三貴
高千穂に参ります
優子が神様から授かる物とは、その神様とは、
朝の5時過ぎ、優介、優子は、仰慕ヶ窟の鳥居の前に居た。
優子は、まだ眠いらしく此処へ来るまでの車の中でも何度も欠伸をしていた。
昨日は、ほぼ貸切状態で旅館のバーで騒いだ。カラオケ大会になって、オーバーザレインボーだけは、決して歌いたくなかった。何故か、この曲だけが力を発動させる。優介の好きなこの曲は、優子自身 歌い出すとどうしても優介の事を思い歌ってしまう、それが気持ちを具現化し、力に変換して行くと優子は、理解した。でも、それは、優介が常に傍に居て呉れたからそうなったのかも知れない、いざ戦いになると優介は、最前線に行ってしまう。その時、いったいどうすれば役に立てるのだろう。それに敵味方と入り乱れての攻防戦、力を発動させた時、敵はもとより味方の妖力をも吸収してしまうと敗退する可能性は少なく無い。敵だけを認識して力を発動出来ればかなりの確率で勝利する事も可能になる。
最近、こんな事を良く考える様になった、
「あーぁ、やっぱり修行しないとだめなのかな~、試したらみんなに迷惑掛けちゃうし・・・」
優子が、独り言を言い、ため息をつく。
優介が、小さく「来る・・御出増しになる・・・誰だろう」呟いた。
右斜め後に居る優子にもその緊張が伝わって来る。
優介が、跪く。優子もそれを見て慌てて跪く。
凄まじい経験のした事の無い冷気が正面からやって来る、まるで竜巻が襲って来るそんな印象すら覚える。
優子は、(国津神の前では、こんな凄まじい勢いは、無かった)と思った時、優介が優子に「何も考えない方がいいぞ」と囁いた。優子は、自分が思った事を優介が解った事に驚く。
暴風冷気の中、光る物が、あった。それは、一つ、また一つと徐々に増えて行く。
真ん中に一番大きな光が突然、出現した。
それは、他の光とは圧倒的に次元が違い、しかし暖かく包み込むような母の光であった。
優介の口から「うっ」と呻き声が上がり、「こ、これは」と明らかに驚愕しているのが目にとれる。優子は、その様を見て予想外の神様が出現した事を理解した。
優介は、更に頭を下げ、地面に額を擦りつけた。
優子もそれを見て額を地面にあてる。
「もそっと、顔を上げぬとわらわから見えないではないか、緊張する事も恐れる事もないわ 中司」
と美しい女性の声、凛とした張りのある其れでいて重量感が声にはあった。
優介が、45度くらいまで上体を上げる。
優子も同じ様に真似る。
「中司、ヌシが此処に来た理由、解っておる。玉藻の下僕達を抑えろとの事であろう」
「は、恐縮に御座います」
「ヌシ達は、あの様な外道を何故、滅さぬ、早々に滅っしておけば良かった物を」
「外道と言えど、命。軽々しく人が命を奪う等、以ての外と思い」
「その返答、わらわは、好きじゃ、ホッホッホッホッ」
「嘗てわらわにも弟がおっての、乱暴者であった、が、中々良い所もあってのぉ、罰を与えても滅するまでは行かなんだ、ホッホッホッ。ヌシを慕っておるあの妖共の性根は、昨晩、闇淤加美神より十分に聞き及んでおる。其れを持ってヌシを図り此処に呼んだ。ヌシは、中々、評判が良いではないか、闇淤加美神だけではのうて他にもヌシの噂をする者もおってのぉ、一度逢うてみたいと思うたのじゃホッホッホッホッ」
「有難き幸せに存じ奉ります。三貴神様の事、重々相存じております。昨日は、闇淤加美神様と知らぬとは言え、御無礼を働きました事此処に御詫びと少々ではありますが、神酒を御持ち致しました」
と、光の一つが、昨日の老人の姿になり、
