疑念
急いでその場を離れた俺は、何食わぬ顔で正教会が行われていた会場に戻った。
幸い、会場には人が居なかった。
次の会まで二十分。
さっさとここから立ち去ろう。
足早に村の中を通り過ぎ、バルタザールの待つ場所に向かった。
「おかえりー、魔王さまー。」
「うん……。とりあえず、行こうか。」
「んー? うんー。」
少し首を傾げたバルタザールだったが、指示に従ってくれる。
村からしばらく離れたところで、バルタザールには止まってもらった。
「魔王さまー、大丈夫ー? お腹いたいー?」
「大丈夫だよ……ありがとう。」
あ、そうだ。バルタザールに聞いてみよう。
「ねぇ、バル。魔王の城に居る……えっと、眼鏡をかけた背の小さい男って、知ってる?」
「あー、あの魔族ねー。」
バルタザールが露骨に嫌そうな顔をする。
「バルあいつ、きらーい。」
うん、そこなんだよ。
「どんなところが嫌い? 見た目とか?」
「見た目はどーでもいー。」
どうでもいいって……まぁ、どうでもいいのか。
「じゃあ、性格?」
「話したことないから、しらないー。」
話したことすらないのに、嫌いとか……。
「あいつ、なんか変なのー。」
「ん……変って?」
「魔族なのに、人間くさいのー。」
「……なるほど。」
それは、さっき俺が見たことを裏付けるものだ。やっぱりアルドは、人間と通じている。
ちょくちょく人間と会ってるから、バルタザールにはその匂いが嫌悪感の原因になっているんだ。
「魔王さまは、あいつ好きなのー?」
「……ちょっと前までは、少なくとも信じてたんだけどね。」
今は正直、アルドにどんな顔して会えばいいのか分からない。
アルドの目的が何なのか分からないから、こっちが迂闊に動くのもどうかと思うし。
アルドのことも気になるけど、俺はまず、時間が戻る条件を確定させる為に動くことにした。
条件が「勇者を倒す」なのか「魔王城で」という場所含めてなのか、だ。
「ここで、勇者とたたかうのー? 魔王さまー。」
「うん。」
俺とバルタザールは今、オラスの砦に来ている。
条件を探るには良い場所だと思うんだ。確定時期は、なるべく早い方がいいからね。
オラス達に会えないのは、ちょっと寂しいけど。
あと、この動きによって、アルドがどんな邪魔をしてくるか分からないのが不安といえば不安かな。
魔王城から離れる分、手を出しづらく……なってくれるといいなぁ。
とりあえず、ここで戦うことをアルドには伝えよう。
「……バル。ちょっと、レベル上げに付き合ってくれる?」
「いいよー。」
このままバルタザールの足で帰ると、アルドが帰るよりも早く城に着く可能性が高い。
アルドに対する態度を決めかねている今、なるべくアルドに会うのは遅らせたいからね。
少なくともレベル20は超えてから城に戻ろうかな。
この辺りは、食べられる果物もあるって話だし、一週間……いや、数日なら大丈夫だろう。
結局、五日間レベル上げをし、俺のレベルは20まで上がった。
バルタザールが結構頑張ってくれて助かった。
「バル、ありがとう。」
「楽しかったねー! また行こーねー!」
「そうだね。でも、一度城に戻ってからね。」
さすがにそろそろ、クレマンの作る食べ物が食べたい。
やっぱ果物だけとか飽きるよ……。
「じゃあ、あしたー?」
「かな。」
「わかったー!」
そんな話をしながら、魔王城に向かう。バルタザールの足なら今日中に着けるな。
「魔王様! ご無事でしたか!」
城に戻った瞬間、アルドが駆け寄ってきた。
態度に変化は見られない……と、思う。
「心配かけてごめんね。」
「いえ、無事お戻りになられればそれで……。」
「ああ、それでさ----。」
俺はオラスの砦で勇者を迎え撃つつもりだということを、アルドに伝えた。
「はぁ……。理由を伺っても宜しいですか?」
「勇者をやっつけるんなら、早い方がいいじゃない?」
「そう……ですね。」
「でしょ?」
笑顔でアルドを見る。深く考えてはいない、と判断してくれるといいなぁ。
「分かりました。では、拠点をそちらに移しましょう。ここから、かの砦までは距離がございますので。」
「----そうだね。」
若干迷うところだけど、城に残られて動きが全く見えない方が恐いからね。
「では、そのように城の物達に伝えます。」
「うん、よろしく。……あ、そうだ! クレマンにまず、食事の用意をお願いしてもらえるかな?」
「かしこまりました。」
あとは----そうそう、上級呪文も覚えておいて損はないよね。
「ああ、それと、呪文書借りるね。」
「……どうぞ、お役立て下さいませ。」
うーん……やっぱり何か、以前とは感じが違う気がするなぁ。
と、それよりも、今度は勇者との対決がかなり早まるから、さっさとブレスを吐けるレベルにならないと!




