魔王と洞窟
結局、何事もなく朝を迎え、俺とバルタザールは目当ての洞窟に向かった。
昼過ぎ頃に洞窟の入り口に辿り着く。
「涼しい風が吹いてるね……。」
「きっと、中には水がながれてるよー!」
今日は外の気温が高いから、泳ぐのも気持ち良さそうだ。
水中を縄張りにしている魔物が居なかったら、泳ごうかな。
「よし……じゃあ、行こうか。」
「はーい!」
洞窟の入り口で松明に火をつけ、俺を先頭に進入する。
「足下滑るから、気を付けてね。」
「バルはだいじょぶー! 魔王さまこそ、暗いとみえづらいんだから、気をつけてねー。」
バルタザールは暗視という能力があって、明るくても暗くてもあまり視界には関係ないらしい。
だから、松明をつけたのは俺だけの為だ。
……正直、羨ましい。
片手に松明を持っていると、いざというときに剣に持ち替えるのが遅れそうだし……。
「うん。」
と、頷いたところで、頭上に気配を感じる。
ふと松明を掲げると、黒い塊が蠢いていた。
「ぅわっ!?」
思わず声をあげると、それに反応したのか、頭上の塊が羽ばたく。
元の世界で言う、コウモリに似てる---けど、でかい! 頭が拳二つ分くらいあるぞ!?
コウモリみたいなそいつらは、大きく翼を広げて、侵入者である俺達に向かってくる。
「魔王さま、走るからつかまって!」
バルタザールが後ろから俺を持ち上げて自分の背に乗せ、叫んだ。
弾みで松明を落としたが、バルタザールは構わず、脱兎のごとく洞窟の奥に向かって走る。
「魔王さまー、ナマンはしげきしちゃダメなんだよー。」
「そ、そうなんだ……。」
刺激する気じゃなかったんだけど、まぁ大声あげちゃったからな。
「しばらくすれば落ちつくから、帰るときはだいじょぶだとおもうー。」
「ご、ごめんね。」
「だいじょぶだよー。ナマンが並んで休んでるところ、初めて見るとびっくりするよねー。」
笑って言うバルタザール。
ナマンは、基本的に刺激しなければ襲ってこない魔物らしい。
ただ、襲い掛かるときは集団で来るので、厄介なのだという。
「ナマンは、入り口のとこをねどこにしてるのがほとんどだから、もういないよー。」
しばらく奥に行ったところで、バルタザールは走る速度を緩める。
「松明、落としちゃったね……。」
「もっかいつけるー? このままバルがいちばん奥まで走ってもいーけど?」
「……よし、じゃあ帰りは頑張ろうかな。」
バルタザールの好意に思いっきり甘えてみる。
「じゃあ、いこー!!」
機嫌良く走るバルタザール。
暗い中をひた走って、だいぶ経った頃、目の前が明るくなってきた。
……一番奥に光が届いてる?
天井が抜けたとか?
そうじゃないとしたら……呪文の灯りとかかな?
「あー、あっち明るいねー。」
「あそこに行こうか。……気を付けてね。」
バルタザールに注意を促す。
いかにも来てくださいといわんばかりだし、罠がある可能性が大きいからね。
「はーい。」
あまり注意してるようには見えない様子で、バルタザールは明るい場所に入った。
そこは、今までの暗さが嘘のように、見える石壁全部が明るい。
「おぉ……これ、石が光ってるのか?」
「キレイだねー。」
バルタザールから降りて石壁に触る。
……別に熱くはないな。
光っている石壁の下に、欠けたのか落ちている石があり、光っているそれを持ち上げてみると、光らなくなった。
不思議だ……。
「あ、魔王さまー! 木箱があるよー!!」
光っている部屋を見渡していたバルタザールが、木箱を見つけて騒いでいる。
「開けていいー?」
「罠があるかもしれないか……。」
俺の言葉をよそに、バルタザールは箱を投げて壊す。
……投げて壊した!?
「何を----……!」
「あー、中にアクセサリー入ってるー。きれいー!」
……どうやら、木箱は壊すので合っていたらしい。
バルタザールがネックレスのようなものを手に持って、眺めている。
そのネックレスには、大きめの赤い石がついた装飾がされていて、確かに綺麗だ。
「……だ、大丈夫?」
一応聞いてみたけど、バルタザールの様子を見るに、罠はなさそうだな。
「バル……それ、欲しい?」
「え? これ? いらなーい。」
あっさり言うバルタザール。要るならあげようと思ったけど……。
「い、要らないの?」
「だってのろわれてるからー!」
だから木箱みたいな簡単な箱の中にあったのか……?
「触ってて大丈夫なの?」
「そうびしなければ、のろわれないー。」
そういうものらしい。
「これ、もってかえる?」
「……ま、洞窟行ったのに何も戦果なしってのもなんだしね。」
「じゃああげるー。」
「ありがとう。」
ということで、俺達は呪いのネックレスを携えて、帰り道を行くのだった。




