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九尾の孫 【絆の章】 (2)  作者: 猫屋大吉
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策略

宿敵 玉賽破ぎょくざいぱの作戦が見えてきます

旧鼠きゅうそが潜入捜査を開始してから 優介の元に届く情報量が 格段に増えた。

今も優介の前に青狐が座って【葉がき】数枚並べて何やら書いている。

中司家に頻繁に出入りする様になった青狐の事を 優介は、文字を教えてるっと中司家と出入りする分家、御手伝いさん達に言ってある。

(すごいな きゅうそは)優介が書く

(そうだね しがんがすいせんするだけに)



「情報にあった あの学者の娘が本当に【能力者】なのか?」

縫道石山ぬいどういしやまの頂上で玉賽破ぎょくざいぱが呟く。

「まだ、妖力を吸収する御つもりですか」傍らの野狐が聞くと

「妖力の源から少し距離があるからな 少しづつしか吸収出来ぬ。かと言って源に行くと感づかれる。あそこには、地蔵がおる」

「先程、中司弟めに【鵺】が倒されたと言う報告がありました」違う野狐が走って来て言う。

「【鵺】は、良い。元々、使い捨ての物。それよりあの娘の力の発動は 確認出来たのか」

「狭い山の上でございましたし、なによりあの中司が居ては、近寄れませぬ。ですが、流石、我方の物見、目で確認は出来なかったのですが、何やら歌が聞こえてたらしく【歌】と言いながら妖力が尽き死んだそうに御座います。」

