは無理かも……。
ブレスを出し終えた直後は、どうしても息継ぎが必要だから、そこから如何に間を置かずに呪文を唱えられるかが大事になりそうだね。
そろそろ風の呪文だけじゃなくて、火や水の呪文も使いたいんだけど、発音の難しさがネックで、火や水の呪文の発動率は7割を切っている。
7割って、悪くない気もするけど、やっぱり一発勝負の場面で頼りたい代物ではないよね。
そんなこんなで二週間程が過ぎ、今、城からは勇者と騎士団らしき奴等がテントを張っているらしき明かりが見える。
距離が離れているので呪文で攻撃も出来ないし、明日には攻められると腹を決めるしかないだろう。
ちなみに、この二週間の間に、ラミーヌの身の上話を聞き、ネックレスの礼に手袋をもらった。
ラミーヌの身の上話は何度も聞きたい話ではないけど、話した後にラミーヌ自身が少しすっきりした顔をしていたので、聞いてよかったと思った。
「バル、城に泊まって大丈夫?」
「イヤだけど、だいじょぶー。」
バルタザールは、今夜は城に泊まると言って聞かなかった。
アルドとラミーヌがいるということで、やはりおちつかないようだけど、城から出る方が嫌らしい。
「じゃあ、明日には勇者が来そうだし、もう寝ようか。」
「はーい! 魔王さまー、となりで寝ていい?」
「良いけど……。」
俺のベッドは一人用だから狭いかも……と思っていたら、バルタザールはベッドの横の床に伏せた。
あ、そこでいいのね。
翌日。
朝早くから外で音がしている。
「皆、今日が正念場になると思うけど、頑張ってね。あ、それと! 投降してもいいからね? むやみに殺されることないから。」
俺はジャメル達を前に言う。
なんだか今回のジャメル達は士気が高いみたいだから、頑張りすぎそうで心配だなぁ。
「うーんと……じゃあ、よろしくね? 皆。」
俺の言葉にジャメル達が拳を挙げて、各々配置につく。
「魔王様、私は……どうしましょう?」
ラミーヌが不安そうな顔で聞いてきた。
「ラミーヌは、俺と一緒に戦って欲しいんだけど、大丈夫?」
「あ、は、はい! わかりましたっ!!」
俺は地下の、勇者と戦う予定の部屋に向かいながら、ラミーヌに作戦を話す。
戦いが始まったら、まずは俺がブレスを勇者に向けて吐くこと。
そしてその後、俺が次の呪文を唱えるまでに少しタイムラグが発生するので、その間に風以外の呪文をラミーヌに唱えてほしいこと。
何故風属性以外の呪文かというと、同じ呪文は効果が切れてからでないと発動しないからだ。
例えば、竜巻の呪文を唱えると、その竜巻が消えるまでは同じ竜巻の呪文を唱えても意味がないのだ。
別の呪文なら、立て続けに唱えて効果を出すことが可能なので、ラミーヌにそれをお願いしたというわけ。
「な、何の呪文がよろしいですか……?」
「んー……火かな。風と愛称良さそうだし。」
火は風で煽られて大きくなるからね。
「は、はいっ!」
昼を過ぎた頃、城内がざわつき始めた。
「来たみたいだね。」
「そーだねー。」
落ち着いている俺とバルタザール。ラミーヌは、落ち着かないようでそわそわしている。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「アルドの作戦? そうだねー。なかなか綱渡りな気もするけど、今はアルドのことを信じようよ。いざとなったら、俺たちも上に行けば……。」
「いえ、そ、そうではなく……。」
「ん?」
「私なんかの呪文が、勇者に通用するでしょうか……?」
「ああ、そのこと? 大丈夫だよ。ラミーヌ、レベル高いじゃない。」
ラミーヌのレベルは57らしい。今の俺よりずっと高い。
「頼りにしてるよ。」
俺の言葉に、ラミーヌが焦ったように肩を竦める。
「め、滅相もないです……。」
「出来れば長引かせたくないから、最初から全力でいくよ。」
「わ、わかりましたっ!」
「はーい!」
「まあ、ホントは話し合いで折り合いがつけば、一番いいんだけどね……。」
呟く俺に、ラミーヌが微笑んで言う。
「……魔王様は、お優しいのですね。」
「え? そんなことないでしょ?」
「上級悪魔の方々は、話し合いだなんて考えもしませんよ。」
「あー……それは圧倒的な力を持ってるからじゃない? 相手を無理矢理暴力で従わせられる自信があるっていうか。」
「……そう、かもしれませんね。」
「俺は別に、そこまでの力も持ってないし、痛いのも嫌だからねー。戦えば、相手だけが傷つくわけじゃないでしょ?」
「そうですね……。」
そんな話をしていると、階上から音がしてきた。振動も響いてくる。
アルドのところまで勇者達が着いたようだ。
音がしなくなってからしばらく経っても勇者達が来なかったら、俺たちが上に向かう手筈になっているので、今はまだ待つしか出来ない。
仕方がないとはいえ、歯痒い時間が流れた----。




