willing
ジャスはサムからSciencity当時の事を知っている、
チィじいに話を聞くといいという情報を得て、
Noworkerが多く住むSciencityターミナル(末端)地域に向かった
ターミナル地域に着くと、付近に何店かストリートスタール(露店)が出ていた、
近い商人はジャスに向かって言った
「ようこそ! ターミナル地域へ。ここの特産、ウォタメレプはいかがぜすか?」
紹介されたのは、ウォタメレプという房に丸い身が4、5個ついた果物だ。
ジャスは言った
「ひとつくれ。味見にここで食べていいか?」
商人はこたえた
「どうぞ、どうぞ。すぐにチェイスとディッシュ(皿)を持ってきますぜ」
ジャスは商人に促されると、ウォタメレプの緑色の皮を剥ぎ、中にある赤い身を
一口で頬張りながら思った。
しゃりしゃりして美味い、帰りにFCTの皆んなの土産に買って行こう
商人は言った
「味はどうぜすか? ウォタメレプは水分が多く含まれていて、暑い時期に最適ですぜ。
と言っても今ではフィルムのおかげで篦棒に気温が高くなる事はないぜすがね」
ジャスは商人にたずねた
「Sciencityはフィルムに包まれて光があまり当たらないが、
このようなグリーングロサリー(青果)をどのように栽培しているんだ?」
商人はこたえた
「テフィシャルライト(人工光)っていう便利なものがあるんですぜ。
これを当てて世話をしてやるだけで、ぐんぐんと育ちますぜ」
ジャスは言った
「そういう生業でここにいる人達は暮らしているのか?」
商人はこたえた
「なぁに、これは副業ぜして。
この地域の人達は大体がZenymanさん達からのドゥネイション(寄付金)で暮らしてますぜ」
ジャスは言った
「ドゥネイション? ……そうか。ありがとう」
商人は言った
「とんでもねえぜす、またいらしてくだぜい」
ジャスは商人と別れ、装置に入力した場所を確認しながらしばらく地域を歩くと、
チィじいの家を発見した
家に近付き外面を見てジャスは思った、他とは違い古い住居のようだ
ジャスがバザ(呼び鈴)を押すと、チィじいが出迎えてくれ言った
「いらっしゃい、君がジャスかね?」
ジャスは言った
「はい」
「わしはチクネス爺だ、サムから話は聞いとるよ。さ、どうぞ」
チクネス=通称チィじい
チクネス爺はそう言ってジャスを招き入れてくれた
ジャスは家の中に入り思った。
明るく赤味がかっていて、アンティーク(古い家具、装飾品)に飾られている、洒落た部屋だ
ジャスはチィじいに促され席に着きしばらくすると、チィじいが黄金色のティをボウドに置き、
ジャスに差し出し言った
「ここの名産ティーリーフ(紅茶葉)でいれた飲み物だ、美味いぞ」
ジャスは言った
「――ありがとうございます、早速なんですが」
チクネス爺は被せて言った
「おぉ。まずは一杯ぐらい飲まんか? そんな急がんでも、時間は待ってくれるよ」
「……あぁ。じゃぁ、お言葉に甘えて」
ジャスがそう言い、飲み物を一口含み終えると途端に芳醇な香りが口の中に包まれた
ジャスは思わず言った
「これは良い。スイート(菓子)に合いそうだな」
チクネス爺は言った
「ふはは、ジャスは舌が肥えとるようだな」
ジャスは一呼吸置き再び言った
「あの……そろそろSciencity当初の事を聞かせて頂いてもよろしいですか?
――何故今の様な現状になっているのかを」
チクネス爺は席に腰を落ち着かせ静かに語り出した
「そうじゃな……あれはまだ人がRobotyを扱い製品を作成していた時の事だ。
今のようにAll Robotyではない分、生産効率は良くないが製品の質は高かったと自負しておる。しかし、人の手で拘ってより良いものを作ろうとする反面、ごく少数レメン(欠陥品)が製造されることがあった。
人はヒュマンエラー(意図しないミス)を起こすものだ、だから一人ではなく複数のチェックシステム(検査体制)をしく。
その頃、1つのRoboty工場ができた、All Robotyの工場だ。Roboty製品は一定水準だけれどもそれ以上でもそれ以下でもない、そんなところだった。
わし達は脅威に感じていなかった、しかしワールド(世間)は違った。
Roboty製品が販売されるようになってから、人はレメンを嫌い極端にそれだけを見るようになり、複数のクレーム(不平)の声が上がった。多くの人は質より安定を選んだのだ。そして、わし達の製品は信用ならんという事になり、グロウス(収入)は激減した。その時、今のZenymanの創始であるRoboty工場のオーナ(所有者)にドゥネイションの話を、わし達は持ち掛けられた」
それから、チクネス爺は一息吐くと再び話し始めた
「その頃のわし達の生活はRoboty製品に押され困窮しておった。ドゥネイションを受けるという事は代わりに今の仕事から手を引くという条件だった。
わし達はすぐに話し合い、決議を取った。結果はドゥネイションを受けるという事だった、家族に水準以下の暮らしを強いたくないという意見が多数だった。
こうしてRoboty製品は対抗するものがいなくなり一気に普及していき、全体のシェア(割合)を占めるようになった。
それによりZenymanが出来上がりRoboty化が至る所で急速に発展し、現在のSciencityは形作られていった」
ジャスは深く聞き入っていた、チクネス爺は続けて話した
「モーダン(現代人)はドゥネイションの真実を知らず、Zenymanを神とでも崇めてのほほんと暮らしておる。
今やこの当初の話しを知る者はわしを含めて3人だけだ、あとの2人は家で寝ておる。歳だのう、すっかりわし達はサボりマイスター(達人)と化してしまった。
ここの住人の多くの目は虚ろで、活気がないだろう。
わしも昔は金色の目をしておったが色は失われ濁っておる」
チクネス爺はそう言うと、真剣な表情のジャスに顔を近付けた
「ほら、ジャス、わしの目をよーく見てみろ。なに、冗談だよ」
ジャスは不快そうな表情をしている、チクネス爺は再び話し出した
「あの時Robotyに対抗しておれば、わし達は違うSciencityを見れたのかもしれない。だが、今となっては手遅れと思うてしまう。わし達は新しい冒険を初めて時間を進めるのが怖かった。目をつぶって、ただひたすらに時が流れるのを待った。
最早わし達はSciencityで動く駒のようだ」
ジャスはチィじいに言った
「……大体の事はわかりました。参考にします、ありがとうございます」
それからジャスは立ち上がりお腹に握り拳を当て会釈し、尊敬の意を込めて礼をした
チクネス爺は立ち上がり会釈をして礼を返し、言った
「また、いつでも来なさい。未来あるユース(若者)よ」