「ありがとう、儂の酔狂での、あの者にも良く言っておいてくれ、迷惑掛けたのぉ」
と。神酒の入った瓢箪を受け取った。
「御無礼を働いたにも関わらずこの様な御取り計らい痛み入ります。ありがとうございます」
と頭を下げる。
「そこな女子、われらの中でその方に渡して置きたいと言う者が居っての、受け取るが良い」
また一つ、光が、今度は、薄い羽衣を纏った全裸の女性が現れ、手輪を持って優子に近づいて来た。
優子は、頭を下げ、両手を前に掲げると、その羽衣を纏った神は、優子の左手を優しく取り、腕に手輪を差し入れると
「汝は、わらわの術の一つを持つ者ぞ、その手輪はその証じゃ」
と言い、舞う様に先程の闇淤加美神と同じ位置まで下がった。
「有難き幸せに存じ奉ります」優子が言い、頭を下げると
「天宇受売神様、御久しゅう御在居ます、格別な御計らい感謝に堪えません」
と優介が、付け加えると 羽衣を纏った神は、にこやかにほほ笑みながら「良い良い」と優雅に頷いた。
「さて、ヌシの願いじゃが、この者が直に成敗すると言うて聞かぬ、この地まで来ておるが、如何する」
と言うと凄まじい冷気の塊が、優介の背後に突然現れた。
「姉者、済まぬ。また、我儘を聞いて貰った。じゃが、どうしてもあ奴ら許せぬ」
優介は、その勢いで前に2m程飛ばされ転がってしまう。
優子は、横に3m程、はじき飛ばされた。
「もっと優雅に現れる事が出来ぬか、皆転げてもうたではないか」
「済まぬ、姉者、天安河原に居る物達が怖がるのでつい此処に飛んだんじゃ、済まぬ中司、それに女子」
「こ、これは須佐之男神様、御久しゅう御在ます」
弾き飛ばされた位置で須佐之男神から見て横を向きながら頭を下げる。
光の声の神、2柱に挟まれた状態になっている。
「なんじゃ、知り合いか、なら話が早ようて良い、どうじゃ、中司」
「過用な御計らい頂き恐悦至極に存じ奉ります」優介が、姿勢を正して頭を下げ言う。
「何を言う。みなの噂に成っている者に逢えてわらわも嬉しいぞ。足労を掛けたな。さらばじゃホッホッホッホッ」
「優介、任せろ。さらば」須佐之男神が言い消える。
「ではまたのぉ、あの物に宜しくのぉ」闇淤加美神が消える。
「ではな、大切にな 見ておるぞ」天宇受売神が羽衣を舞わせゆっくりと消えていく
優介と優子は、深く頭を下げ、2礼する。
優介が立ち上がり、優子の元へ歩くと手を差し伸べ優子を起こし、立ち上がらせる。立ち上がって手を繋ぐと天安河原へ歩き出した。
道中で優子が
「最後まで優介、名前を言わなかったね」
「言える訳、ないだろ」
「もう、言えるでしょ、せーのーで、」
同時に「天照大御神様」と言ってにっこりほほ笑んだ。
「でも飛ばされたのには、びっくりだったね、それに天宇受売神様の力の一つだったんだねこの力、セイレーンの魔女じゃなくって良かった」
優介を見ながら優子が笑う。
優介と優子、二人の姿を見た妖達は、全員、立ち上がった。
太郎丸が手を振っている。
優子が走って行き 魏嬢と白愁牙に抱き着く。
白愁牙は、優子の左手に嵌っている輪っかを見てどうしたのと聞くと
「天宇受売神様に貰った~」と言うと 魏嬢と白愁牙は、すっごーい、優子すごいね、見せて見せてと一緒になって喜んでいる。
優介は、(まさかここで最高神に逢えるとは思っていなかった、びっくりだ)独り言を言いながら妖達に合流すると一人、川辺で石を積んで拗ねてる奴が居た。凍次郎である。
