不安
今年の秋、収穫祭の前にアミタ・ランクールは結婚を予定している。
相手は学生時代に知り合った一つ年下の数学者ディアノ・ウルート。彼は、地方の農家の三男だ。年若い学者の収入などないに等しい。彼の生活を誰かが支えなければ学者としての未来は危うい。
だから稼ぐのは自分の役目だと商家に生まれたアミタは宣言した。
ディアノにも、家族にもだ。
当然、親には強く反対されたが、アミタには、商才と商売を始めるにあたって手助けをしてくれる兄がいた。王立学院にいる間に人脈も作っている。
今ではしっかり独立し、婦人雑貨の店を仕切っている。ドレスを作る店を始める準備もしている。
春三月の終わりには、第一王子のご成婚とご立太の儀がある。しっかり稼いでディアノとの新生活に備えようと思っていた。
ところが、半年程前から、留学している第一王子と隣国リザルの王女との恋の噂が出回り始めた。そしてそれが、最近不穏な空気を醸し出し始めている。
第一王子が帰国しない。
留学の日程は明らかにされていない。アコード城砦に立ち寄るということしかわからない。けれど、いくらアディード王国が隠しても、リザル王国の国境の街では噂が横行している。
リザルの王女とアディードの第一王子が、リザル側の国境の街バンデルに留まっているという噂は、ふたつの国を行き来する人達にたちによって、あっという間に王都に広まった。
それはもう、恋の噂だけでは済まない。第一王子に何かあったら戦争になるのではないか。そう考える人達も出始めた。
アミタの婚約者ディアノは、まだ地方農家の三男だ。結婚するまでは家長ではない。今もし戦争が始まったら、二十歳の彼は真っ先に徴兵されてしまうだろう。
不安が胸に溜り始めた。
春一月十日。
アミタは、セアラ・ディパンド伯爵令嬢に会うため、王立学院の彼女の研究室に来ていた。
セアラは、王立学院で出会った貴族のご令嬢のひとりだ。
学院女学生の、互いを助け合うという約束には、貴族と庶民の隔てがない。おかげでアミタは大きな恩恵を受けている。けれど出会ったご令嬢すべてが、気持ちよくお付き合いをしてくれたわけではない。
そんな中で、セアラ・ディパンドは、損得抜きで真面目に向きあってくれる貴族のひとりだった。アミタを友人と言ってくれて、言葉使いにも気を使わなくていい。
北方の街道係をしているディパンド伯爵が、貴族にも庶民にも妥協しない事で知られているから、娘のセアラも親の姿を見てそう育ったのだろう。
時々辛辣な事を言ったりするが、それがアミタにとって信頼できる理由でもある。
その彼女の兄が、第一王子と一緒に留学に出ている。
心配を抱え込んでいるアミタは、セアラから第一王子の噂の真偽を多少なりとも聞き出したかった。
まず、無難な話題からと、アミタは、研究室の奥の間を少しだけのぞき込んで言った。
「本が全部収まってよかったわ。」
王立学院の研究室は二間続きだ。廊下から入ってすぐ応接室があり、その向こうに書棚が作りつけられた部屋がある。どの学者の部屋も、応接室にまで本や資料が溢れているのが普通だ。
セアラの研究室はつい最近開かれたばかりだから、まだ悲惨な状況にはなっていない。
貴族女性の慣習である行儀見習い侍女をセアラがしている間、この研究室は、ほとんど使われていなかった。今は、王城の自室で整理に困っていたという資料が収まり、それらしくなっている。
婚約者のディアノは、まだ教授の助手の一人でしかなく、研究室を貰えるのはいつだかわからない。だからセアラを羨む気持ちはある。けれど彼女には、今や多くの人が読む本を出版したと言う実績があると納得するしかない。
わかりやすい実績が上げられることが羨ましい。数学はわかりにくい。
