プロローグ
全身を苛む痛みに私は意識を取り戻す。
起き上がろうと力を込めるが、血に濡れた所々に焼け焦げた四肢は言うことを聞いてくれそうもない。
体が自分の物ではないみたいな感覚だ。しかし、勤労な痛覚だけはその役目をまっとうしようと絶え間なく痛みを与えてくる。
どうやら致命傷を受けているらしいと私は理解した。
辛うじて動く頭を横たえて回りを見回すも、その目にうつるのは多くの屍と何かの残骸。
まるで焼き畑の後のように燻る炎。焦げた臭いと煙が立ち込めている。火の手が近づいて来ているのかもしれない。
そして、助けは期待できそうにない。
ここはヒューレジ荒野。いつもは穏やかなこの場所に魔物が大量発生したらしい。報告を受けた領主は調査団として傭兵たちを派遣した。私はその案内役を受けたのだが、まさかただの小遣い稼ぎのつもりがこんな事になろうとは。
魔物大量発生とは言えたかが知れている。このあたりに出るのは野犬に毛がはえた程度のイヌモドキとキラービー位だ。
後者は名前こそ物騒だが、針を通さない程度の厚着をすれば初級者でも安全に狩れる。
ここは駆け出し冒険者のための絶好の狩り場的な位置付けなのだ。
傭兵たちを案内するだけで時給2000ルクとなかなかの収入である。飛びついた私を誰が責められようか。
どうやら誤報だったらしく魔物もさほど見当たらない。これ以上の調査は不要と判断され帰還する事になった。
しかし、調査任務を終えて切り上げようとした矢先に異変は起こった。
空が割れて光が降り注いだ。
幾つもの光の柱があらわれたかと思うと、それらは縦横無尽に駆け回り大地を焦がし岩を焼き傭兵たちを凪ぎ払う。
それは対処しがたい天災の様に、人の弱さを嘲笑うかの様にすべてのものを真っ白に染め上げていった。
神の裁きがあるとすればこんな形なのかもしれない。逃げるのもわすれて呆けていた私を光が呑み込んだ。
まったく、我ながら間の抜けた最後である。足掻いたところで逃げきれるはずもないだろうけど。
そうして私はこの大地に横たわっている。
心なしか先ほどより痛みを感じない、音も遠退いていく。
これが命終と言うやつか、意識を保ちながら迫りくる炎に焼かれるよりはマシかな。
働かぬ頭で諦めの言葉を紡ぎ、睡魔に似た感覚に身を委ね意識を手放した。
目蓋の裏より暗い闇の中から、私に呼び掛ける声が聞こえる。
『あんた、助かりたくねぇか?』