「凍次郎、昨日の神様と逢ったぞ、闇淤加美神様、龍神様だ。気にしない様に言っておいてくれと伝言を頼まれた」と優介が言うと全員が「おぉ~」と歓声を上げ、凍次郎も「兄貴~、ありがとう。本当にありがとう」と泣きながら優介に頭を下げた。優介は、(優子が姫で、俺が兄貴か)溜息を付、今度は、優介が微妙に落ち込んだ。
妖達は、天岩戸神社の駐車場で優介と優子の参拝を駐車場で待って居た。
駐車場に2台の車が進入して来た。1台はハマーH2、もう一台は、ウニモグU5000。ハマーH2から降りたのは、土蜘蛛の胤景と鐸閃。ウニモグU5000からは、胤景と鐸閃の部下10名が運転席、助手席と荷台から降り、車の横に整列した。
ハマーH2は、全幅2mを超え、5.987L、242馬力、50.5kgm。車重は、2903kgと3t近いが基本的には、アメリカ軍の軍用車として開発されておりアーノルドシュワルツネッガー氏の熱望により一般市販される様になった。その機動性、耐久性は、折り紙付である。
ウニモグU5000は、ベンツで有名なダイムラー社が製造販売する世界でも稀な多目的作業トラックで複数のアタッチメントにより用途が様々に変更出来る所にある。登坂最大傾斜角は、45度とトラックとして驚異の性能を誇り、このU5000に至ってはオフロード走破性能を極限にまで高めることに結集され、森林火災や福島の災害地等の大規模災害で貢献している。
太郎丸が、胤景と鐸閃に今から出入りでも始める気かと聞くと、胤景が右手を上げ挨拶して
「おう、かなりヤバイ相手だと聞いてな、家の精鋭とこっちの精鋭を連れて来た」と鐸閃を指しながら言った。
「もう、話は付いたぜ」さっきまで落ち込んで居た凍次郎が偉そうに言うと
「どうなった?」
「締めたのか?」と物騒な質問をして来る。
「いや、俺達は、手を出さない」
「じゃ、このまま見逃すってのか」
「代わりに須佐之男神様が成敗して頂ける事になった」
「か~、奴ら終わったな、エグイからなあの方は、徹底的だからな」鐸閃が言い、続けて「じゃ、こいつら用がねぇな、どうする」と胤景に聞く。
「まぁ、ちょっと待てって。優介殿と姫は・・・中か?」
「そうだ、優介の兄貴が、天照大御神様に話を付けたんだぜ」
「益々、凄い御人だ。おう、野郎共、御二方が戻っていらしたら超丁寧に御迎えするんだぞ、超だぞ、超」とウニモグU5000の横に立並ぶ10人に声を掛けと「了解しました」と踵が鳴ると同時に一斉に返事をし、敬礼している。
まるっきり軍隊だ。
優介と優子が、参拝を終え、天岩戸神社から出て来るといきなり
「御務め御苦労様です」と立並ぶ10人に敬礼され、驚く。
駐車場の周りに居る観光客も遠くから見る者、走って逃げる者等様々だ。
「おい、胤景、そいつら如何にかして呉れ、頼む」と優介が言うが、
優子がその10人に近づき、「ずっと運転して来たんだよね、しんどく無い、一寸待っててね」と声を掛けて優介を手巻きする。
優介は、苦笑しながら優子の傍に行くと「お土産物屋に行こ」と声を掛け優介の手を引っ張って行く。
妖達は、その姿を目で追う。
「姫、またあたし達の分まで何か買ってくるよ」
魏嬢が、傍に居る白愁牙に言う。
「ええ、多分。気を回し過ぎなんだよ姫は」白愁牙が頷く。
「でもそういう気配り、あたし、好きなんだけどね」魏嬢が言うと
「実は、わたしもです」白愁牙が答えた。
売店に着き、うーんと頭を捻りながら優子は、饅頭2種類20ケづつとゆで卵20ケを注文する。
3つの袋に入れて貰い、優介が2つの袋を持つ。
優子が、優介の手を引いて駐車場に戻り、