ディアノにそう言うと、セアラよりアミタの方がわかりやすい実績を出しているだろうと呆れられた。確かに、損か得か。利益を出せたかどうか。アミタが一番わかりやすい世界にいるかもしれない。
改めて、アミタは、応接室を見まわした。満足の笑みがでる。
この部屋を改装したのはアミタの兄ロッドである。
壁の色がアイボリーに塗り替えられ、若い画家が描いた明るい色調の風景画が掛けられている。元々あった家具は取り払われて、窓辺近くに小さめのティーテーブルと椅子が置かれた。カーテンは濃い青だ。
家具はもちろん、カップやポット、クッションなどの雑貨も全部、兄が揃えた。小物の色調はセアラの好きな青と薄紫が基調になっている。
セアラが自分で持ち込んだ物もある。花瓶や、精巧な小鳥のオブジェなど可愛らしい物たちがそうだ。
全部揃ったところを見せて欲しい、アミタはそう頼んで招待してもらった。
「私の部屋っている気がするわ。ありがとう。」
そう言って笑顔を見せるセアラは、普段と変わりなく見える。
王子が帰国していないことは、ディパンド伯爵家にとっても一大事のはずだ。心配していないはずがないだろうに、それを微塵も感じさせない。さすが貴族だと思う。
「今日、ロッドも一緒に来てくれると思っていたのよ。お礼が言いたかったのに。」
残念そうに言われて、アミタは少し眉を下げた。
「必ず伝えるわ。今、ロッドはランスに指示されて、地方まわりに行かされてるの。」
ランスはアミタの一番上の兄だ。彼が現在ランクール商会を取りまとめている。
「地方まわり?」
セアラが聞き返しながら、ティーテーブルへと促してきたから、アミタは遠慮なく座る。
淡い青のテーブルクロスが掛っている。これもロッドが探し出してきたものだ。
セアラの侍女リレナがお茶とケーキを用意してくれた。ケーキにはアミタが好きなドライフルーツが入ってる。好みを把握してくれているのは、セアラではなく、侍女のリレナだろうとアミタは思っている。
リレナに心をこめて感謝を伝えていると、セアラに聞かれる。
「ロッドって、ずっと王都で仕事をしていたのではなかったかしら? 地方まわりなんて珍しいわね。」
アミタは、王子の話を聞き出したいと逸る気持ちを押さえながら、ロッドにまつわる出来事を話した。
「それがね。王立薬事院から商会組合に問い合わせがあったのよ。」
「王立薬事院?」
セアラが意外そうな顔をした。
「そう。薬師や薬屋のための組合を作れないかって。薬不足になる事を防ぐための、連絡網のようなものを作りたいみたい。商会組合は最初、神殿に頼んだらどうかと答えたの。神殿はアディード中にあるでしょう。けど薬事院は、薬に詳しい人達でないと駄目だって。神官だって、医者の真似事をするんだから、構わないと思うんだけどね。」
「薬師にこだわるわけね。」
「なにしろ、王立薬事院だから。」
呆れた調子を含んでアミタは肩をすくめた。セアラは確かめてくる。
「商会組合じゃ駄目なのね。」
「そう。商会組合は店を構えている人たちの集まりでしょう。薬師が必ず薬屋をやっているわけじゃないもの。」
「医者と組んでいる人もいるし、医療院に勤めている人もいるわね。」
「薬草を育てているだけの人もね。そういう人も全員まとめたいらしいの。」
「大がかりね。でもそれなら薬草不足だけでなく、薬師不足な地域もわかる。」
「志はわかるけど、強制はできないでしょう。国の施策じゃないから。」
アミタはお茶のカップを手にとった。
「まずは得になる事を示してもらわなくてはね。王立薬事院が、どれくらい役に立ってくれるかがわからななきゃ、誰も協力しないわ。」
「費用の問題もあるだろうけど、他にも、薬師の資格なしで、薬を扱っている人達を本格的に取り締まることなるかも。でも、それがロッドの不在とどう関係するの?」
