魔王の新技
翌日。
予定よりかなり早く帰った俺を、ラミーヌとクレマンは驚きをもって迎えた。
城に着く前に涙は止めたけど、多分目は赤いと思う。
「あの……魔王様……。」
「だい、じょうぶ?」
二人の心配そうな声が、心に刺さる。
「ん……。」
何か話さないとと思うけど、喋るとまた涙が出そうで、声が出せない。
「……。」
「……。」
「……。」
三人で黙り込んでいると、重苦しい雰囲気が漂う。
それを一蹴したのは、バルタザールだった。
「魔王さまー。レベル上げにいこー。」
普段と全く変わらない調子で言う。
「えっと……あの、何があったのかは解りかねますが……今はそっとしておかれては……?」
わたわたしながら、ラミーヌがバルタザールに意見を言う。
……そういえば、ラミーヌが自分から意見を言うって珍しいかも。
そんなふうに、ぼうっと見ていたら。
「え? なんで?」
「なんで、って----。」
「魔王さまー、早く強くならないと、勇者たちがきちゃうよー。」
「……うん。」
「あの砦にいた魔物は、魔王さまがつよくなる時間をかせぐためだったんでしょ?」
「……。」
「ここでじっとしてても、魔王さまはつよくならないよ?」
「……。」
「魔王さまが勇者たちにやられちゃったら、あの砦の魔物はむだじにだよー。」
「無駄……死に……。」
「バ、バルさん……! こ、言葉を選んでください……っ!」
「むだじににしたくなかったらー、魔王さまはつよくならないとだよー。」
「…………確かに。」
「ま、魔王様?」
「オラスやゴーチェ、エルワンに砦を任せたのは……俺が強くなる時間を稼ぎたかったからだね。」
「でしょー?」
「皆、ちゃんと役目を果たしてくれた……。」
普通なら、もうとっくに勇者達はこの城に来ている筈だ。
だけど、勇者達がこの城に着くまで、短くてもあと数日は猶予がありそうだ。
「……俺も、皆に答えなきゃね。」
今は、落ち込んでいる暇はない。
自分を奮起させる為、そして憂鬱な気分を吐き出すために、一つ大きく息をつく。
「あ、魔王さまー、ブレスはそんな感じでだすんだよー。」
「え?」
……こんなところにブレスのヒントがあったとは。
「----よし、じゃあブレスの練習に行こうか。バル。」
今ならブレスを出せそうな気がする。
「ま、魔王様……大丈夫ですか? 少しお休みになったほうが……。」
ラミーヌが心配そうな顔で言う。
「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう。」
「も、勿体なきお言葉です……。」
「まださすがに着かないと思うけど、もう勇者達がいつ来てもおかしくないからね。ジャメル達と一緒に、警戒をお願い。俺は、バルと一緒に、ちょっとブレスの練習してくるから。」
「あ……は、はい! 魔王様なら、きっとすぐに会得されますよ!」
「まおう……さま、がんばれ。」
ラミーヌとクレマンに見送られて、俺はバルタザールと共に城を出た。
「……まさか本当に出るとは。ブレス。」
「ね? でたでしょ?」
城への帰り道、バルタザールと話す。
もうとっくに夜は更けているので、城の皆は寝ているだろう。
「でも、ブレスってレイヴァティンがないと出ないんだね。」
「うんー。そうだよー。」
「……ドラゴンもブレス吐けないの?」
俺が元居た世界のファンタジーものだと、ドラゴンといえばブレスって感じだったけどな。
「ドラゴンは、はけるよー。魔剣はねー、ドラゴンの素材からつくられた、っていわれてるのー。」
「へー……。」
「だから、魔剣のもちぬしは、ドラゴンの力を借りてブレスをはくんだよー。」
「そうだったんだ……。」
不思議なものだ。まあ、そういう理屈なんだと理解しておこう。
ブレスが出せるなら、理由は別になんでも構わない。
「ねぇ、バル。もうすぐ勇者達が来るけど、バルは勇者達と戦う気でいる?」
「うん! 魔王さまといっしょに戦うよー! これからはまいにち、お城に来るねー。」
「……ここで寝はしないんだね。」
「あいつがいるからー……。」
バルタザールがすごく嫌そうな顔をする。
うーん……アルドが何かするとは思えないんだけどなー……。
「ま、いっか。わかった。じゃあ改めて……よろしくね、バル。」
「うんー!」
「……どうも、ありがとう。」
「きゅうにどうしたのー? 魔王さまー。」
「いや……バルがいなかったら、俺きっと落ち込んだままだったなぁって思ってさ。」
「そうー? そんなことないでしょー。」
不思議そうに首を傾げるバルタザール。
「いや、バルが居てくれて、ホントに助かったよ。……じゃ、また明日ね。」
「うん、じゃーねー!」
翌朝、何処かに出掛けていたアルドが戻ってきた。
「大変なときに留守にしてしまい、大変申し訳ございません。」
開口一番、深々と頭を下げるアルド。
出先で、勇者達が双子砦攻略に乗り出したことを知り、双子砦に向かっている最中に砦が陥落したとの情報を入手。
その後、エルワンやゴーチェがどうなったかを探ってくれたのだそうだ。
まだ日数が経ってないから、暫定だと前置きをして、アルドは情報をくれた。
「ゴーチェは、砦にて戦死……。エルワンは、爆発前に砦を脱出したそうですが、その後の行方はわかっておりません。逃げると言っていた、という証言もありますが……。」
「そっか……。」
「エルワンを、追わせますか?」
「いや、いいよ。元々、危なくなったら逃げていいって伝えてたし、対勇者の戦力を、今減らすわけにもいかないしね。」
「左様でございますか……。」
「じゃあちょっと、城の近くの森でレベル上げてくるね。何かあったら、すぐに伝令をよこして。」
「かしこまりました。」
こうして数日が過ぎた頃、イニャスが定期報告に戻ってきた。




