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九尾の孫 【絆の章】 (2)  作者: 猫屋大吉
15/22

槃蔵

九州は、一段落。

白隙、来牙、権現狸、斯眼もがんばっています。

優介と優子は、幣立神社に居る。

妖達は、駐車場で待機している。

高千穂により神様達に便宜を図って貰い、彼らのテンションも上がっている。

駐車場を出て行こうとするとウニモグU5000から降り立った土蜘蛛10人衆が、又もや、

「優介の兄貴、姫様、御気を付けていってっらっしゃいませ」と大声で言う物だから他の観光客から稀有な目で見られ、離れて歩かれる存在と化してしまった。

鳥居を潜り、長い階段を上って行くと途中で空気の雰囲気が変わる、神様と会合した時の様な凛とした雰囲気に似ている、これはここに参拝する殆どの人が、体感する。

長い階段を上がり両側に銅瓦の灯篭を過ぎると境内である。正面に社殿がある。優介と優子は、ここでまず参拝する。健磐龍命たけいわたつのみことの宮と水神宮にも参拝する。本殿を左から回り込み階段を下りて行き東御手洗社が鎮座されているので参拝する。竹を通して流れ出る湧水を頂き、2人は、伊勢の内宮を目指す。

到着すると優介は、鳥居の手前に胡坐をかく、優子は、その右後に正座する。

鳥居の下に建ててある石碑の向かって左横に木の椀を置くとそこへ神酒を注ぎ、両手で印を結び始める。椀の酒が減った。

「明日、朝、正式に御参拝させて頂きたく存じ上げ奉りたく 本日参上致しました。何卒、宜しく(おん)、奉ります」

と言って立ち上がり、2礼すると3歩そのまま後ろへ下がり1礼する。優子も同じ様に礼を正す。

鳥居から現れた優介と優子を見て、土蜘蛛10人衆が挨拶しようとした時、

胤景が、「兄貴が、もう辞めろって言ってただろ、空気読めよ、空気」と挨拶を止めている。

優介と優子も声が掛から無かったのでほっとして駐車場に向かった。



権現狸と斯眼は、白隙と来牙と共に岩手県遠野市の砂子沢の長松寺、しだれ栗の木の下、遠野の狐の関所に天狐を訪ねていた。この地の天狐は、名を槃蔵はんぞうと言い空狐天日の弟子であった。

天日から【葉書き】を貰って詳細を理解していた槃蔵は、

「武具を揃えるとは、いささか面倒になる、取り敢えず貸しを返して貰うか、まずは、八雷神やくさいかづちのかみ様に逢いに黄泉に行かねばなるまい」

「なんと、黄泉の地とな」権現狸が言う。

「失敗したらどうなるんだい」斯眼が聞くと

「そりゃ、切り殺される」とあっさり槃蔵が言う。

「・・・それでも遣るか」斯眼が聞く

「許より」白隙と来牙が同時に言う。

「解った。よし、行こう。案内してくれ槃蔵殿」斯眼が言うと

「ほぉー、もっと臆病かと聞いていた」白隙が笑いながら言う。

「誰から聞いたか解るわい、どうせ火焔の白雲か、凍砕の凍次郎だろ」

「お、やつらを知ってるのか」槃蔵が聞くと

「おらぁ、あの2人が一番嫌なんだ。だのに俺にこの話を持って来たのはあの2人がツルんで来やがった。あん時は、ひでぇ目にあった。けど、奴らが持って来た酒は美味かったなぁ」

舌舐めずりしながら答える。

「そりゃ良い、わっはっはっはは」槃蔵がひざを叩いて笑い、

「あー、おかしいのぉ、しかし、奴らがツルむって・・・そうか天日様の差し金か流石に我が師匠殿じゃ、それに儂の所に狐と狸と猫が来るとは思わなんだ。これも何かの計略かのぉ、わっはっはっ、では」、一頻り笑い終えると、真剣な眼差しでぐるりと全員を見て、