聞かれて大きくため息がでてしまう。
「結局、神殿も、商会組合も協力することになったのよ。商会組合は、薬屋関連だけね。最初の一手として、大手の商会が地方まわりをする時、薬屋と情報交換をするの。計画が頓挫しなければいいけど。」
不機嫌を隠さず顔に出してアミタは声の調子を上げてしまう。本気の愚痴になった。
「ロッドへの『お部屋の改装』依頼は、いい感じで注文が入り始めていたのよ。新婚さんとか、引越しする人とか。それなのに、馬鹿兄が役に立たないものだから、ランスは、ロッドを旅に出しちゃったのよ。」
馬鹿兄というのはアミタの二番目の兄ジンの事だ。兄弟で唯一人、商人に向いていない気分屋だ。そして、いつも面倒ばかりを引き起こす。
アミタは、怒りにまかせてケーキを口いっぱいに入れてしまった。セアラが曖昧な笑みを見せている。引かれているかもしれない。
「それは残念だったわね。」
慰めの言葉を言って、セアラもケーキを食べ始めた。さすがに上品だ。
さっそく真似をしようとして、アミタは手を止めた。
今日の目的を果たさなければいけない。
「セアラ。」
呼びかけると、セアラが目を上げて、アミタを見る。
「噂になっているわよ。カディール殿下が帰って来てないって。」
突然変えた話題に、セアラは大きなため息をつく。
「その噂話なら、私も聞いているわ。」
セアラが、落ち着いた様子でお茶を飲む姿を、アミタは目を放すことなく見つめた。
全く動揺が見られない。けれど相手は見習いとはいえ、二年も王城に住み込み、鍛えられた王家の侍女だ。見かけどおりとは限らない。それでも、学生時代から、セアラは率直に聞けば、意外にきちんと答えをくれる人だった。それを信じる。
アミタは、見聞きしたことをそのまま言ってみた。
「どこへ行っても確かめ合いよ。殿下が帰って来たと、聞いたかどうか。」
真剣な顔をセアラに向ける。本当のところが知りたいとわかって欲しいと思いつつ続ける。
「表向きは、殿下の王都帰還を見物に来た人相手に、ひと儲けしたいってことにしてるけど、みんなが心配しているのは他の事。」
「他の事?」
「リザルの王女と何かあったんじゃないかってことと、リザルと戦争になるんじゃないかってこと。」
「まぁ」
セアラが驚きを表す言葉を発し、少しだけ目を見張った。本当に驚いているのかはわからない。学生時代はもっとわかりやすかったのに、内宮に行儀見習いに行ってからは、すっかり立ち居振る舞いが落ち着いたものになってしまった。
アミタは身を乗り出して、訴える。
「殿下がリザルの王女と恋に落ちた末に戦争だなんて考えたくないわ。今はまだ武器の類の注文は増えてない。だけどもし殿下に何かあったら、その先にあるのは戦争でしょう。」
王都には影が差し始めているのだ。
けれど、セアラはあっさりと否定した。
「考えすぎよ。」
アミタはその反応の薄さに苛立つ。
「何故言い切れるの? 陛下だって人の親よ。お子様の命が掛っているのよ。誰だって自分の子の事となれば、冷静でいられないわ。」
セアラが少し困惑したような顔になっている。
「アミタ。殿下の旅程の詳細は誰も知らないのよ。アコード辺境伯のところに寄って帰って来るのだけは知らされているけど、それもいつだかわからない。今、殿下がアディール側にいないからって、リザルの王女とどうしたとか、戦争がどうとかって、飛躍しすぎでしょう。」
そう言ってから、セアラは不意に納得したような顔をした。
「あぁ、そうね。中途半端に旅程が明かされているから、憶測が飛び交うのね。」
「リザルの王女がバンデルにいるのは憶測じゃないわ。王女がバンデルにいるのは、そこに王子がいるからでしょう。」
