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今度の派遣先は異世界です  作者: 近江 上総
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魔王の分析

「なぁ、オラスのおっさん……どうなったんだ?」

砦陥落の知らせから五日後。

定期報告に来たイニャスが開口一番聞いてきた。

どうやら村と城を行き来する途中で、ちょくちょくオラスの砦に寄っていたらしく、砦の魔物達ともオラスとも仲良くしていたようだ。

「わからない。生きてるか死んでるか、今何処に居るのかも……。」

「そっか……。」

イニャスの尻尾が力なく垂れる。

「オラスのおっさん、おいらとさいごに会ったとき言ってたんだ……。ゆうしゃくらい、かんたんにノしてやるって……。」

「そう……。」

「……おいら、ゆうしゃ達のせんりょく調べてみるよ!」

イニャスが決意を込めた目で言う。

「ありがとう、イニャス。でも、今やってくれてる情報収集はすごく助かってるから、勇者の戦力を無理して調べることで、それが失われるのは困るかな。」

「でも、オラスのおっさんがまけるなんて、ゆうしゃは何か、ズルしたにきまってんだ!」

「そうかもしれないけど、だとしたら余計に、此処で無理して後々得られるかもしれない情報を自ら潰すことはないよ。」

「だけど----……!」

「幸い、オラスが守っていた砦から双子砦までの距離は、結構あるからね。途中の魔物も凶暴なのが多いし。勇者がエルワンとゴーチェの二人と当たるのは、しばらく先になると思うんだ。」

言いすがるイニャスを遮って、俺は自分の考えを話す。

「つまり、勇者が野生の魔物達に手間取っているこの期間が、きちんとした勇者の情報を得ながら、今後も人間の村で情報収集出来る状態を整えるチャンスなんだよ。」

「んー……。」

まだ承服しかねる顔をしているイニャスに、俺は追い打ちをかけた。

「……ねえ、イニャス。今、無理をしてこれ以降勇者の情報が入らなくなることを、オラスは良しとするかな?」

オラスの名を出されて、はっとした表情になるイニャス。

「イニャスの気持ちは分かるよ。だけど……だからこそ、今は落ち着いて行動することが大事だと思う。----わかってもらえるかな?」

「…………わかった。」

少し沈黙した後、小さな声でイニャスは返事をした。

思いきり名前を利用する形になって、オラスには申し訳ないと思うが、ここで下手を打つと今までのイニャスの頑張りも無にすることになる。

「じゃあおいら、また情報あつめにいってくる! 村のおばちゃん達が、ゆうしゃが村の近くで魔物と戦ってるの見たってゆってたから、そのことくわしく聞いてみるよ!」

「わかった。……気を付けるんだよ? 大丈夫だとは思うけど、もし正体がバレそうになったらすぐに逃げること。いいね?」

「わかってるって! 魔王のあんちゃんはしんぱいしょうだな~!!」

どうやら自分の中で切り替えは出来たらしく、元の元気な様子に戻って笑うイニャス。

そのまま、村の方へと走っていった。


その後しばらくして、勇者一行のメンバー編成が判明した。

まず、勇者は男で、武器は主に両手剣を使っている。

この勇者も、異世界から召喚されたらしい。

料理が得意で、見たこともないデザートを作ったとかなんとか。

……俺の元居た世界の小説とかでもそうだったけど、なんで異世界に召喚される勇者って、料理が得意な男が多いんだろう?

召喚要項に「料理が得意」って項目があるとしか思えない。

俺は、専らコンビニ飯ばっかりで、料理といったらカップ焼きそばくらいしか作らなかったなぁ。

派遣の仕事で厨房に行くこともあったから(驚くなかれ、大手大衆居酒屋チェーンなんかで、店に初めて来た派遣のアルバイトを厨房に放り込む店も、なくはない)、やってやれないことはないんだろうけど、正直やりたくない。

なので、クレマンが居てくれて本当に助かったと思う。

と、話が脱線したけど、まあつまり勇者は前衛を担当してるというわけだ。

次に聖職者の女の子。

この子は、勇者を召喚した宗教団体に所属している子らしい。

主に防御呪文で攻撃を防いだり、付与呪文で勇者の剣にプラスの効果を加えたりするのが役割。

おかっぱの、背の小さい子だそうだ。

それから、攻撃用の呪文を担当する魔導師。

いつも深くフードを被っていて、素顔を見た者は居ないが、声は男のものだという。

イケメンという噂と、子供の頃の怪我が原因で他人に見せられる顔じゃないという噂の両方が流れているのだとか。

あと、元々は盗掘を生業としていた元気な女の子。

戦闘ではナイフを使っており、そこまでめざましい活躍はしていないが、この子が参入してから、勇者一行は、それまであまり行かなかった、昔から侵入者を拒み続けている洞窟なんかにも顔を出すようになったらしい。

つまり、この子は罠に詳しかったりするのだろう。

エルワンには必ず伝えておくべき情報だ。

これがメインのメンバーで、たまに違う人が加わったり加わらなかったりしながら、村や国からの依頼をこなしつつ、俺の居城に向かっているそうだ。

ふむ。

勇者一行の人員が少ないというのは良い情報だ。

双子砦との相性は悪いから、攻略には時間がかかることが予想される。

この間に、俺はもっとレベルを上げて、バルタザールの言うブレスを出せるようになるのが目標だな。

ああ、ちなみに勇者一行の平均レベルは28。

……まだ30レベルいかないんだね。

でも、オラスを倒した大きな原因であるだろう「勇者であることによる能力値修正」を考えると、俺のレベルは今の50じゃ心もとないかもしれない。

よし、60レベルを目標に頑張ろう。

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