「岐阜に居るあいつは、どう言っておる」

「岐阜は未だに動く気配無しとの事でございます」

「そうか、あの娘を襲わせたのにか・・・して我が母の手練れが居る九州は?」

「天津神共が 何やら騒がしく、動けぬ様に御座います」

「うーん、纏めて挟み打ちにしてやるまでも無いの・・・かも知れぬ」


縫道石山の垂直に切り立った壁に張り付きこの会話を聞いていた旧鼠は、

「斯眼ちゃん、やばいよ、これは」と思い、即座に姿を消した。

半時程して天ケ森に居る狐に【葉書き】を書かせ、それを直ぐに送る様に指示を出すと狐に貰ったキジの足をかじりながら妖達が集まる場所へと歩いて行った。



中司家から帰った青狐は、母にお土産を渡し、母の背中を優しく擦っていた。

この所、母は、衰弱して来ている。

「優介さんのとこから戻って来たのかい。私が元気だったらこんな危ないマネさせないんだけどね、

すまないね、青」と言いながら少しずつ嚥下していく。

「・・・良いよ、おいら達は、優介兄ちゃんにおっきな借りがあるからね」

巣穴の入口に人が居る気配がした。

「青狐ちゃん、どこ? 青狐ちゃん」と呼ぶ声がする。

「優子さんだ、母ちゃん、優子さんが来てる。一寸、行って来るね」青狐が入口の逆から地上に出る。

「青狐、お前、母ちゃんまた、具合 悪いだろ」背後から優介の声が降って来た。

「あ、居た 居た」優子が走って来る。

「え、そ、そんな事ないよ」

「嘘をつけ、お前の体から薬草の匂いがしたから付いて来たんだ。何で言わない。」

優介が少し怒りながらしゃべる。

「青狐のお母さん、出て来て下さい。お医者さんに行きましょうね」

優子が穴を覗き込みながら優しく言う。

「優介、青狐ちゃんを怒るんじゃないわよ。全く」優子が優介に抗議した。

そろそろと青狐の母親がフラフラしながら出て来た。

優子が「狐の抱き方知らないから一寸、我慢してね」と優しく抱き上げ、胸の前で抱き抱える。

母狐は、「・・・」優子の顔をじっと見る。

「初めまして、優子です。心配しないで、優介もそこにいるよ」母狐に語り掛けた。

「さぁ、病院に行こうか」優介が言う。

優介と母狐を抱えた優子、それに青狐は 竹林を抜け、中司の駐車場へ行った。


「うーん、肺炎と腹水が、少し溜まっていますね」太っちょの医者が優子に言う。

「治りますよね」優子が聞く。

「一週間程、入院の必要がありますが どうします?」

「どうするって、入院させて治るんなら入院させますけど」優子が怒りだす。

「いや、この狐、どう見ても野生でしょ、院内のエサ、食べるかな」

「じゃ、自宅療養は どうすれば良いんですか?」

「とにかく体を冷やさない様にして安静、これしか無いですね」

「解りました。毎日、病院に通って自宅で安静、薬を飲ませる。これで良いんですよね」

優子が、少し怒りながら言う。

「じゃ、そこの出た待合室で待っていて下さい。炎症止めと鎮痛剤、栄養剤を注射します。その後、薬を3日分、出しますので食べ物に混ぜて飲ませて下さい」

優子と優介、優介が抱いている青狐は、待合室に追い出された。

待合室で待っているとシェパードを連れたおばさんが、入って来て、

「見慣れない犬種ですね」と優介が抱いている青狐を見ながら言った。

「あ、狐です」

「えっ、狐って飼えるんですか」

「家の傍に住んでる狐で飼ってはいませんよ」

「・・・野生って事?・・・・大人しいんですね、其れに懐いている・・・」

一般人で 狐を初めて見る人は、こんな反応だろなと優介は、思った。

「相馬さん、どうぞ 御入り下さい」

「あ、はーい」優子が勢い良く立ち上がると シェパードがびっくりして立ち上がった。

「ごめんね、びっくりさせちゃったね」優子がシェパードに誤り、診察室に入って行く。

5分程して優子が母狐を抱き上げ出て来た。

「お母さん、注射打って貰ったから少し、フラフラしてるけど大丈夫だからね」

優子が優介が抱いている青狐にそっと言う。

シェパードが尻尾を振りながら近づいて来るので

優子が片手を伸ばし、人差し指を上げて左右にふりながら

「それ以上、近づいたらダメですよ。ここに居る狐さん達は、野生ですからね。喧嘩になっちゃいますよー」と言うと シェパードは、元の所に戻って行った。

「わ、私や、主人の言う事、全然聞かないのに・・・貴女、いや、貴方達何者?」

目を白黒させている。

優子が、「通りすがりのた・ん・て・いです」・・・何処かで聞いたセリフだな 優介は思った。

会計に呼ばれたので俺は、青狐を優子の横に座らせて会計をし、薬を貰う。

再び、優子の傍に行って青狐を抱くと

「さぁ、帰ろうか」

「うん、帰ろう。帰るよ お母さん」と母狐の耳元にそっと言い、頭を撫でた。



優子が優介の部屋に毛布と段ボール数枚が運び込んで来て その中心で何かをやっている。

応接セットのソファの上には毛布に優しく包まれた母狐が寝ている。

その横には青狐が座っている。

段ボールを3重に重ねて少し長い目の箱を作り、

「出来た。あとは、この中に毛布を敷いて、完成しますよ。うーん、中々の出来だ。どうだ!」

優子が どや顔でこちらを見ている。

優介が見に行くと段ボールの内側に毛布が貼られ、下の段ボールと毛布の間にプラスチック製のスノコが置いてある。

「青狐、相馬工務店が、住処を作ってくれたぞ。一寸、見に来いよ」優介が青狐を呼ぶ。

青狐が 恐る恐る中に入って行く。

「壊れないよね」青狐が言いながらごろごろと自分の匂いを毛布に着けて行く。

「母ちゃん治るまで此処に居て良いんだよね」

「良いよ。どうよ、気に入っただろ」優子が答える。殆ど押付けに近い。

優子が 母狐をそっと抱えながら、その段ボールで出来た巣穴の奥に寝かせる。

「良し、これで良い。完成~♪」優子が自慢げにはしゃぐ。

「優介さん、自分の住処に行ってあれを取ってくるよ」青狐が言う

「ああ、頼むよ」優介が優子を見ながら答えると青狐は、走って窓から部屋を出て門を抜けて行く。


門を潜った青狐が走って戻って来たのを見て優子が

「あ、戻って来た。走るの早いな~、あ、川 飛び越えた。凄い、凄い」はしゃいでいる。

窓から飛び込んできた青狐は、直にソファのテーブルの前に行き、器用にノートを開き、書き込んで行く。

優子は、それをびっくりしながら見ていた。

「狐が!・・・? うっそ~。まじで。錯覚? いや、違うよね。現実よね」

取り乱している。

優介が優子の口に軽く手を当てて 片側の手を握り、人差し指を立てて自分の口に当て、優子の目を見る。

優子は、目を真ん丸にしながら こくこくと数回頷いた。

良く見ると、口に咥えて来た葉っぱをノートの横に置き、それを見ながら書いている事がわかった。

優子は、頭の中で、あれが【葉書き】なんだ。と一人納得する。

青狐は、時々、上を向いたり、うーんと唸ったりしながら作業して行く。

数十分、過ぎた頃、そのノートを咥えて優介に渡す。

優介が目を通すとその場に座り込み 書き始める。

(わかった おそれざん から ようりょくを きゅうしゅうしてる)

(よくわかるね)

(あのばしょで じぞうがいるのは そこしかない)

(そうなんだ)青狐が鼻先で一ヶ所を指す。

(はさみうちか ぎふのやつか)

(りょうほう)

(ぎふは なかつかさないぶのことかもしれない)

(そうか)

(はさみうちは どうする)

(きゅうしゅうへいく)

(きゅうしゅう?)

(いって かんぜんにおさえてもらう)

(できるの)

(しなきゃならん このじょうほうを ぜんいんに つたえてほしい)

(わかった すぐ やるよ)

(たのむ)

青狐は、窓から飛び出すと凄い勢いで門を抜けて行く。

「青狐、速いな。GT500も真っ青だ」優介が感心する。

「青狐君ってもう大人だよね~、お母さんを大事にしてるよね」優子が優介の隣に立って青狐を見送っていた。

優介が優子に ノートを見せる。

優子がノートを見て、黙って頷いた。

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