魔王と魔剣
城に帰った俺は、倉庫で武器を探すことにした。
「そんな、魔王様手ずから探さずとも、クレマンにでも探させますよ。」
「いーのいーの。自分の使う武器くらい、自分で探すよ。重さとか、好みに合うのをいちいち伝えるより、俺が探したほうが効率的でしょ?」
クレマンは、下働き……っていうか、雑用係の魔物で、ミノタウロスっぽい感じの体をした奴
。
でも、手先は五本指になってるから、何でも器用にこなすんだよ。
日々の雑務を一手に引き受けてるから、雑用係というより出来る家政婦さん、みたいな感じかな。
というか、俺の周りって男ばっかなんだよなー。
異世界の定番といったら、周りは女の子ばっかでハーレム! ってのだと思ってたけど……。
まあ、魔王サイドはこんなもんなのかもな。
と、倉庫の奥を漁っていたら、豪華な装飾の鞘に収まった長剣を見つけた。
おお……鞘に宝石とか埋まってる。これ、本物?
長さは、俺の身長に対して、長めだ。
地面に鞘の先を着けると、柄の終わりが胸の辺りに来る。
うーん……使いづらいかなぁ?
ま、今日バルタザールと一緒に散歩に行くときに、試しに使ってみるか。
「まおう、さま。ごはん、でき、た……ました。」
長剣を見つけた後、魔術書の解読をしていた俺に、クレマンが声をかけてきた。
アルドに、俺に対して敬語を使えと怒られたらしく、敬語を使おうという努力が見られる。
別に無理して使うことないと思うんだけどね。けじめってやつらしい。
「お、ありがとう。今行くよ。」
こっちの世界の食べ物は、何かの魔物の肉を焼いたものが基本だ。
野菜は、シチューみたいな煮込み料理だと入ってるくらいかな。
パンも固いやつだし、この辺は異世界っぽいなー、と思う。
……あー、白飯食いたいなぁ。クレマンに似た穀物がないか聞いてみよう。
「ねぇ、クレマン。」
「はい。なに? ……です、か?」
「えっと……穀物で、こう……白くて小さい粒々の、炊くとふっくらする感じのものとかって、ないかな? パンじゃない穀物なんだけど……。」
どんだけ説明下手だよ、俺。
でも、米を米って言葉使わずに説明するって、難易度高いよな……。
「……? しろ、つぶつぶ。探してみる……ます。」
どうやらそれっぽいものに覚えはないようで、クレマンはそう答える。
「あ、無理はしなくていいからね? 俺の世界にあった穀物だから、同じものはないのかもしれないし。」
「わか……りました。」
とクレマンが言ったところで、食堂に着いた。そこには既に、アルドが居た。
本当は魔王だけで食べるものらしいんだけど、一人で食べても寂しいから、アルドやクレマンと一緒に食べることにしている。
「魔王様。無事、武器は見つかりましたか?」
「うん。使い勝手は、バルが来たら調べに行ってみるよ。」
「それがようございますね。」
「じゃ、食べようか。いただきます。」
俺が手を合わせると、アルドとクレマンも一緒に手を合わせる。
最初の頃は不思議そうに見ているだけだったけど、最近はこうして一緒に「いただきます」をしている。
食べる前の儀式として捉えられているらしい。
まぁ、俺も「いただきます」なんて言い出したのは小学生の頃以来、こっちに来てバルタザールと魔物を狩るようになってからだけどな。
ほら、狩るところを自分の目で見た後だと、ありありと「生命を戴いてる」感があるというか……。
食事が終わるとすぐに、バルタザールがやってきた。
「魔王さまー! あーそーぼー!!」
「はいはい、散歩行こうね。今日は新しい武器を見つけたから、使い勝手を試したいな。」
「ソード? 見つかったのー? 良かったねー。」
「まだ、上手く使えるかは分からないけどね。」
「魔王さまは努力家だから、大丈夫だよー!」
話しながら、今の俺のレベルより少し低めの魔物がいる場所を目指す。
一応、この長剣を全然使いこなせなかったときのことを考えての、安全策だ。
「この辺りで良いかな。」
「そうだねー。」
適当にあたりをつけて、バルタザールから降りる。
「さて、と……。」
元居た世界じゃ、剣どころかナイフも使う機会は無かったし、今まで戦闘はバルタザールに頼りっきりだったから、人生初戦闘だ。
俺が構えた長剣を見て、バルタザールが驚いたような声を上げた。
「あ! レイヴァティンだー!」
「レイヴァティン? って、この剣の名前?」
「そうだよー、魔剣ー。」
「ま、魔剣っ!?」
って言っても、異世界だし、魔剣とかよくあるのかも……。
「魔剣はねー、すっごく珍しいんだよー。よく見つけられたねー?」
……ホントにね。
一発目でそれ引き当てた俺、ちょっと凄くない? 魔王補整とか、かかってんのかな?
「……と、とりあえずこれ、普通に使って大丈夫なの?」
「大丈夫だよー。魔剣の便利なのはねー、錆びたり欠けたりしないとこ。あと、魔王さまのレベル上がったら、ブレスとか出る。」
「ブレスっ!? 俺が出せるようになるの!?」
「なるよー? 魔王さまのいた世界は、出ないのー?」
出ません。
てか、この世界みたいに分かりやすくレベルアップとかも、しません。
意識すれば、自分のレベルが見られるって、なんかゲームっぽいよな。
ちなみに、他人のレベルを見るには、それ専用の呪文を唱えなきゃいけないらしい。
「……よし、じゃあひとまず、この剣に負けないように俺が強くならなきゃね。」
勇者が来て、武器とられたら魔王は雑魚でした、とか悲しいもんな。




