表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九尾の孫 【絆の章】 (2)  作者: 猫屋大吉
21/22

奸計

裏切る者、そして制裁する者 責任はどちらが重い?

「玉賽破様」白い毛を持つ野狐やこが呼び掛ける。

「海の向こうが騒がしいと言うのであろう」玉賽破と呼ばれた美しい金色の家を持つ物が答える。

「昨日、一日では無いか。何かの集会であろう」と続けた。

「かも知れませぬが、南方の妖共の消息が途絶えました」白い毛の野狐が答える。

「婆の元、側近達か、あの様なじじい共、最初から宛にもしとらぬわ」

「いえ、それが気配、痕跡ですら感知できませぬ。其れに物見に行かせた者もまだ帰って来ておりません」

「大方、あの十和利の漆黒の者、名をなんと言うのであったか」

「凍次郎でございます」

「そう、あやつが十和利で最近、北に上がって来る者相手に暴れておる故に、遣られてしもうたんじゃろ。漆黒ごときに遣られる者等、要らぬ。戦力にも成りはせぬ。其れより、半妖は如した、能力者を早く見つけろ!」玉賽破は、苛立ってその尾の一本で野狐を弾き飛ばす。

「直ちに」と言い、飛ばされた野狐は、そのまま消えた。




集会を終えた五所川原市のホテルの喫茶室に優介、優子、白雲、魏嬢ぎじょう、権現狸、斯眼しがん、太郎丸、蔵王丸の8名が座っている。権現狸、斯眼が、先程、優子を通して【絆】と書かれた護符を貰い優介の近辺に座る事が出来た。

魏嬢が2人の女性と後を向いて何かを話している。

魏嬢の側近の獨雅どくが賽嬢さいじょうである。

「玉賽破が行っているらしい太古の術とやら、白澤が、何やら知って居る様だ。あの白澤と言う奴、其処まで話す気にはなって居らぬ。主等2人、あの辺りの古代の遺跡、知っておる事は、ないか」

「・・・・・」獨雅どくが賽嬢さいじょうが、顔を見合わせる。

「姫様、以前雑誌で見た情報なんですが」

獨雅と賽嬢の横に控えていた賽蛇さいだが口を挟む、獨雅と賽嬢が横を向く。

魏嬢が 良い、申してみよ と言い、2人を牽制する。

「あの恐山と言われる地形、外輪山は鶏頭山、地蔵山、剣山、釜臥山、大尽山、小尽山、北国山、屏風山、の八峰からなって折り、中に宇曽利山湖と言われる湖があります。其処から胎蔵界曼荼羅の中台八葉院、もしくは、チベット仏教の金剛界曼荼羅が、連想されます。これらの山々を高野山と同じく外八葉とし、その内にいにしえの物を用いて内八葉を作ると合わせて16葉、これを金剛界曼荼羅の十六大菩薩に相当させると蓮の花を象徴する曼荼羅が完成します。装置としてはかなり大がかりには成りますが、大き過ぎて逆に発見され憎いと言う利点も生じます。古代の遺跡と言う言い方を白澤様が申しておられましたが、姫様と話された後、異常な量の汗をかいて居られました。この事から古代遺跡と言う物は無いと私は推測します。高野山は816年ですので年代的には、古いですが、古代とは、言えません」

賽蛇が言うと、魏嬢が、獨雅と賽嬢に賽蛇を連れて現地に飛べと言いながら、少し待っておれと言った。

魏嬢は、胤景に電話を入れ、今から3名を乗せて恐山上空を飛べぬか と聞くと

「ん・・・、そうか古代遺跡が解ったのか、直ぐ準備する。こっちに着く頃にはすぐに飛べる様にして置く」と言い、電話も切らずに、「整備兵、UH-60Jの整備と機内の清掃を急げ、それと監視用カメラも2機セットしておけ」と叫んで電話を切った。

魏嬢は、賽嬢にコルベットのキーを渡し、第6高射群第22高射隊脇の広場に行く様に指示し、ヘリに装着されているカメラと軍事衛星の座標を合わせた写真もしくはビデオを撮って来る様に指示した。

指示された3名は、小走りに走り去った。

魏嬢は、前に向き直り、タバコに火を点け、テーブルのコーヒーを一口飲んだ。

斯眼の横にいつの間に現れたのか旧鼠きゅうそが大の字になって寝ている。

魏嬢と目が合った斯眼は、「こいつは、喰うなよ。こいつは、あの絵本百物語に載せられた程のねずみだぞ」と思わず言うと、

「食べないわよ、そうなのあの親無しに成った子猫を育てたって言う奴なんだ」と返す。

優介は、「江戸時代に書かれたあの絵本百物語か」と言うと

「だから最初に言ったじゃないですか、(あいつは良い奴だ)って」斯眼が言う。

「感謝しているよ。旧鼠が居なかったら九州の情報も解らなかったしな」優介が言うと

「でもさ、此処って喫茶だろ、そんなでかいネズミ、どうするんだい」魏嬢が言うと

「そうだな、忘れてた。猫とネズミ、こうして置く」白雲が斯眼と旧鼠の後から右手、左手を其々の頭に乗せ、ぶつぶつと何かを言うと2匹の体がスライムの様になり、やがて人の形となって再生した。

