生きたい人間と生きたくない人間
絶望。
その二文字が今の自分に似合った言葉だと自信をもって言える気がする。
何故いつも死ねない。
何度だって死のうとした。
でも何かしらがいつも邪魔をするんだ。
やっと殺されて死ねると思ったら生き返り、自殺しようと思ったら木に引っかかる。
生きる意味なんてとうに失ったはずなのに。
「赤羅魏さん、退院おめでとうございます。あんな事、しないでくださいね。」
笑顔で看護師が言ってくる。
それなりの笑顔で俺も答える。
「はい、気をつけます。人生を改めて考えて素敵に生きていきたいと思います、命は大切に…」
くだらない。
振り返り家に帰ろうとすると目の前に見知った人間がいた。
「退院おめでとうございます。」
それは自分よりも背が小さく、栄養が足りずに死にそうな顔をしている。
「お前はいつになったら孤児院に入るつもりなんだ…」
ゲームで殺したにも関わらず俺に関わろうとするその姿勢は何処からわくのか。
「飯…」
「今日は餃子だから。」
俺の暗い部分を知る人間だ。
「アカラギ、俺お前を許さねーからな、裏切って殺しやがって。」
家に入った途端文句をぶつけてきた。
「そんな事言うなよ、アレはゲームだったんだ、結果死ななかったんだしいいんじゃ無い?」
笑ってみせる。
それでも顔の曇りは晴れない。
「また、死ぬつもり?」
「死にたい。」
「死んで逃げるつもり?」
「逃げたい。」
別に侮辱されたって、俺の心には何の怒りもわかないさ。
「そしたら俺も餓死で死んじゃうじゃん。」
「そんなの知るかよ」
体育座りをしていたら、背中合わせに座ってきた。
心臓の音が聞こえる。
今すぐ握り潰してしゃべれなくさせたいくらいだ。
「お前が死なないように、見てるから。」
「うるさいな、お前はとっととどっかいけ。」
頭を抱える。
ぐわんぐわんと音をたてながら頭痛が響く。
本当、こいつの言ってる事はわからない。
「アンタ、最悪だよ。こっちは必死に生きてるんだ、なのにアンタはその必死さを知らないで死のうとしてる、最低だ!」
その言葉にいらっときて、俺は思わずヒロキの胸ぐらをつかんだ。
「お前に何がわかる、お前はまだ餓鬼だ、クソ餓鬼だ!必死に生きてる?甘えるな!お前に俺の辛さがわかってたまるかよ!」
「あぁ、わかんねぇよアンタの苦しみなんざ一つとしてわかりたくないね!でもアンタだって餓鬼だ!子供みたいに死にたい死にたい、何が死にたいだ!何するのも勝手だ!でも死ぬのは許さない!僕が許さない!」
久しぶりに怒鳴ったからか、更に頭がクラクラしてきた。
それでも、こいつがムカつく。
「…クソ餓鬼。」
「っ…!!!」
首を締める。
一生懸命生きようとして喉仏が動いてるのがわかる。
その目が、俺を見た。
恨んでる。
「また…殺すのかよ。」
「あぁ、殺すさそして俺も死ぬ。」
「はは…ドラマみたいだな。」
ニヤッと笑ったあと、ヒロキは俺の手に噛み付いてきた。
「〜〜〜っ!!!!!!」
痛い。
本気で食いちぎろうとしたのではないだろうか、コイツ。
「アンタだけには二度と殺されたくないね。」
暫くの沈黙。
しかし、それはある一つの音に壊された。
ぐぅ…
「…」
「…」
「お腹すいた。」
少し恥ずかしそうに、ヒロキが言った。
「ふっ…ははっ、あははっ…!!!」
何故か、笑えてくる。
すごくどうでもよく感じてきた。
「餃子食べようか、作るから。」
そう言って俺は立ち上がった。
子供相手にあんなに熱くなって、馬鹿みたいだ。
どうせ餓鬼の戯言。
エプロンをつけようとしたときだ、ヒロキは口を開いた。
「アカラギは素敵な人だと思うよ。」
目を見開いた。
あまりに、突然で、頭が真っ白になる。
素敵?ふざけないで欲しい。
「俺はさ、アカラギに殺された…でも、アカラギにこうやって今飯も食わせてもらって生かされている。」
ヒロキはいたって真面目なんだろう。
一度だけ、俺も本音を言ってみせたい。
「俺だってお前に生かされている。夜中自殺用の薬を買う時お前に会って無ければ今頃死んでいたのに。」
雨の降る中歩いているヒロキに会った時、何故か助けてしまった。
後ろからクスッと笑う声が聞こえた。
「俺たちさ、お互い生かされてるんだな。」
「……そう、だな。」
朝だ。
大学に行く準備をして、振り返る。
「戸締まりはちゃんとしろ、あと遊びに行くのはいいけど俺のへそくりを使わないこと。」
「アンタのへそくりなんかしらねーよ。」
「保険だよ、保険。じゃ、いってきます。」
「今日も元気で、いってらっしゃい。」
手を振って玄関のドアをしめた。
まだ生きたいとは思えない。
でも生きてみようとは思えた。
生きる理由を探して。