作戦
「留守にしてごめん! 今どんな感じ?」
ラミーヌの伝令は数日前の状況だ。もしかしたら、新しい情報が入っているかもしれないと、アルドに現状を確認する。
「魔王様、申し訳ありません。先程来た伝令によると、勇者どもは双子砦の攻略にかかるようです。」
「え!? もう!? オラスの砦から双子砦まで、距離は相当あるのに……。」
「オラスの砦攻略開始と同時に、双子砦にも先遣隊を出していたようです。」
「で、オラスの砦を落とした勇者一行は、馬で先遣隊に合流……ってことか。」
効率的なことで。
見事に物量にモノを言わせてきたな……。
あまりにも双子砦に苦戦するようなら、後から来た軍隊も攻略に参加するのだろう。
「……あ奴らしい手です。」
苦々しい顔でアルドが呟く。
「まだ双子砦の整備は出来てないよね、きっと。」
「ええ。……魔王様。」
アルドが真正面から俺を見据える。
「次にループした際には、私に対してヨルゴの名を出し、核を取り戻せる可能性があることをまずお伝えください。」
「え?」
「ヨルゴの話を、私は誰にもしておりませんでした。そんな状況下で、召喚されてすぐの魔王様がその話をされれば、ループが存在することも信じる可能性が高くなるかと存じます。」
「いや、ちょっと……。」
「魔王様を私が信じれば、私からあ奴に伝わる情報を操作し、より有利な状況を作り出すことも可能でしょう。」
「ちょっと、待ってってば! まだループすると決まったわけじゃないでしょ?」
「いいえ。恐らく、数日中に双子砦は落とされるでしょう。そうなれば勇者どもがこの城に乗り込んでくるのも時間の問題です。」
「そんな……。」
「勇者にやられさえしなければ、無限の時間がある……と私に仰ったのは、魔王様ではありませんか。」
「……。」
「その無限の時間の礎となるなら本望です。私は未来の私の為に、今の私を差し出しましょう。」
「アルド……。」
「私とジャメル共で、勇者どもと魔王様が直接対峙する状況に致します。どうか勇者どもを倒し、時間を遡ってください。」
「でも、俺が勇者達に勝てるかは分からないよ?」
「恐らく勝てるかと。あ奴から得ていた情報からの推測ですが、此度の勇者は地味な努力が嫌いだとのことなので、あ奴の私軍を使って戦力の底上げをしているものと思われます。」
「勇者自体のレベルは低いってことか……。」
そういえば、前回もやたら勇者のレベルは低かったな。しかし、地味な努力が嫌いって……。もしかして、異世界に召喚されて、何か特殊能力にでも目覚めたのかな? で、努力なんか要らねーじゃん! ってなってるとか。
「魔王様。どうか私に貴方を、信じさせて下さい----。」
アルドが深々と頭を下げる。
「……わ、かった。」
俺は渋々了承した。
それから、如何にして勇者一行とそれ以外の戦力を分断するかを考えた。
結果立てた作戦は、アルドが階段入り口に陣取り、呪文で勇者一行のみを地下に続く階段へと追い込むというものだった。
「そんな便利な呪文、使えるの?」
「いえ。複数の呪文を併用しまして、巧く誘導致します。」
「なんか……大変そうだね。」
「ですが、そこが一番あ奴に邪魔される可能性が低いかと。」
「そうなの?」
「通例として、魔王様は城の最上階に陣取ります。勇者どもだけを階上に追いやろうとすれば邪魔に入るでしょうが、階下に追いやるのであれば邪魔をしない可能性が高いと思われます。」
「どうして?」
「あ奴としては、勇者が直接魔王様を倒さずとも、勇者が魔王様の城に居る状態で魔王様が倒れれば良いのです。」
「うん……。」
「となれば、レベルに不安のある勇者には、攻略にあまり意味のない地下に行ってもらい、レベルの高いあ奴の私軍で最上階の魔王様を倒すのが最良の策。」
「……なるほど。」
「ですので魔王様には、地下にて勇者どもを討っていただきたく存じます。」
「普段と逆の配置にすることで、勇者一行と俺が戦えるようにするってことだね。わかったよ。」
「不確定な要素は多いですが、時間がないので仕方ありません。魔王様、少しでも多く上級呪文を覚えておいて下さい。」
「うん。」
あ、そういえば、ブレスってもう吐けるのかな?
「ねぇ、アルド。ちょっと確かめたいことがあるから、外に出てきて良い?」




