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九尾の孫 【絆の章】 (2)  作者: 猫屋大吉
13/22

式礼

天津神の聖地、高千穂に到着した一向は、とんでもない珍道中となる?

高千穂神社の駐車場で優介は、妖狐達の車が、入ったのを確認し、優子と共に境内へと向かった。

御神木は、樹齢800年の杉の古木である。他、境内には、夫婦杉が有り、大好きな人と3回、回ると願いが叶うと言われている。

2人は、鳥居を潜り参道を進むとライオンの様にたてがみのある狛犬の前を通って階段を上って行く。境内に入り 拝殿で参拝し、御本殿に向かう。右手に三毛入野命が鬼八荒神を退治している木彫りの像が印象的な印象を与える。ここでも参拝し、荒立神社と四皇子社も回る。

優子は、夫婦杉を見つけると優介の手を取り、「3周、回ろう」と言い、優介を引っ張って行く。

優介は、苦笑しながらも優子と3周回り、2人で参拝した。

最後に圧倒的な存在感のある御神木へと歩を進めた。

優介は、御神木の前に来るとその前で2礼し、その場に胡坐をかいた。

優子もそれを見て慌てて優介の右後ろに正座する。

優介は、上着のポケットから出した木彫りの碗に持って来た瓢箪から神酒を注ぎ、御神木の前に置き、色々な印を結び始めた。優子の見ている前で碗から神酒が無くなっていく。

優介が、「中司家次男、中司優介に御座います。唐突では御座居ますが、明日、正式に御逢いしたく思い、参上致しました。皆様への御配慮の程、宜しく御願い奉ります」

と言い、2礼し、碗に神酒を注ぎ、立ち上がる。

優子も立ち上がりながら「碗はそのまま?」と聞くと優介は何も言わず、頷いた。

優介は、座った位置から3歩下がり、再度礼をする。

優子もまねて礼をする。

優介が優子の手を持って境内を後にする。

優子は、(凄い汗、まだ寒いぐらいなのに よっぽど緊張してたんだ)と思った。

2人が、参道を抜けた時、優子が、優介を引っ張って土産物屋に行く。

優介が、店内を見て回っている間にゆうこが、両手いっぱいにB級グルメを買い漁っていた。

「くるみ味噌・焼きだんご・田舎ドーナツを其々、10本、10個で、袋を分けて欲しいんだけど良い」

「嬢ちゃん、いいよ。良く食べるなっと思ったら連れの分だね。小さい袋に入れていけばいいさ」

「おばちゃん、ありがとう。お金此処に置いて置くね」

と言って妖狐達の分まで買っている。

優介は、(おいおい、狐や、蛇ってそんなの食べるのかよ)と少し引き攣った笑になっていた。

駐車場に着くと優子は優介に袋を渡し、残りの袋を持ってダッジナイトロが停まっている所に行き、袋を開けると、ダッジナイトロの両側の車からも権現狸、斯眼、太郎丸、蔵王丸、魏嬢が降りて来た。

シボレーコルベットが魏嬢の車で、白愁牙が同乗し、シボレーキャプティバに太郎丸、蔵王丸が乗っている様だ。

彼らにも其々一つづつ笑いながら渡して行く。彼らも又、笑いながら何やら話して受け取って行く。

優介は、(彼女にしか出来ないコミュニケーションだな)と感心しながら見ていた。

暫く立ち話をする様なので優介は、タバコを取り出し、火を点け、吸うと煙を上に向かってゆっくりと吐いた。一本吸い終わる頃、優子が戻って来て

「どう、緊張解れた?」と聞いてくるので何で解ったと聞き返すと手の平、すっごい汗かいてたよとあっけらかんと言ったので優介は、自分の手を見て思わずズボンで拭いて

「ありがとう」と素直に優介は、返した。


「次は、高千穂峡でも行くか? 寒いと思うけど大丈夫か?」

「うん、行こう」

優介と優子は、GT500に乗り込んだ。

駐車場の出口までの間にシボレーコルベットが止まっている。その脇を通る時、魏嬢さーん高千穂峡に行きますよ と優子が、声を掛けると車の中でサングラスをした魏嬢が、片手を上げて合図した。



