魔王の野宿
勇者一行の情報が分かった一ヶ月後。
双子砦のエルワンから、勇者一行が一度やって来たが、双子砦に元々あった仕掛けを一つ作動させたところで進めなくなり、帰っていったと伝令があった。
四人でやってきて、ナイフ使いの女の子を先頭に、罠を的確に回避・解除しながら進んでいたという。
あの罠では手緩かったようなので強化しますとも言っていた。
うん、やっぱり思った通り。
パーティー人数が少ないと、分散型のダンジョンとかは攻略が難しくなるんだ。
勇者一行は、四人ですごくバランスがとれているみたいだから、どう分けるにしても再び双子砦に挑むまでには、他のメンバーとの連携も含め、時間がかかるだろう。
よしよし、いい展開だ。
さて。
時間の余裕が出来たし、今日から、以前見つけた洞窟の攻略を始めようと思う。
バルタザールと一緒にレベル上げをしていたときに偶然見つけたもので、バルタザールも行ったことがないらしいので、何か掘り出し物があるかもしれない。
「魔王さまー! もう行くー?」
バルタザールが城の外から呼んでいる。
入ってくればいいのに、アルドに会いたくないとかで、滅多に入城はしてこない。
「ああ。すぐ行くから、もう少し待っててー。」
「わかったー!」
そう答えると、バルタザールは城の入り口辺りでうろうろし始める。
……準備運動かな?
クレマンが作ってくれた携帯用食糧とレイヴァティンを携えて、アルドに声をかける。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。留守をよろしく。」
「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ。」
深々と頭を下げるアルド。
「くれぐれも、ご無理はなさいませんよう。」
俺の心配をするのも忘れない。
「わかってるよ。」
洞窟の場所が城から遠いのが気になるらしい。
アルドもあの洞窟を知らないって言ってたから、それで余計に心配なのかも。
城を出てから、バルタザールの足で約半日。
目的の洞窟まではまだかかる。
「今日はここで野宿かな。」
「はーい!」
途中にあった森で集めた薪で、焚き火をする。
種火を起こさなきゃと思っていたら、バルタザールが火の呪文を唱えてくれたので、助かった。
……そうだよね、それがあったね。
「魔王さまは、火の呪文つかわないのー?」
「火の呪文は苦手なんだよ。バルタザールも呪文使えるんだね。」
「あんまし強くないのならできるよー。」
「強い呪文は覚えないの?」
「強いのはながいのー。バルは魔物たおすなら、蹴るほうが早いからー。」
ああ、成程。
確かに、わざわざ呪文覚えるより、自分の体で戦うほうが、早いよね。
実際、バルタザールの蹴りはかなり強力で、弱い魔物なら蹴りの一撃で済むからね。
「よし、じゃあ俺が先に寝るから、バルタザールはちょっと見張りをしててね。」
「はーい。おやすみー♪」
「なんだか嬉しそうだね? バル。」
「んー? だって魔王さまといっしょに寝るの、はじめてだからー!」
「……そっか。」
そういえば、バルタザールと出会ってから、城の外で寝るのは初めてだ。
なんだかんだで、夜は必ず城に帰っていたから。
「魔王さまー、あんしんして寝てねー? バルがしっかり見てるからー!」
「ありがとう。おやすみ。」
「はーい!」
にこにこ顔のバルタザールを見ながら、だんだんと俺の意識は、眠りに落ちていった。
「……さまー。魔王さまー、起きてー。」
バルタザールの声に目を覚ます。
見ると、バルタザールが器用に前足で俺を揺すっている。
「ん……ああ、もう交代の時間か。」
「うんー。」
辺りはすっかり夜の帳が落ちている。
俺は体を起こして伸びをした。
「んー……。よし、オッケー。じゃあ今度はバルが寝てね。」
「はーい! 魔王さま、魔物が来たらすぐ、バルをおこしてね!」
そう言うとバルタザールは、体を縮こまらせて、すぐに寝息を立て始める。
おお、寝つきが良いなぁ。
バルタザールの寝顔を見ながら、俺は呪文を覚えつつ朝を待つのだった。




