異変
それからしばらくして。
ギィッと音を立てて、目の前の観音開きの扉が開いた。
「----ようやく、ラスボスのおでましか。」
「あなたが諸悪の根源、魔王ですね! お覚悟を!!」
諸悪の根源って……すごい言われようだなぁ。
「何かおっしゃったらどうなのです!?」
……と、言われてもなぁ。
「そもそも、俺が何したっていうの?」
「……は?」
俺の言葉に、勇者が呆気にとられた顔になる。
「いやほら、君は誰かに頼まれて、俺を倒しに来たわけでしょ?」
「ああ……。」
「君に頼んだその誰かは、俺に何かをされたの?」
「いや……聞いてないけど。」
「じゃ、何で俺を倒したいわけ?」
「……き、詭弁です! こうすけ様、騙されてはいけません!! 魔王の甘言です!」
おかっぱの聖職者が叫ぶ。
勇者……名前で呼ばれてるのか。
「そ、そうだよな! あっぶねー、騙されるとこだった!! サンキュー、オリヴィ!」
聖職者に爽やかな笑顔で礼を言う勇者。
なんか軟派な奴っぽい……。
「とにかく、魔王! 私達に倒されなさい!!」
うわ、すっげー言いようだなぁ。
「……やれやれ。話し合いの余地はないようだね。仕方ない。」
俺は、後ろに居るラミーヌとバルタザールに目配せをする。
既に臨戦態勢だった二人だが、気合いを入れ直して勇者達を睨んだ。
「では……はじめようか。」
俺は魔王らしくマントを脱ぎ捨て、まずは挨拶がわりに、やっと吐けるようになったブレスを見舞う。
ブレスは火属性が基本らしく、広間中を火が覆う。
そして、部屋に充満した煙が晴れたとき……勇者一行は皆倒れていた。
「あれ?」
「……え?」
「んー?」
呆然とした表情で、顔を見合わせる。
と、その時、周りの景色が歪み始めた。
「……なんだ?」
ラミーヌに話しかけようとそちらを見ると、ラミーヌもバルタザールも動きを止めていた。
「ラミーヌ? バル!?」
叫んでみても反応がない。
やがて、視界がブラックアウトして----。
「魔王様。召喚の儀に応じて頂き、ありがとうございます。」
気づいたときには、俺は城の地下にある召喚の間に居た。
「……アルド?」
目の前には、アルドが居る。
けど、何か雰囲気がおかしい。
「……何故、私の名前をご存知なのでしょうか?」
「何故って、ずっと一緒にやってきて……。」
----いや、違う。
「……何を仰っておられるのでしょう?」
「えっと----」
自分の考えを確かめるために、ある質問をする。
「ここ……どこ?」
これは、最初に俺が此処に来たときに、一番に聞いたこと。
もしも考えが正しければ、アルドの次の言葉は……。
「此所は魔王城。魔王様には私の召喚に応じて頂いた形でございます。」
「……。」
「魔王様? どうなさいましたか?」
「あぁ、いや……大丈夫。」
気のせいではない目眩を覚えながら、アルドに応じる。
「左様でございますか。それではこれから魔王様には----。」
アルドが俺に、勇者を倒してくれと頼んでいる。
「とはいえ、魔王様は既にお強くていらっしゃいますので、このまま勇者をお待ちになっていればよろしいかと……。」
この話も、最初に聞いたな。
つまり----これは。
「ちょ、ちょっと、城の外見てきていい?」
「……はい。どうぞ、お気を付けて。」
「うん、わかった。」
返事もそこそこに、城を出る。
城の外の森には……。
「んー? だれー?」
……バルタザールが居る。
「俺は……魔王、だよ。」
最初は、ここで「らしいよ」と答えたんだ。
「おー! 魔王さまー!! いたんだー!」
この会話も懐かしい。
「うん……仲良く、してね。」
「はーい!」
……間違いない。時間が戻っている----!




