乙女と百合の楯
現代、東欧の某国にて。
「……姫様。そんなに抱き付かれては、護衛の任務に支障が生じるのですが」
「ふふ、マリィがキスしてくれたら、離してあげるわ♪」
小さな国の、小さなお城。
プラチナブロンドの可憐な少女……13歳の公女に抱き付かれて困っているのは、メイド。
正しくは、護衛メイド。15歳の年齢で公女の専属ボディーガードを務める銀髪のメイド、マリアンデールである。
「き、キスなんて、そんなコト出来ません……っ。まだ、昼間ですよ?」
頬を赤らめるマリアンデール。
お城の廊下、他のメイドの視線が痛い。
「ええー? だめなのぉ?」
むぅ、と唇を尖らせる公女。その幼い顔立ちは、不満顔でもとても愛くるしくて。
思わず、欲情に身を委ね唇を奪ってしまいそうな衝動に駆られるけど。
……だからこそ、護衛としてちゃんと、護ってあげたいのだ。
ぷしゅー、と赤面した顔から蒸気を噴き出しつつ、マリアンデールは両手で公女の躰を引き離した。
「だ、だめですっ。私は、貴女の護衛なのですから。ちゃんと、お仕事しませんと……!」
「うんっ! だから私を、ぎゅってして♪ そしたらいつでも私と一緒でしょう?」
それなら護衛のお仕事出来るよ♪と天使の笑顔で言う姫君に、マリアンデールは照れながらため息を吐くのだった。
「……それじゃ、護衛になりませんってば」
・ ・ ・
銀髪の護衛メイド、マリアンデール。愛称マリィ。
彼女はほぼ24時間、公女の側に付きっ切りである。
もちろん、お風呂の中も。
「ふふ、マリィの肌、すべすべだぁ♪」
「やぁっ、姫様! そこは、自分で洗いますぅ……っ!?」
一糸纏わぬ姿で、石鹸に濡れた手で触れ合う乙女達。
ぬるぬる、ぴちゃん、と。暖かな水音が浴室に響く。
「……護衛としては、姫様と一緒に全裸など困るのですが」
マリィは、3年前に公家に拾われた、元少女暗殺者。卓越した暗器の使い手である。
暗器を隠したメイド服を脱いで、護衛対象と一緒に裸で入浴。
この危険性を、公女には再三説いているのだが。
「えへへー、だからこそだよ。片時も離れず、護ってくれるんでしょう?」
にぱっと笑い、マリィの胸にあどけない顔を埋めてくる公女。
少しだけ、不安そうに表情を曇らせ、上目遣いで覗き込んでくる。
「……もしかして、ホントは私のこと嫌い?」
「うぅぅぅー……っ!?」
無論、そんなわけはない。無垢な姫君の、華奢な裸体を見てしまうと。
マリィの胸はどきどき早鐘を打って、どうにかなってしまいそうなのだ。
……護るべき少女に欲情してしまうなんて、護衛メイド失格。
「し、しっかりしなさいマリィ! 私は! 姫様の楯なんだからぁぁぁーッ!?」
蛇口を捻り、頭から冷水のシャワーを被る。煩悩退散、煩悩退散!
「きゃぁっ!? マリィ、風邪引いちゃうわよ!?」
・ ・ ・
そして、夜。公女の寝室で。
寝間着姿でベッドに横たわりながらも、公女はマリィのメイド服の裾を掴んで離さない。
「ねえ、添い寝して……?」
熱っぽく潤んだ瞳で見上げる姫様に、マリィはまたまた赤くなって慌てる。
「い、いけませんってば……! 私は、貴女の護衛メイドなんです!」
だから夜も、ちゃんと見張りをしないと。
そう毎晩、言い聞かせるのだけど。
ベッドから身を起こす公女。羞じらい、もじもじしながら可愛らしい誘惑。
「だって、夢の中でも貴女と一緒にいたいんだもん……」
ぽっ♪ と頬を染め見上げてくる公女に、マリィはノックアウト寸前。
それでも、護衛として。
「だ、だめですっ……!?」
彼女の頬を手で包み、おでこを付けて。
「大好きな貴女を、ちゃんと護らせてください。ね?」
だからこれで我慢して、と。
「ほら、いい子だから……」
……ちゅう。
優しく、キスをした。
(ううっ、姫様の唇、柔らかい……)
ちゅぷっ、にゅるぅ。
唇を押し付け、舌を味わい合うと。結局マリィも発情エンジン爆裂スタート。
理性の抵抗と戦いながら、唇を離せずにいると。
真っ赤になって公女。唇同士から糸を引く唾液を舐め取りながら。
「わ、私、悪い子だもん。キスだけじゃ、言うコト聞いてあげないよ?」
……ぷつん。マリィは頭の中で、理性の糸が切れる音を聞いた。
こうなったら、もう。
(分かりました。夢の中まで、貴女をお護りしますね)
公女の華奢な肩をベッドに押し倒し、口づけを交わしながら。
姫君の寝間着の、胸元のリボンを解くのだった。
「むぅ、くっ、うう、んっ……♪」
……二人は、いつでも一緒。