アミタは、つい前のめりになってしまう。それに合わせるように、セアラもこちらに寄って来た。
「アミタ、たとえどこかで、カディール殿下とローザ王女が会っていたとしても、それでいきなり戦争になったりしないわ。向こうもこちらも別の国境線に火種を抱えているんだから。」
「そう国境に火種がある。だから余計に心配なんじゃない。」
アミタは固く両手を握り合わせて、祈るように目を伏せて俯いた。
「西も東も戦争になるかもしれないでしょう。ディアノも、兄たちも、徴兵されるかもしれない。」
セアラが姿勢を戻したのが分かる。
「考えすぎよ。」
ただそう、静かに繰り返してきた。
アミタは顔を上げて、セアラをみる。彼女はアミタを心配そうに見ていた。けれどやっぱり冷静だ。
これだけ言っても、まだ落ち着いているセアラに腹が立つ。
「どうせセアラにはわからないわ。」
声に非難が籠るのを、アミタは止められなかった。
「戦場の前線に立つのは庶民だもの。男たちは簡単に名誉だ何だと戦いたがるけど、痛い目を見るのは、結局、私たち庶民なのよ!」
美しく装ったセアラを睨みつけてしまう。彼女が今着ているドレス一枚分のお金で、庶民の一家が相当な期間、楽に暮らせるだろう。
表情を変えないセアラの無神経さにいらつく。
「アミタ。」
動揺のない声に呼びかけられる。それにいらつき、アミタは視線を逸らした。
けれどセアラの声は途切れなかった。
「もし殿下に何かあったら、最初に死ぬのは護衛の騎士と私の兄よ。」
息を飲んだ。アミタを突き動かしていた、胸の中でうごめいていた怒りが、石のように固まる。
セアラの揺らぎない声が続く。
「弟は十四才で騎士に任ぜられた。貴族だから早く騎士になれたわね。そしてすぐに西の辺境勤めになった。今は王都見廻りをしているけど、物騒なところにも行かなくてはならない。いつ何が起きてもおかしくない。父も、街道係なんて呑気に聞こえるかもしれないけど、理屈の通らない相手と渡り合うこともあるわ。街道係は、逆恨みで襲撃されて、大怪我を負ったり、亡くなったりすることもある。」
顔が上げられない。アミタも、ロッドが地方巡りに行っている今、危険な目に会っていないかずっと心配している。
セアラがいつでも平然として見せているから、忘れがちになるけれど、彼女の家族は危険と背中合わせの仕事をしている。
わかっていても、胸の中に抱えてしまった大きな石がアミタに言葉を失わせた。
「アミタ。」
セアラの声が少し和らいだように感じた。
「二か月後、あなたは、殿下を祝福しようと王都に集まった人たちを相手に、ひと儲けしているわ。ディアノとの新居を見つけて、ロッドに改装してもらって、秋には花嫁になる。」
アミタは、顔が上げられないまま、静かに息を吐いた。
「今日は帰るわ。」
心の揺れが、声に出ていると自分でもわかった。
「気をつけて。一人で大丈夫?」
セアラは、引き止めなかった。けれど、どんな時でも心配して、助けてくれようとする。学生時代も、今も。
「大丈夫。この学院はよく知っている場所だもの。」
それだけ言って、後は言葉少なに別れの挨拶だけをし、逃げるようにセアラの研究室を出てしまった。
今、初めて気がついた。
いつも、貴族のお嬢様たちに壁を作られていると感じていたけれど、自分も壁を作っていた。
セアラのドレスを値踏みして、どうせ分からないと突き放した。
きっとセアラを傷つけた。
それなのにセアラは、何事もなくアミタは秋には花嫁になると安心させてくれようとした。
時々彼女が発する言葉は、俄かに信じられないことがある。けれど結局、彼女の言う通りになるのを何度もみてきた。
