探り
何となく凹んだままバルタザールの所に戻った俺は、もう一つの目的を思い出した。
そうだよ、村の人達に、魔王と戦う理由を聞かないと!
「あのー、ちょっと聞きたいんだけど……。」
フィーバー状態のパトリスに舞い戻り、浮かれているおじさんに声をかける。
「んー? なんだい? あんちゃん。」
……さて、どう切り出したものか。
「皆さんは、勇者……さんが来たことを凄く喜んでいらっしゃるようですね?」
「おう。勿論さ!」
「それって、何でなんです?」
「なんでって、そりゃあ、勇者様が魔王を倒してくれるからさ!」
「魔王って、悪い奴なんですか?」
「あんちゃん……旅人だろ? 各地で、魔王のやったこと見てきてないのかい?」
ん? そんなに色々やってるの?
「す、すいません……気づいてませんでした。」
「しょーがねー奴だなー。いいか?」
おじさんは呆れ顔で話をしてくれた。
……んだけど、どこそこの遺跡は何百年前の魔王が壊しただとか、あそこの町は百何十年前に魔王に蹂躙されただとか、正直、歴史書を読まれてるみたいな感じだった。
「な? 許せねーだろ?」
「……はぁ。」
とても、俺は関係ないとか言えない雰囲気だ……。
「気のねえ返事しやがって。これだから最近の若者は……。」
やれやれと言いながら、おじさんは去っていった。
こういう言い回しって、異世界も変わらないのかな?
ちょっと、若めの人にも聞いてみようかな。
酒を飲んでいるらしい若い男に、声をかける。
「よう。」
「ん? おう。どした? 酒かー?」
「いや、ちょっと聞きたいんだけどさ……。」
さっきのおじさんのときと同じような切り口で話を始めて、少し踏み入ってみる。
「何百年前の魔王がやったことの責任を、今の魔王に押し付けるのって、どうなの?」
「あーなー。まぁ、魔王なんだし、今回の奴もどうせ悪いことすんだろ。」
「そんなもん?」
「クァンタン様もそう言ってるしー。」
「く、クァンタン様?」
言いにくいなぁ……。
「え? お前クァンタン様知らないとかマジ?」
若い男が目を剥いて言う。
まずい、相当の有名人か!?
「た、旅から旅への生活だから、そういう情報に疎くて……。」
「へー。何か大変なんだな。でも、クァンタン様くらい知っとけよ? 世界でいっちばんメジャーな宗教の教主様なんだからよー。」
「……あー、何教って言ったっけ?」
「ロワイエ教だよ!」
「あー! そうだった、そうだった!!」
これ以上聞くと怪しまれそうだな。
「あ、用事思い出した! じゃーなー!」
「お? おう。じゃーなー。」
ふう。強引な終わり方だったけど、酒の力で流してくれたようだ。よかった。
……にしても、なんか魔王と戦う理由って薄いなー。
教主様が言ってるから倒す、ってか。
魔王のイメージアップ戦略とかやったら、戦い自体がなくなったりしないかなぁ。
ちょっと、教主様ってのも気になるから、ロワイエ教について聞いてみようかな。
「流石はロワイエ様よねー。ちゃんと勇者様を召喚してくださるんですもの!」
「ホントよねー。」
お、丁度噂をしている人が居る。
「あれ? ロワイエ様が勇者様を召喚したんですっけ?」
会話に割り込むと、話している女性達が不思議そうな顔をする。
「え?」
「えーと……クァンタン様じゃなく?」
「ああ、そういう意味? そりゃあ直接召喚されたのはクァンタン様だけど、ロワイエ様のご加護によって召喚の儀をされたわけでしょう?」
「なるほど。ロワイエ様って、勇者様を召喚する力があるんですか?」
「そうよー。というかあなた、なんで知らないの?」
うわー、本当にメジャーな宗教なんだな。
「実はボク、旅から旅への生活でして、そういうことに疎いんですよ……すみません。」
「あらー、そうなの。じゃあこの機にあなたも、ロワイエ教に入信しない?」
宗教勧誘始まったー!?
いや、でも待てよ? 宗教の内情を知るには丁度いいかも。
勉強会とか会合みたいなのがあるだろうし、とりあえず一度、そこに顔を出してみるのはアリだ。
「んー……。」
渋っている振りをしてみると。
「丁度明日、クァンタン様が正教会を開かれるのよ!」
やっぱり、もう一押しきたー!!
せいきょうかい? 勉強会的なやつかな。明日なら俺としても都合がいい。
「わ、わかりました。ちょっと、顔出してみます……。」
その女性は、正教会とやらが開かれる場所を、詳しく教えてくれた。
「バルー、ごめん。ちょっと、今日はここで野宿でもいい?」
「バルはいーけど、魔王さまは、よるの魔物におそわれるかもー?」
「え? まだ襲われるかな?」
今の俺のレベルは13だ。この辺りはそんな強い魔物は居なかったと思うんだけど……。
「んー……どうかなー? バル、この辺あんまし来たことないから、わかんないー。」
「じゃあ一応、焚き火だけしておこうか。」
「はーい!」
その日は、パトリスで手に入れた火種を元に、拾った薪で火を起こし、夜を明かした。
そして、翌日----。