シボレーコルベットは、LTI型6.2L V8エンジンを搭載している。その心臓部からは、460馬力63.6Kgmを叩き出し、時速60Kmまで3.8秒で到達する。目を引くのは、可変バルブタイミングで巡航時に4気筒を休止し、燃費を稼ぎ出す。6速オートマチックと7速ミッションの両方が用意され、魏嬢のコルベットは、ミッションであった。重量バランスも優れており、FRレイアウトながら50:50の理想的なバランスを有し、コーナーリング最大横Gは、1.3Gを誇るコーナーリングマシンの一面も合わせ持つ。



「魏嬢さん、かっこいいですよね、真っ赤なボディの速そうって感じのスポーツカーですよね」

「実際、速いよぉ、事件が解決したら乗せて貰うと良い。二人乗りだけどね」

「え、2人乗り。2人しか乗れないんですか、なんか勿体ないですよね」

御塩井駐車場には、時期が時期だけに車が全く見当たらなかった。

その上、残念な事にボート乗り場も休業していた。

「ボート、出てないですよ」文句を言う優子。

GT500の横にコルベットが止まり、その横にシボレーキャプティバ、ダッジナイトロとアメ車がずらりと並んだ。その4台を見比べて 優介は、(GT500がやっぱり最高だな~)とにやけている。

