魔王の思いつき
「よっ! ……っとと、やっぱちょっと重いなぁ、これ。」
「重心がたかいと、振り回されるよー。足をねー、ちょっと曲げるといいんだよー。」
そう言って、馬の足を曲げて見せるバルタザール。
真正面から見たら、丁度膝を曲げたような格好に見える。
器用だなぁ。上半身がそうだから、人間の感覚に近いのかな?
「ちょっと……膝を曲げて……ん、少しはマシだけど、やっぱり重いね。今日から筋トレしないと。」
「きんとれー? 今やるー?」
「いや、今はちょっと……。城に帰ったらやるよ。」
「えー? じゃあバルもお城で、魔王さまと一緒にやるー!」
バルタザールと話しながら、周りの魔物を倒していく。
斬れ味はすごく良いんだけど、重さのせいで攻撃方法が、振り回すか降り下ろすか、の二択になってる……。振り上げるのは、今の俺の筋力じゃ無理っぽい。
空振りしたときの隙が大きいなぁ。
「んじゃ、剣を使って戦うのは、今日はここまで。城に戻って、基礎からやんないとね。」
「帰るのー? じゃあバルに乗ってー、魔王さまー。」
「うん、ありがとう。」
城に戻った俺とバルタザールは、庭で筋力トレーニングを開始した。
腕立て、腹筋、背筋……と、腿上げ。
元の世界に居るときには、別にスポーツとかやってたわけじゃないから、どんなのが効果的なのか分からないし、ひとまず全身をバランスよく鍛えることにしよう。
別途、必要な筋力は、戦いの中でつくだろうし。
「バルはこっちのほうが上半身鍛えられるんだよー!」
下半身が馬なので、俺と同じ姿勢ではトレーニングが出来ないらしく、バルタザールは太い木にぶら下がって、懸垂をしている。
……結構体重あるだろうに、腕だけで懸垂出来るんだ。凄いな。
と、バルタザールのほうを眺めながら腹筋をしていると。
「魔王様、今よろしいですか?」
アルドが話しかけてきた。
「ん? いいよ。ここでいい? それとも、城内に入る?」
情報漏洩を防ぐために周りに音を聞こえなくする呪文は、壁のあるところでしか使えないらしいので、重要な情報は屋内で、が基本になっている。
「いえ、ここで問題ございません。先程、諜報活動に出させていた魔物から伝達がありまして……勇者が、最初の町を出たようです。」
「……そう。てことは、あと半年くらいで此処まで来るってことになるのかな?」
「はい。通常であれば。」
「半年じゃあ、今のこっちの戦力的に、心許ないね。」
「ですが魔王様がおられれば、問題ないかと。」
「俺一人の力なんて、たかが知れてるよ。……よし、オーディションをしよう。」
「オーディ……ション……ですか? それは一体……?」
不思議そうに首をかしげるアルドに、俺は目的とやることを簡単に説明した。
俺がしようとしてるのは、魔王の味方オーディション!
現状、城にいる魔物は、いわゆる衛兵みたいな感じのが、一種類だけ(ジャメルという種族らしい)。それなりに数がいるとはいえ、これじゃあ勇者が乗り込んできたときに、戦力不足なのは確実。
そこで、俺が強くなるまでの足止めも含めて、強い魔物を味方にして、勇者と相対してもらおうという目論見だ。
魔王は魔物にとって憧れの存在らしいから、「魔王が味方になる魔物を探している」という情報を流せばそれなりに強い奴がやってくるだろう。
勿論、有象無象が数ばっかり居ても勇者を強くするだけだから、アルドにレベルを見る呪文をやってもらって、今の勇者の倍くらいある魔物を味方にする。
「と、そういえば、今の勇者は何レベルくらいなの?」
「えー……話によると、15レベルだということです。」
「は……? 15?」
ちょっと、勇者のレベル低くない? 俺、今35レベルだぞ?
あ、勇者補整か何かで、ステータスは俺より高いとか?
……あり得るな。
俺のステータスも、他の値に比べてHPの上がりだけが異様に高い気がするし。
「んと、じゃあ30レベルくらいの魔物達に、魔王の仲間になれるチャンスだよって伝令を出してくれる? で、なりたい奴は城に来いって伝えてよ。希望者が来たら、俺も会ってみるから。」
「……かしこまりました。」
こうして、魔王プレゼンツ 第一回 対勇者用魔物選抜オーディションが行われることになりました。