だから今度も、彼女の話は本当かもしれない。戦争は起こらない。ディアノと無事に過ごせる。
研究室棟を出ても、アミタは速足で歩き続けた。遠くに学生たちのざわめきが聞こえる。
ふいに、大人になってしまったのだと思った。
さっき見た心配そうなセアラの表情を思い出す。
冷淡にみえて、そうではない人。運命を信じない。とても現実的な人。
学生の頃、セアラは大好きな事に突進し、思い立ったらすぐ行動をする人だった。無愛想さは、今も昔も変わらない。けれど、王城で侍女として勤めて、責任ある立場に目覚めたのだろう。だからあの動じない態度を身に付けた。
アミタも自分の店を持ち、初めて思い知った責任もある。
そして、もう一人の王子を思い出した。
王立学院で何度も見かけた第二王子レンカート。セアラの今の雰囲気はあの方に似ている気がする。冷静で簡単に人を寄せ付けない。
けれどそんなレンカート王子も、セアラといるときは空気が変わった。穏やかな雰囲気になる。
レンカート殿下とセアラ。学院にいる間、恋愛話が好きなご令嬢たちが、密かにふたりの仲に注目していたのをアミタは知っている。
アミタは、誰憚ることなく、ディアノを好きだと言える。
だけど、あのふたりは違う。
貴族だから。王族だから。胸に納めていなければいけない。
アミタは、王立学院の正門に辿り着くと、番小屋で、馬車を呼んでくれるように頼む。
待つ間、陽光の下で俯いていた。
今は、酷い言葉をぶつけてしまった彼女に何を言っていいのかわからない。
けれど、胸の中にできてしまった怒りと後悔の石は重く、アミタを頑なにさせる。だから、少し待ってもらおう。この石が小さくなって、素直に謝れるまで。
代わりに、運命を信じないセアラのために、運命を信じて祈るから。
セアラとレンカート殿下のこと。
カディール殿下と婚約者ヴィエラ公爵令嬢のことを。
アミタは秋に愛する人と家庭を持つ。
自分の幸運に感謝した。
「酒場での、酔った勢いの馬鹿話で終わらずに、婦人向け雑貨店の店主まで戦争の心配を始めたか。」
ディパント伯爵が小さくため息をつく。
カディール殿下が帰って来ていないという第一報を受けた日から、ディパント伯爵家では、家族が毎晩当主の部屋に集まるようになっていた。
最初の夜と同じように、椅子を部屋の真ん中に集めての密談形式だ。
ハルジェスが、疲れたようにもみえるセアラに聞く。
「今日はいつにも増して不機嫌だね。」
セアラは、椅子の背もたれに体を預けて答えた。
「アミタに、カディール殿下の事を何も知らない振りをしたわ。これってやっぱり、嘘よね。」
セアラが大きくため息をついて続ける。
「殿下の話には口を噤むっていう約束をしたでしょう。だから、追及をかわしていたのだけど、アミタが、身分の問題を持ち出してきて感情的になったのよ。それで私も感情的な言葉をぶつけて、彼女を黙らせてしまったの。あれでよかったとは思えなくて。気の合う友人だから、甘えがあったのかも、身分は二の次だって。」
「お友だちと仲たがいをするのは、誰にだってあることですよ。」
伯爵夫人が、いつもより小さく見える娘に諭す。
「打ち明けられない秘密は誰にでもあるし、身分の違いは自分たちではどうしようもないでしょう? でも、仲直りしたいと思っているなら、そうできるはずですよ。落ち込んでいて、きっかけを見過ごさないようにね。」
身分の違う友人を切り捨てろと言わない母に、セアラは笑顔になれた。
「はい、お母さま。」
「まぁ、セアラが素直だわ。明日は嵐が来るのではなくて?」
母の言葉に、弟が笑い、姉は弟の後ろ頭を叩き、父はそれを見なかった振りをした。
次の日、嵐は本当にやって来た。
人知れず内宮に。
カディールの手紙という、嵐が。




