魔王の城の近況
そんなこんなで、二ヶ月が経過した。
最近、レベルが上がりにくくなってきて、今の俺は57レベルだ。
もしかしたら、60レベル以上には上がらないのかもと思って、バルタザールに、いま何レベルか聞いてみたら、73だと言っていた。
うむ……まだまだ上がる余地はありそうだ。
ちなみに、勇者達はまだ、双子砦で足止めをくっている。
最初の頃は、砦を途中まで攻略して、戦力的に厳しくなると引き返すということをしていたらしい。
で、少しして戦力を立て直して再挑戦、みたいな作戦だったらしいが、エルワンが解除された罠を逐一仕掛け直し、改良を加えていたら、しばらく来なくなったそうだ。
……ゲームなんかで、一度クリアした罠は再度設置されなかったりするのを踏襲した作戦だったのかな?
さすがに砦に常駐している奴が居るんだから、罠は仕掛け直すだろう。
で、しばらくして来るようになってからは、さすがに一気に攻略をしようとしているらしいのだけれど、今度はゴーチェの砦に大苦戦中だという話だ。
戦力のほうが充実しているとはいえ、逃げるのに最適な場所を狙って罠を仕掛けたりもしているので、攻略難度は地味に高い。
俺も、ゴーチェの砦を攻略してみろって言われたら困る。
バルタザールとなら……いやでも、砦の中は狭いから、バルタザールの足が生かせないかな。
もう少ししたら、勇者達は全体のレベル上げをしてから攻略、に作戦変更をするだろう。
そうなったら更に時間がかかるし、俺のレベルも60を超えられるかもしれない。
その時、扉を軽くノックする音が聞こえた。
「あの……魔王様、よろしいでしょうか……?」
ラミーヌの声だ。
「どうぞー。」
「失礼します。」
ペコリと頭を下げて部屋に入ってくる。
「あの……ジャメルくん達の成長方針についてなのですが……。」
「ん? 何か困り事?」
「その……ですね。ジャメルくんの中に、どう強化しても戦いに向かない子が居まして……。」
「ありゃ。近接武器とかも使えないんだ?」
「はい……。で、でも! やる気はあるんです! ……だから余計にどうしたらいいのか……。」
「んー……向いてないのを無理にさせても、戦力としては知れてるよねぇ……。」
どうしたもんかな。
「じゃあ……城の罠の整備に回そうかな。」
「罠の整備……ですか?」
「そう。勇者が双子砦に手間取ってるうちに、この城も侵入しにくくしないといけないからさ。罠は俺とアルドで考えるから、設置を手伝ってもらうんだよ。これも立派な戦力でしょ?」
「そうですね。それがいいです!」
「じゃあ、罠設置のグループを組んでおいてもらっていい?」
「はい、わかりました!」
ラミーヌの話によると、一割くらいのジャメル達が、戦闘には向かないらしい。
ということは、少なくとも10匹は罠設置班に回ることになる。
ジャメル達は小柄だけど、数が居れば大きめの罠も設置できるだろう。
俺は罠の造形に詳しくないから、アルドに歴代魔王がどんな罠を仕掛けたかとかを聞いておこう。
「城内に罠……ですか?」
戦闘に不向きなジャメルに、城内の罠を担当させると話すと、アルドは不思議そうな顔をした。
「そうそう。エルワンの砦とまではいかないけど、ちゃんとした手順を踏まないと、城から出る通路に繋がるような仕掛けとかさ。」
「はぁ……。」
何故それが必要なのか分からない、といった表情のアルド。
「歴代の魔王達は、何か罠を仕掛けたりしなかったの?」
「いえ、仕掛けた方もいらっしゃいましたが……貴方様はジャメル共の強化もしておられますし、必要ないかと思いますが……。」
「まぁ、保険はいくつも掛けておいた方が安心じゃない。」
「……念の入ったことでございますね。かしこまりました、いくつか考えて、設置させましょう。」
「うん、よろしく。」
よし、これで城の勇者対策も出来るな。
あとは双子砦がどのくらい保つか……か。出来ればあそこで勇者達を倒してもらえちゃうといいんだけどなぁ。
これだけやっといて今更って思われるかもしれないけど、やっぱり人の形をしていると、倒すのに躊躇する気持ちはある。
まあ、だからってやられてやる気はないから、戦うけどさ。
勇者達に勝ったら、とどめをさすのではなく、捕らえておく方向で考えているよ。
……異世界から来た勇者が、魔王に負けたときに元の世界に帰るのかどうかは分からないけどね。
ちなみにアルドの話では、勇者にやられた魔王は、召喚されて来たときと同じような感じで消えるらしい。
……ならやっぱり、俺は勇者には負けちゃいけないって話になるよね。