「姫、橋を渡って左に遊歩道があるので上から真名井の滝が見れますよ」太郎丸が声を掛ける。

「ありがと~太郎さん」と優子が返事をすると太郎丸は、照れくさそうに(た、たろうさんだって)と独り言を言いながら こちらもにやけている。

その様子を見て、呆れて「太郎さん、行きますよ」と蔵王丸が声を掛けると

「てめぇが太郎さんって言うな」と真剣に怒っている。

まさに珍道中だと優介は、笑を堪えるのがやっとであった。

真名井の滝を橋の上から見て

「神秘的ですよね~」と優子が言う。

その横であっちのおのころ池は、昔は、河童が居てたんだよな、あいつ今、何してんだろうとか話す太郎丸と蔵王丸。

「寒いねぇ、あんた毛皮持ってないの」魏嬢が、白愁牙に聞いている。

また、優介は、(どっちが幻想的なのか神秘的なのか わからんな)と一人 くすくす笑っていた。

「そろそろ宿にチェックインする時間だな」優介が、笑を顔に張り付けたまま言い、

「魏嬢さん、白愁牙さん、優子と一緒に露店風呂に入って上げてくれませんか」と聞くと

「良いよ」と快い返事が 返って来た。

「こんなに良い空気なんだから部屋の風呂より露店風呂が良いだろ」優介が言うと

「ありがと、広いお風呂に入りたかったんだ。魏嬢さん、白愁牙さん 御願いします」

声を掛けて礼をする。

「姫、礼なんていいって。なんなら優介も一緒にどうだい」魏嬢が笑いながら答える。

「俺はダメか?」蔵王丸が言うと

「絶対、ダメ」と優子、魏嬢、白愁牙の3人が口を揃えて言ったので、そのタイミングの良さに全員が笑った。全員が満面の笑顔だ。

駐車場に戻り、優子の予約した旅館にチェックインした一行は、直ぐに全員で風呂に向かった。

体の大きい太郎丸と蔵王丸は、宿のおかみさんの計らいで特別に相撲取り用の浴衣を用意して貰って大喜びだ。

「俺、温泉で浴衣着るの初めてだ」

「いや、それは違う。そもそも温泉旅館に泊まる事が初めてなんだから」

と一番後ろを歩いている太郎丸と蔵王丸の会話を聞いて前を歩いている優介、優子、妖狐、魏嬢がくすくすと笑いながら通路を歩いていく。

風呂の前の廊下で女性陣と別れて奥の男湯へ崩込むと太郎丸と蔵王丸がまた、

「温泉ってなんで温かいか知ってるか」

「大勢が下で火を焚いてるんじゃないか」とか訳の分からん事を言い出したので今度は、凍次郎が湯船のへりに仁王立ちして、教えてやる。

「温泉が温いのは、地面が温かいからだ」と正解の様な不正解の様な事を言い出す。

先に風呂に入ってた別の宿泊客が、ぽかーんとして聞いている。

「兄ちゃん達、どっから来たんだ?」客の一人が聞いて来た。

「俺は、北だ、んー、とにかく北だ」凍次郎が答える。

「東北、青森です」と北渡がフォローする。

「遠いとこからだのぉ」と返すと

「じいちゃんは、どこからだ」今度は、太郎丸が聞く。

「儂か、儂は、この地元じゃよ。そろそろ、お先にの、ほっほっほっほっ」と言い、湯船から上がり、

「中司の、明日、仰慕ヶぎょうぼがいわや に来なされ、連れのこやつ等は 天安河原あまのやすかわらで待たせるが良い」と言って風呂から出て行った。

全員、慌てて湯船から出て じいさんの出て行った方を向いて土下座し、お辞儀をした。

「お、俺、何か天罰落ちるよな」と顔面蒼白になり落ち込んでいる凍次郎に

「知らぬとは言え、じいちゃん呼ばわりだからな」白禅が追い打ちを掛ける。

優介は、「聞いてなかったのか、天安河原あまのやすかわらに入る事を許されたんだぞ。天罰など、落ちるものか」と言うと、

凍次郎は、泣きながら「怖えーよー」と優介を見ながら号泣していた。

「北方の牙が、泣くな」と太郎丸が、湯船に凍次郎を掴んで入れ、自分も浸かる。

風呂から出た男連中は、優介以外全員、項垂れて待合で座っていた。


こちらは女湯、優子、魏嬢、白愁牙が、夕暮れに照らし出される山々を眺めながら優雅に風呂に浸かっている。魏嬢、白愁牙は、流石に人に非ざる者でその美貌とプロポーションは、同じ女性である優子から見ても絶句するほど綺麗だ。特に魏嬢に至っては、醸し出している色気の次元が、全く違った。

優子は、(卑怯ですぅ、そのプロポーション)と思っているので、景色どころではない。じっと湯を見ている。

「姫、優介とは、いつ結婚するんだい」白愁牙が聞く

「この事件が解決したら速攻、しますよ」優子が少し、怒りながら言うと

「なぁに拗ねてんだい、姫、あたしらのプロポーションが、気に成るみたいだね」魏嬢が言うと

「そ、そんな事ありません。だって、変化出来るんですから、卑怯です」優子が言う。

「あら、図星かい、これは仕方が無いんだよ、姫」魏嬢が返す。

「あたしは、蛇で、蛇のさがなんですよ」

「こっちは 狐ですから これも狐の性なんですよ」

「ところで姫、ちょいと小耳に挟んだんだけど会社、長期休暇出してんだって?」魏嬢が言う

「はい、多分、もう辞めようと思ってます」

「じゃぁさ、あたしん所においでよ。嫌じゃ無かったらさ」魏嬢が言う

「え、会社してるんですか」優子が問う

「化粧品の会社なんだけどさ、・・・・って言うんだ」

「超大手じゃないですか」優子はびっくりした。

「こっちの白愁牙も会社、やってるよ」優子は、更に驚く。

「止めてくださいよ、あねさん」白愁牙が言う

「向こうの男連中も、土建屋にやくざに証券会社に不動産屋に居酒屋まぁ色々だよ」

「そうなんですか」

「私らって寿命が長いから人が思いつかない長期計画が出来るし、臭いでダメかどうかが判断出来るから殆ど事業しても失敗しないのさ。それに大きくなったら社員も一々会長の顔まで覚えてないしね」

