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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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双子砦と魔王

夜が明けて、俺とバルタザールは城への帰途につく。

バルタザールにとばしてもらえば、夜には城に着けそうだけど、折角ここまで来たんだし、少し魔物を狩って帰ろうかな。

「やったー!! じゃあバルにしっかり掴まっててね、魔王さまー!」

喚声を上げて走り出すバルタザール。

そういえば、俺よりもレベルも高くて戦闘にも慣れているのに、バルタザールはなんで俺を慕ってくれているのだろう?

ふと疑問に思って聞いてみた。

「魔王さまはねー、魔物とも人間とも違う、いい匂いがするのー。」

「匂い……ね。」

野生の勘が働いた、ってところなのかな。

まぁ、味方で居てくれると大いに助かるから、理由を深く聞くのはやめておこう。

下手に深入りして、バルタザールが居なくなったりしたら寂しいし。


結局、その日は城の方向に向かいながら魔物狩りをして、日が暮れたところで野営をし、翌日の昼頃、俺達は城に帰り着いたのだった。

城ではジャメル達がラミーヌの指示の下で戦闘訓練をしたり、罠の整備をしていたが、アルドは留守らしい。

まぁ、アルドは独自の判断で動いてもらってるからね。

罠用の資材調達とかをしてるんじゃないかな。

「じゃあ魔王さまー、今日はバルは帰るのー。またねー!」

手を振りながら、元気に走り去っていくバルタザール。

さて、俺もちょっと休んで、呪文解読をしよう。

最近は、読む速度もまあまあになってきたんだ。


それから四日後。

双子砦に勇者勢が攻略に来たと伝令がやって来た。

「魔王様は城にて吉報をお待ちください。」

とエルワンからの伝言付きだ。

「わかった。期待していると伝えておいて。……くれぐれも、死なないように、とも。」

オラスのことがあるからね。

最終的な判断は個人任せになるけど、改めて言っておくことで、いざというときに「逃げる」という選択肢を思い出すきっかけになると良いと思う。

勇者達の中で誰が一番強いのかは分からないけど、当の勇者がアレじゃあ、双子砦の攻略は難しいと思うなぁ。

あれから、あまり時間が経ったわけでもないし。


そして、更に数日が経った。

俺の予想に反して、勇者達の双子砦攻略は巧くいっているようだ。

砦の中で見張りを立てながら夜営をしたりと、なかなかやる気が感じられる。

伝令に来る魔物も、だんだんと焦り始めているのが分かった。

……こりゃあ、俺も行ったほうがいいかも。

城でのんびり構えて……なんてわけにはいかないだろう。

「よし、俺も出るよ。」

幸い、このところアルドは留守にしているし、止める奴もいない。

「ラミーヌ、クレマン。俺の留守をよろしく。」

「はい……。魔王様、お気をつけて。」

「いって……らっしゃい、ませ。」

伝令の話では、あと数日は保つだろうとのことだったが、大事をとって、俺はバルタザールで双子砦に向かう。

バルタザールに、伝令の魔物と二人乗りが出来るか聞いたら、少し嫌そうだったが、良いと言ってくれた。

「じゃあ、よろしく!」

「はーい!」

バルタザールは、気持ち速めに駆ける。

一週間ほど前に比べると、少しゆっくりかな。

あのときは俺しか乗ってなかったけど、今回は二人だし、慣れてない奴が乗っているのに無闇に速度を出すと、落ちたりするので危険だからね。

やがて日が落ち、そろそろ双子砦が見え始めたという頃。

突然、轟音が鳴り響き、行く手に火柱が上がった。

「あれは……。」

確かエルワンが、もしものときは、砦ごと勇者達を葬るために、砦に火薬を仕掛けると話していた。

砦を壊すのかと聞いたら、どうやら元からそういう事態を想定した砦の作りになっているらしい。

少量の火薬で、効率良く崩れさせることの出来る砦だとか。

まあ、最初から想定してあるならいいかと、最終手段として許可していたんだけど……。

「……バル、火柱のほうに向かって。」

「やだ。」

俺の指示を、バルタザールは短く拒否する。

しかも、体の向きを変えて、城に向かって戻り始めた。

「バル! 砦に向かってよ!!」

「ダメ。」

「----もういい! 俺だけでも……。」

背から降りようとする俺に、バルタザールは一度止まって話しかける。

「魔王さまだって、ホントはわかってるでしょ? あれはもう、ておくれなの。」

手遅れ……。

「いま魔王さまがあそこに行ったら、もしかしたら勇者達にやられちゃうかもしれない。だから、お城に帰るのー。」

言い聞かせるような口調から、だんだんと元の喋り方に戻るバルタザール。

そしてゆっくりと、城に向けて歩き始めた。

……そう、本当は分かっている。バルタザールの行動が正しいことも。

でも……。

「魔王さまー、なかないでー。」

俺を慰めるバルタザールの声に被って、遠くから、ときの声が聞こえていた。

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