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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
26/76

探り

何となく凹んだままバルタザールの所に戻った俺は、もう一つの目的を思い出した。

そうだよ、村の人達に、魔王と戦う理由を聞かないと!


「あのー、ちょっと聞きたいんだけど……。」

フィーバー状態のパトリスに舞い戻り、浮かれているおじさんに声をかける。

「んー? なんだい? あんちゃん。」

……さて、どう切り出したものか。

「皆さんは、勇者……さんが来たことを凄く喜んでいらっしゃるようですね?」

「おう。勿論さ!」

「それって、何でなんです?」

「なんでって、そりゃあ、勇者様が魔王を倒してくれるからさ!」

「魔王って、悪い奴なんですか?」

「あんちゃん……旅人だろ? 各地で、魔王のやったこと見てきてないのかい?」

ん? そんなに色々やってるの?

「す、すいません……気づいてませんでした。」

「しょーがねー奴だなー。いいか?」

おじさんは呆れ顔で話をしてくれた。

……んだけど、どこそこの遺跡は何百年前の魔王が壊しただとか、あそこの町は百何十年前に魔王に蹂躙されただとか、正直、歴史書を読まれてるみたいな感じだった。

「な? 許せねーだろ?」

「……はぁ。」

とても、俺は関係ないとか言えない雰囲気だ……。

「気のねえ返事しやがって。これだから最近の若者は……。」

やれやれと言いながら、おじさんは去っていった。

こういう言い回しって、異世界も変わらないのかな?

ちょっと、若めの人にも聞いてみようかな。

酒を飲んでいるらしい若い男に、声をかける。

「よう。」

「ん? おう。どした? 酒かー?」

「いや、ちょっと聞きたいんだけどさ……。」

さっきのおじさんのときと同じような切り口で話を始めて、少し踏み入ってみる。

「何百年前の魔王がやったことの責任を、今の魔王に押し付けるのって、どうなの?」

「あーなー。まぁ、魔王なんだし、今回の奴もどうせ悪いことすんだろ。」

「そんなもん?」

「クァンタン様もそう言ってるしー。」

「く、クァンタン様?」

言いにくいなぁ……。

「え? お前クァンタン様知らないとかマジ?」

若い男が目を剥いて言う。

まずい、相当の有名人か!?

「た、旅から旅への生活だから、そういう情報に疎くて……。」

「へー。何か大変なんだな。でも、クァンタン様くらい知っとけよ? 世界でいっちばんメジャーな宗教の教主様なんだからよー。」

「……あー、何教って言ったっけ?」

「ロワイエ教だよ!」

「あー! そうだった、そうだった!!」

これ以上聞くと怪しまれそうだな。

「あ、用事思い出した! じゃーなー!」

「お? おう。じゃーなー。」

ふう。強引な終わり方だったけど、酒の力で流してくれたようだ。よかった。

……にしても、なんか魔王と戦う理由って薄いなー。

教主様が言ってるから倒す、ってか。

魔王のイメージアップ戦略とかやったら、戦い自体がなくなったりしないかなぁ。

ちょっと、教主様ってのも気になるから、ロワイエ教について聞いてみようかな。

「流石はロワイエ様よねー。ちゃんと勇者様を召喚してくださるんですもの!」

「ホントよねー。」

お、丁度噂をしている人が居る。

「あれ? ロワイエ様が勇者様を召喚したんですっけ?」

会話に割り込むと、話している女性達が不思議そうな顔をする。

「え?」

「えーと……クァンタン様じゃなく?」

「ああ、そういう意味? そりゃあ直接召喚されたのはクァンタン様だけど、ロワイエ様のご加護によって召喚の儀をされたわけでしょう?」

「なるほど。ロワイエ様って、勇者様を召喚する力があるんですか?」

「そうよー。というかあなた、なんで知らないの?」

うわー、本当にメジャーな宗教なんだな。

「実はボク、旅から旅への生活でして、そういうことに疎いんですよ……すみません。」

「あらー、そうなの。じゃあこの機にあなたも、ロワイエ教に入信しない?」

宗教勧誘始まったー!?

いや、でも待てよ? 宗教の内情を知るには丁度いいかも。

勉強会とか会合みたいなのがあるだろうし、とりあえず一度、そこに顔を出してみるのはアリだ。

「んー……。」

渋っている振りをしてみると。

「丁度明日、クァンタン様が正教会を開かれるのよ!」

やっぱり、もう一押しきたー!!

せいきょうかい? 勉強会的なやつかな。明日なら俺としても都合がいい。

「わ、わかりました。ちょっと、顔出してみます……。」

その女性は、正教会とやらが開かれる場所を、詳しく教えてくれた。


「バルー、ごめん。ちょっと、今日はここで野宿でもいい?」

「バルはいーけど、魔王さまは、よるの魔物におそわれるかもー?」

「え? まだ襲われるかな?」

今の俺のレベルは13だ。この辺りはそんな強い魔物は居なかったと思うんだけど……。

「んー……どうかなー? バル、この辺あんまし来たことないから、わかんないー。」

「じゃあ一応、焚き火だけしておこうか。」

「はーい!」

その日は、パトリスで手に入れた火種を元に、拾った薪で火を起こし、夜を明かした。

そして、翌日----。

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