「超卑怯ですよね、それって」優子が笑う。

「だよね」魏嬢、白愁牙も笑う。

「だからね、姫、結婚式には、相応の物、あたし達から持たせてあげるからね、遠慮何かしたら怒るよ」魏嬢が言った。

「だって、私達って優介と友達だし、姫とも大事な友達だしね」白愁牙が言う。

それを聞いて、優子は、涙が止まらなかった。

こんなに近くにこんなに親身に言って呉れる友達は、居なかった。

人よりも彼ら妖達の方がずっと暖かい気持ちがある様に思えた。

優介は、彼らと心の交流をずっと大切にして来たんだと今更ながら思える。

彼の生き方に感動すら覚えた。

心の中で (優介、ありがとう)と言った。そして、

「ありがとう」と泣きながら2人に抱き着いた。

「あたしらも人と友達になんて成れると思ってもいなかったよ、礼を言うのはこっちだよ、姫」

魏嬢も優子を抱きしめる。

「うんうん」と貰い泣きして言葉に成らない声を出して白愁牙も抱きしめた。


女性陣が風呂から出ると男性陣が待っていた。

男性陣のまわりの空気が、暗く、重い。

「おまたせー」と明るい声で優子が言うと

「ちょっとぉ、何この空気感、止めてよね。感動が一気に覚めちゃうじゃないのさー」

白愁牙が言うと

凍次郎が、「俺、もうダメかも」と言いながら顔を上げると目から滝の様な涙が流れている。

「何がもうダメって言ってんのさ。滝見たからってマネする必要ないわよ」

また、白愁牙が言う。

「お、俺、神様にじいちゃんって軽口叩いちゃったよぉー」と又、泣き出す。

「あー、うざい。白雲、どう言う事か説明しなさいよ」と白愁牙が怒りだす。

「湯船に浸かってる時に神様に会って、神様だと知らずにこの馬鹿が、じいちゃん呼ばわりしちまったんだよ。それも神様の座ってる前でこいつ、仁王立ちのままでさ」白雲が言うと

優介以外の男性陣、全員が、うんうんと頷いている。

「だから、お前ら全員、天安河原あまのやすかわらに入る事を許されたんだって言ってるだろ」

優介が言うが、聞く耳を持っていない。

「こんなとこじゃ何だからとっとと飯行くぞ」魏嬢が見かねて言うと

「へい」と優介以外の男性陣が立ち上がってすごすごと女性陣の後を歩きだす。

優介は、(まったく、これだから・・・)と思いながら最交尾を歩き出した。


部屋に着くと膳が並べられ、妖達に勧められて優介は、しぶしぶ上座に付き、優子がその左隣に座った。

優介から見て右手に白雲、凍次郎、白禅、北渡、左手に魏嬢、白愁牙、正面向かいに太郎丸、蔵王丸と座ると宿のおかみさんが、挨拶に来られ、全員に酒やビールが渡ると優介が、乾杯の音頭をとり、食事が始まった。ごはんの入った御櫃おひつが、あっと言う間に5つが空になり、部屋の給仕を担当している中居さんは、大慌てでお代わりを運んで来る始末で、先程までの空気が、一掃された。

「凍次郎、腹減って泣いてたんだろう」魏嬢が言うと、思い出した様にとっくりを一本そのまま飲み干して 「焼け食いに決まってんだろ」と言った。

優介は、「みんな、聞いてくれ、さっき、風呂で神様の1柱が、先に来られて折、明朝、俺と優子が、仰慕ヶ窟で面会する事になった。そして残りの者は、天安河原への立入りが認められた 」

と言い、続けて

「過去、天津神が、妖にこの地、天安河原への立入りを認めた事は、一度足りとて無かった。これは諸兄の心根を見定めて頂けた証と言える」と言うと、

凍次郎以外は、おぉーっと歓声を上げた。

凍次郎は、未だに拗ねている。

優介は、見兼ねて、凍次郎に聞こえる様に白雲に「この拗ねてる奴、燃やすか」と言うと

凍次郎は、顔を上げて「勘弁しておくんなさい」と優介に頭を下げた。

優介は、白雲に凍次郎に解る様に説明して上げて欲しいと頼むと凍次郎へ向き直り、説明を始めた。

凍次郎が理解した時には、食事は、終わっており、皆でバーに行こうと話が決まった頃であった。

バーでも優子に怒られ、ごめんなさいと言う凍次郎の声が夜の山々に染み込んで行った。

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