「優介、此処に居て」と言うとウニモグU5000の横に立並ぶ10人に饅頭20ケとゆで卵10ケを渡し、優介の元へ走って戻って又、袋を一つ持って今度は、 胤景、鐸閃、白雲、白禅、凍次郎、北渡、太郎丸、蔵王丸、白愁牙、魏嬢に其々饅頭2ケとゆで卵1ケを渡して行く、途中で足らなくなってまた優介の元へ取ってかえすとまた袋を持って行き手渡す。最後に優介に饅頭2ケとゆで卵1ケを渡し、自分も両手に饅頭2ケとゆで卵1ケを持つと「お疲れ様でーす」と饅頭を食べ始める。
「姫、頂きます」と口々に言いながら皆が食べ始める。
「美味しいね、立ち食いも此処までの人数で食べるとまた、格別だね」
満面の笑みを浮かべる優子。
途中、凍次郎と北渡、それに白禅が コーヒーとジュース、お茶の入ったクーラーを車から出し、皆に配り始めると
「凍次郎、やるね~、気が利くね~、りっぱだよ」と優子が言う。
「姫、ありがとう御座います」と照れながら礼をする。
「あー、良いなー、褒められてる」太郎丸が言うと 皆が笑った。
蔵王丸がビニール袋を持出し、皆のごみを集めて行く。
「偉いな~、蔵王さん」と優子が関心すると
また太郎丸が「良いなー」と羨ましがった。
優介は、たばこを取り出し、火を点け深く吸い込みゆっくり吐き出しながら(姫様か、段々、様になって来た。懸念してたより上手く事が運んだのは、やっぱり優子が居て呉れたからだろうな。それに妖達もここまで心を開いてくれるのは、優子が居る御蔭だな)と思い、天照大神様、須佐之男神様、天宇受売神様、闇淤加美神様に感謝の念を捧げた。
「さぁ、つぎは、幣立神社、ここも朝に詣でる事になるからまず、参拝して明日だね。今からゆっくりトンネルの駅に寄ってから現地に行こうか」
優介が、優子に言う。優子は、饅頭を口に含んだまま無言で頷く。
天岩戸神社の駐車場を出て7号線を戻り218号線を過ぎ高千穂の町中に抜けると右折左折を繰り返し、高千穂警察署前を通過すると325号線に抜けた。しばらく走ると九州横断鉄道が工事を中止し、現在酒蔵として利用されているトンネルの駅に着いた。入口脇には高千穂鉄道で使われていた車両を置き、観光バス駐車場の傍に滝がありその前には、馬が酒樽の乗ったリヤカーを引くオブジェ(荷車を引く黒馬の像)が在り、トンネル内は、数千本の樽の並ぶ酒蔵として使用されている。
駐車場に着き、優介と優子は、取り敢えずうどんを食べようと車中で決めていたので向かう。
トイレに向かう者、酒を欲しそうに見ている者、すでに買い、その場で呑んでいる者、様々にリラックスしている。
優介と優子は食べた後、売店や酒蔵を見て回り、時間を適当に潰す。
優介は駐車場の一角を見て、(目立つなー)と一人呟き、妖達を見て(こっちも目立つなぁ)と見ていた。
バラバラの様相を醸し出しながらも、しっかり目立っていた。
325号線を戻り、高千穂市街地へ入る道を右方向、高千穂バイパスに乗り218号線を五ケ瀬に向かう、五ケ瀬を通過して山都町に入り右手の218号線に向かうと右手に幣立神社(幣立神宮)が鎮座している。
幣立神社(幣立神宮):
創建約1万5千年前からの起源があるといわれている。主祭神は神漏岐命・神漏美命であり、大宇宙大和神、天御中主大神、天照大御神を祀っている。
社宝は、火の玉、水の玉、五色神面で、世界一の巨桧・天神木その脇には、伊勢の内宮と書かれた石柱があり、、双子杉、東御手洗・東水神宮は、八大龍王が鎮まる所とされ、北辰妙見の大神が祀られ、中国の始皇帝は不老不死の霊薬を求めたと言われています。五色人祭りは、現在では世界中から人が集まる祭になっている。