「すっげー、これで何処でも堂々と言葉をしゃべれるな、今度、遣り方教えて呉れよ」

斯眼が自分の腕や足を見て喜ぶ。旧鼠は、昨日から走り詰めで疲れたのか変身したまま寝ている。

「すっごーい、あんな感じで変身するんだ」優子が興奮して寝ている旧鼠の傍に行って指先で突つく。



「蔵王丸ぅー、妖が、真言密教なんて使えるのか」太郎丸がビールを呑みながら聞く。

「使える奴も中にはいるかもな、見た事ないけど坊主の妖とか」蔵王丸がボソッと言う。

「・・・、そうか、坊主か、地蔵が居る。魏嬢、呼び戻せ。今の3人、死ぬぞ」優介が叫ぶ。

「え、なんで・・・地蔵菩薩・・・そ、そうか」魏嬢が、すぐに携帯を取り、胤景に電話をした。

「ヘリを停めて、発進させないでね。罠よ、トラップよ」

「まだ、来てないから止めよう」胤景が言う。

魏嬢が、電話を切りすぐに獨雅に電話を入れる。

「はい、姫様」すぐに電話に出た。

「引き返して これは罠よ」魏嬢が言う。

「賽嬢、Uターン、姫様が読んでいる。忘れ物だと」

「・・・解った」賽嬢が中央分離体の継ぎ目の手前で追い越し車線から横半分走行車線にはみ出し右にハンドルを切ってサイドブレーキを引いた。

コルベットは、後輪を滑らせながら急旋回する180度回ったところで真横に滑り中央分離体の間を抜けて、反対車線に滑り込んだ。

後ろから後続車が迫る。

賽嬢がハンドルとサイドブレーキを戻し、ギヤを2速に落とすとアクセルを踏んだ。

後続車がブレーキを踏む。

だが、間に合わない、後2m、1m、

コルベットは、長いスキッド音とゴムの焼ける臭いを残しロケットの様に加速して行く。後続車の運転手は、唖然とした。


五所川原市のホテルの駐車場に滑る様に赤のコルベットが停車する。

獨雅と賽嬢が車から降りてドアを開け、トランクを開け「さぁ、行こう」と言い手を差し述べると

「う、うん」賽蛇が答えてその手を掴んで飛び降りる。

「え、ここホテルじゃない」賽蛇が言うと

「そ、姫様が、忘れ物だって」獨雅が言いながら賽蛇の手を取り、先を行く賽嬢を追いかけていった。




ロビーに入ると 優介と魏嬢が立ち上がり、奥の席のテーブル席に移ったところだった。

獨雅と賽嬢に賽蛇の3人は、魏嬢の元へ走り寄る。

魏嬢の後に3人が並ぶ、魏嬢がタバコを右手に 灰皿を左手に持ちながら立ち上がる。

魏嬢の尾骶骨が、静かに伸びて行く。

綺麗な白色と銀色の光沢の鱗を纏っていた。

伸びた尾骶骨は、賽蛇の後ろに回り込み、立ち上がって行く。

獨雅と賽嬢に賽蛇の3人は、気が付かない。魏嬢の言葉を待っている。

賽蛇が気付く、しかし もう遅かった。

賽蛇の後ろに回り込み立ち上がった尾骶骨は、賽蛇の首に巻き付き、体ごと引き上げて行く。

「貴女、いつから向こうに付いてたのかしら」魏嬢が言う。

「えっ・・・なんで」賽蛇が呻く。

「聞こえなかったのかしら」魏嬢が言う。

抑揚のない機械的な物の言い方だ。

聞く者を氷付かせる様な響きを持っている。

目は爬虫類の持つ金色に光っている。

「私を罠に嵌めるとは、良い根性をしてるわね。この小娘」

「解らなかったんじゃ、いつ、いつ解ったの」賽蛇が叫ぶ。

「・・・・・良いわ。獨雅と賽嬢、連れて行きなさい」

賽蛇を降ろすと吊り上げていた尾骶骨は、スルスルと元の様に戻って行く。

タバコを一口、吸い込んだ後、椅子に腰かけ、背を向け煙を吐き出し、片足を組んだ。

片手で肘を付きオデコを支え、俯いている。

「姫様、それで処分は如何致しますか」

獨雅が言うと賽嬢が袖を引っ張って震えながら指を刺す。

指が刺された方を獨雅が見ると、

其処には白黒の鱗の形の首輪が黒い靄の様なものを漂わせながら張り付いていた。

「ひっ」短い声を発し獨雅が言い。2人が頭を下げ、引きずる様にホテルの外へ連れて行った。

「向こうの席へ戻ろうか」優介が魏嬢に声を掛ける。

「無様ね、身内から裏切り者を出すなんて・・・申し訳ございません」魏嬢が優介に頭を下げる。

「事前に解って良かった。さて向こうでコーヒーでも飲みながらまた、考えよう」

優介は、手を差し出して魏嬢の手を取り、元の席に戻って行く。

「あ~、あ~、浮気だ、優介が浮気だ」優子が騒ぎ出す。

優子の隣へ魏嬢を座らせ、優子を挟んで優介が座る。

「あのなぁ、こんな堂々とした浮気があるか?」優介が言う。

「だって、手、繋いでたもん」優子が優介の方を向いて言う。

優子の背中に魏嬢がオデコを軽く当てる、優子がはっとして「うん良いよ」と呟く。

「優子、ごめん、一寸このままにさせて」と呟いた。

「姉さん」その横で白愁牙が呟いた。


優介と優子は、裁く者の辛さを魏嬢の中に見た。

人と違い妖達は、裁かれる=死に直結するのだ。

一族としての義務、掟、責任、けじめ。

裁く者は、それを永遠に背負わなければ成らない。

だから彼らは強い。強くなければ成らない。

それを知っている妖達の族長達は、何も言わず、静かに見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