「行こうかの。こっちじゃ」と言い、後に用意した3本の刀を背に担いだ。

栗の木の下に在る石碑が乱立している。

土手の下へ降りて行くと一つの石碑に手を添えると 文字の掘られた真ん中辺りに黒い穴が出来、全体に広がりだした。

「こっから向こうが黄泉の地、黄泉の国だ。儂も行こう」と言い、さっさとその穴に入って行く。

斯眼、権現狸、白隙、来牙と続く。

「ほれ、これを持て」と言って白隙が権現狸に狐火を渡す

「ありがたい、わしゃ、斯眼と違って暗い所、こうも真っ暗だと見えぬ、歳じゃの、若い頃はこうでも無かった」と感謝する。

来牙は、およそ3m置きに木の枝を壁に氷で固定し、白隙がそれに狐火を移して行く。

「逃げる時、便利だろ、斯眼」と来牙が笑いながら言うと

「てめぇだろ。あんま意地張ってんじゃねぞ」斯眼が不機嫌そうに言う。

先頭を行く槃蔵が 「此処からしゃべるなよ、黄泉の湖に出る。出たらとにかく俺の後を全力で走れ、振り向くなよ」と言うと 正面にぽっかりと空間が広がる。

「走れ」槃蔵が小さく言う。

5人は、全力で走った。

曲がり道で権現狸が滑って転んだ。

転んだ権現狸を白隙が蹴る、

その地面を来牙が術を使って氷の道を作る。

転んだ権現狸の上にちゃっかり斯眼が乗っかると権現狸が両手で斯眼を持つ。

狐の速度について行けない2人は、こうして辛うじて同速になった。

それを斜めに見て槃蔵が更に速度を上げると白隙がまた蹴る

湖の外周をぐるりと半分程回った所に社があり、その前の鳥居を潜った所で止まった。

「白隙と来牙、良くやった。まさかその手があったか」槃蔵が言い、更に

「権現狸、背中、大丈夫なのか、カチカチ山になっとらんだろうな」と笑う。

「背中だけ金剛に変化したから大丈夫だ、火傷してたら治して呉れんのかい」

権現狸が笑いながら斯眼の首の後を持ちながら地面に降ろす。

「さぁこっからが本番じゃ、伊邪那岐神が天尾羽張という大きな剣でカグヅチの首を切った時に石の神、剣の神、火花の神、雷神が誕生なされた。その神剣、天尾羽張の剣を持って長篠一文字ながしのいちもんじ骨喰藤次郎ほねくいとうじろう千鳥(チドリ)この3本の刀に霊力を再度吹き込んで頂く」「いくぞ」槃蔵が言うと、4人が黙って頷いた。

槃蔵が、社の向かって右に立ち

「八雷神様、御願いが在って参りました。しだれの槃蔵に御座います」

「よう参ったの、まぁ、上がれや」社の奥から聞こえた。

「連れの者も4名おりますが」槃蔵が答える。

「珍しいな。まぁ良いわ、此処は黄泉だからの上とは違う」

「では」槃蔵が答え、皆を促し社に足を掛け、5段の階段を上がり障子戸の前の廊下で正座する。

他4名は、槃蔵の後に回り正座したのを見て「御無礼致します」と障子戸を片面いっぱい開けると、一同、頭を下げる。

「良い、入れ」声がして 槃蔵、斯眼、権現狸、白隙、来牙の順に入り、槃蔵がセンター位置に座り残り全員、槃蔵より一歩下がった所に横一列に並び座る。そして一斉に頭を下げた。

「頭を上げて顔をみせよ」声がした。

一斉に頭を上げるとすだれの奥に人影が見える。

「簾を上げてくれ」人影が命じるとするすると誰もいない筈なのに勝手に上がって行く。

人影は、蜷局とぐろを巻いた炎の蛇だった。八雷神の正体は、炎の蛇だった。

「頼みとは」蛇が言った。

「は、此処に用意した刀に霊力を頂きとう御在ますれば有難き幸せに御座います」

「ふむ、如何にして」

「天尾羽張にて」

「何を企む」

「玉賽破、玉藻御前の孫に相成りますが、上の世の混乱を企てて居りますれば、某、其れを阻みとう御座います」

「ふむ、武甕槌神より聞き及んでおるあの件であったか。してお主等、妖狐が何故其処までする。玉賽破とて主等と同族ではないのか」

「同族故、このままには出来ぬ次第に御座います」

「ふむ、何故」

「この者達の願いで御座います」

「願いとは、後の者、答えよ」

「人との約束に御座います」白隙が答える。槃蔵が白隙に前に出る様に促す。

「化物が、人とな。愚弄するか」蛇の頭の部分の炎が膨張した。

「ひっ」斯眼が声を漏らす。白隙が前に出て一礼する。

「滅相も御座いません。この人物に我が一族の長並びに我等好いております故、その人と共に戦いとう御座います」

「人、・・・武甕槌神もその様な事を言って居ったわ。同じ人であるか」

「は、恐らく。名を中司優介と言う者に御座います」

「中司の家に主等 下ると言うのか」

「この優介と言う男、個人に我等は従う所存に御座います」

「武甕槌神と言い、主等と言い、逢うて見とうなるな。相解った。ここは、槃蔵の顔を立てようぞ」

「有難き幸せに御座います」一斉に頭を下げた。

「刀をこれへ」と八雷神が言うと 槃蔵の前にある刀3本が八雷神の前へするすると飛んで行き、飛びながら其々が抜き身になって柄を下に、歯を上に垂直に立って等間隔で並ぶ。

すると何処から出たのか刃渡1m程の大刀がその刀3本の背の部分に歯を充てる、ちょうど王の字を横にした様な形である。赤や緑、青、紫と玉虫の様な色の光を放つと先程現れた大刀が姿を消した。

「これで良い」八雷神が言うと槃蔵の前に又、するすると飛んで戻り、目の前で其々の鞘に収まり元の位置に戻った。

一斉に頭を下げ礼をする。

「御手を煩わせ、真に有難き幸せに御座います」槃蔵が言う。

「もう良い、またのぉ。さらばだ」

一同、再度、礼をして廊下に出ると正座し、一礼して障子戸を閉め、階段を下がり、振り向き一礼した。

槃蔵が、「では、また走るかな」楽しそうに言う。

「参りますか」白隙が言う。少し緊張した面持ちで権現狸が斯眼を持ち上げる。

「今度はどっち周りで行く」来牙が権現狸の行動を見ながら薄笑いしている。

「こればっかりは、運だからな。同じコースで帰るか。行くぞ」槃蔵が走り出す。

一斉に走る。だが権現狸が遅れる。

白隙が権現狸の後へ回った時、黄泉醜女よもつしこめが前方から襲って来た。

槃蔵が黄泉醜女の足元に滑り込みながら足を払う。

黄泉醜女が倒れる。その隙に権現狸が斯眼を前方に投げる。

黄泉醜女が立ち上がると槃蔵が後に飛ぶ。

権現狸が体を丸めて黄泉醜女に体当たりする。

黄泉醜女が飛ばされて水辺に落ちる。全員が湖を見る。

その時初めて黄泉の意味がわかった。水が黄色く淀んでいたのだ。

伊邪那美命と思わしき亡骸から黄色い水はコンコンと湧き出ていた。

黄泉醜女がぬるぬるとする湖の水と戦っている間に全員が出口に走った。

まるで伊邪那岐神が黄泉平坂を駆け上がって逃げているかのごとく、全員走る。

権現狸が斯眼を抱き、「白隙、来牙頼む」と声を掛けて仰向けになって前方へ飛ぶ。

「まかせろ」白隙と来牙が叫ぶ。

来牙が氷のカーペットを敷く、白隙が権現狸を思いっきり蹴る。

槃蔵、来牙、白隙が狐の姿に戻る。

3匹は、いきなりトップスピードで駆け出す。

入って来た通路に着く又、来牙が氷のカーペットを敷き、白隙が権現狸を思いっきり蹴る。

槃蔵、来牙、白隙は、狐の姿のままだ。

斯眼を抱いた権現狸が石碑から飛び出て来る。

続いて槃蔵、来牙、白隙も飛び出る。

槃蔵が、石碑に空いた穴を埋め戻す。

「あ~、良かった。皆、無事だな」人の姿に戻った槃蔵が言う。

「ありゃ、いったい」

「黄泉醜女だ。何が有っても絶対死なない奴だ。だから さっさと逃げる」槃蔵が笑う。

「さぁ、祝い酒でもするか」来牙が笑う。

「近くの狐達も呼ぶか、多い方が楽しいからな」槃蔵がわらう

「襲うな、食うな、かじるなって言っておいてくれよな」斯眼が言う。

「お前、狐をそんな目で見てるのか」白隙が笑いながら斯眼の背中を叩く。

「じゃ、狸も呼ぶか」権現狸が言うと

「収集つかなくなるから」と来牙が言い掛けると槃蔵、白隙、斯眼が口を揃えて

「だめだ~」と叫び、全員が顔を見合わせて笑った。



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